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2018年10月17日

激しく責め立てられる「フェイスブック」に、なぜ世界のパブリッシャーは頼り続けるのか

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 米国や欧州のメディアによるフェイスブック(FB)批判は、凄まじい。米大統領選のトランプ当選や英国のEU離脱に端を発して、この1〜2年、FB叩きは過熱化する一方である。

 フェイクニュースやロシア疑惑、さらには個人情報の不正利用や流出と、FBを舞台にした不祥事が途絶えないから当然かもしれないが、どうしてここまで1企業の不手際に厳しく延々とメディアが責め立てるのか。それはFBが、今や世界中の人々の個人生活や社会にとって測り知れないほどの大きな影響を及ぼしているからだろう。世界の22億人以上の人々が毎月利用し、その66%にあたる15億人近くが毎日FB上で情報のやりとりをしている。先進国だけではなくて新興国も含めて、ほとんどの国で人々の生活に深く根付いたFBに対して、メディアが社会的責任を問い直すのももっともである。

 だが、メディアがしつこくFBを責め立てるのにはそれだけではなくて、別の理由もありそうである。この数年の間に、ソーシャル化とモバイル化で急変するオンラインパブリッシングの世界でFBが主導権を握り始め、パブリッシャーのメディアビジネスがFBの優位な形で展開せざる得なくなってきている背景がある。こうした流れに不満を募らせているブリッシャーとしては、FBとの交渉力を高めたいという思惑もあって、ここぞとばかりに自分たちのメディアを通してFBの問題点追及に力がこもるのも当然かもしれない。

 こうしたFBにまつわる騒動は、日本にとってほとんど縁のない動きである。ただ、海外のほとんどの国では現時点でも、パブリッシャーに対するFBの影響力は大きい。NYタイムズのような伝統的な二ュースパブリッシャーにとっても若中年層を開拓するためにFBが必須のプラットフォームになってしまっている。消費者(オーディエンス)も、FBを介してメディアコンテンツと接する機会を増やすようになっている。

 日本と海外においてFBの影響力に大きなギャップがあることは、いくつかの海外の調査データからも明らかである。英ロイター(Reuters Institute)が今年の1月から2月にかけて、36か国のニュースユーザー7万人(各国約2000人)を対象に実施した調査結果を見てみよう。各国の回答者のFB利用率(一般)と、FBをニュースメディアの接触の場として利用している回答者の割合(ニュース)を、国別に示したのが図1である。 

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図1 日常的にFBを利用しているユーザーの割合(一般)と、過去1週間にFBを介してニュースメディアの記事に接した人の割合(一般)を、国別に示している。 (ソース:Reuters Institute)


 ここでは、FBの利用が国内で禁止されている中国は調査対象外になっているため、日本だけが極端に、FB上でニュースメディアに接触する人の割合が9%と低くなっている。またメディア先進国以上に新興国において、メディア接触の場としてFBを利用している割合が高くなっているのも興味深い傾向である。こうした日本と海外との差異が、メディア社のFB対応にもはっきりと反映されている。

世界の主要パブリッシャーがFBの手のひらに

 各国の主要ニュースパブリッシャーのFBページが抱えるフォロワー数を図2に示す。海外の大手ニュースメディアが500万人〜4000万人規模の大多数オーディエンスからフォローされているのに対し、日本の主要ニュースメディア(日本語版)はわずか5万人〜35万人くらいしかフォローされていない。1桁どころか2桁くらいの差がついている。

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図2 代表的な総合ニュースメディア(デジタル版)のFBページのフォロワー数(2018年9月23日のデータ)。ここでは、メディアブランドの旗艦FBページだけのフォロワー数を示している。


 海外の主要パブリッシャーがFBに飛びつくのは、グローバルに若年層を含んだ巨大な潜在ユーザーにリーチできるからである。ほとんどの国で、有力パブリッシャーがFBを頼っている。さらに拡散性が極めて高くて、一気に多くのオーディエンスを獲得できる強力な飛躍台にもなりうるため、新興メディアにとっても立ち上げ時にはFBの利用が欠かせなくなっている。

 国際展開するパブリッシャーも、FBは格好のプラットフォームになっている。英国の公共メディアのBBCは、図1に示したように英語版の旗艦FBページ(BBC News)が4755万人のフォロワーを擁しているほかに、各国の現地語版FBページにも多くのフォロワーを抱えている。例えばベンガル語版BBC Newsは1223万人ものフォロワー数を誇っている。逆にやっぱりというか日本語版のBBC News Japanでは約2000人からしかフォローされていない。

中国の国営メディア、国内使用禁止のFBをフル活用

 FBを活用した国際展開で目立つパブリッシャーとなると、中国国営テレビ放送局CCTV(China Central Television)の躍進が見逃せない。中国国内では利用を禁止されているFBを、一転して国際展開ではフル活用しているのだ。英語版CCTVのFBページ(CCTVcom)のフォロワー数は、この1年間だけで約600万人も増えて約4800万人に達し、英語版BBCを追い抜いた。さらにCCTV傘下のCGTN(China Global TV Network)も、TV(動画)コンテンツを中心にFB経由で世界中に配布し、オンラインで視聴できるようにしている。図3で示すように、FBだけではなくて、TwitterやYouTubeでも配信しているが、フォロワー数から明らかにFBへの依存が圧倒的に高い。FBページのフォロワー数は、英語版のCGTNが6800万人で、フランス語版、アラビア語版、スペイン語版のCGTNでそれぞれ1500万人前後も抱えている。中国にとって都合の良い国際世論作りを狙って、FBを利用してコンテンツを世界中に効率よくばらまいているのである。最近では一帯一路に関する記事が目立つ。

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図3 中国国際テレビCGTNのFBページのフォロワー数。旗艦の英語版に加えて、フランス語版、アラビア語版、スペイン語版のそれぞれが擁する主要SNSのフォロワー数を示している。

パブリッシャー、ユーザー、広告主にFB離れの兆しが

 このように世界中の主要パブリッシャーがFBをプラットフォームとして活用していたのだが、そうしたパブリッシャーからFBが社会の敵と言わんばかりに噛みつかれている今、今後の成り行きが気になるところだ。すでに、いくつかのパブリッシャーはFBページの投稿数を減らし、FB依存から脱皮する動きが出始めている。ブラジル最大の新聞、Folha de S.Pauloのように、FBページへの投稿を止めたパブリッシャーも。ニュースフィード・アルゴリズムの変更で、良いニュースが減りフェイクニュースが増えているFBには、投稿したくないと発表した。同新聞サイトのFBページのフォロワー数は今でも約600万人も抱えているが、今年の2月上旬以降、記事を全く投稿しないままだ。ただし、636万人のフォロワーを擁するTwitterには記事の投稿を続けている。

 同じような理由で、ブランド毀損を警戒して一部の大手広告主も、FBへの広告出稿の中止に動いている。FBの収益源の大半を占める広告売上は一本調子で伸びていたが、ここにきて市場調査会社が一斉にFBの広告売上予測を下方修正した。さらに、消費者(オーディエンス)であるFBユーザーも、#DeleteFacebookと掛け合ってFBアカウントの削除に動き始めている。米Pew研究所の調査(今年5月末〜6月上旬)でも、米人の26%がこの1年間でスマホのFBアプリを削除したとなっている。

 このように八方ふさがりで追い詰められるFBは打撃を被るのは避けられない。でもどうも表向きはそうでも、実際はちょっと違うようだ。影響力のある有力パブリッシャーも、厳しくFBをこき下ろすくらいなら、投稿数を大きく減らしてFB離れの行動に出ればいいのに、実際にはほとんどこれまで通りFBページの投稿に力を入れている。その結果として、例えばNYタイムズのFBページのフォロワー数は、この1年間だけで200万人以上も増えて現在1655万人を超えている。また図4に示すように、FBへの投稿記事もオーディエンスの反応が落ちるどころか高くなっている。メディア分析会社NewsWhipはFB掲載記事の月間エンゲージメント(いいね!数+コメント数+シェア数)総計を公表しているが、NYタイムズなどの有力ニュースパブリッシャーの月間エンゲージメントは、FBの悪評記事が氾濫している間でも、総じて上向いている。ジャーナリズムを標榜するNYタイムズやワシントンポストは、硬い記事が多いにもかかわらず、FBのオーディエンスから高いリアクションを得ているのだ。

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図4 主要ニュースブランドの月間エンゲージメント総数の推移 (データソース:NewsWhip)


 FBは今年1月にも、ニュースフィード・アルゴリズムに変更を加えていた。ニュースフィードには友達のコンテンツを優先して表示し、メディアコンテンツの表示回数を減らしてきている。信頼できるパブリッシャーからの優れた記事に絞ってニュースフィードに表示しているという。その煽りを食って、FBへの依存度が高い新興メディアの中には、アルゴリズム変更でエンゲージメントとトラフィックが激減し、閉鎖に追い詰められるパブリッシャーブランドも出てきた。一方で影響力のある伝統ニュースパブリッシャーは、アルゴリズムの変更でも冷遇されることがなかったのか、上で述べたように、月間エンゲージメントがかえって増える傾向が見られた。

 社会的に影響力のある有力パブリッシャーは結局、FBと断交しないで、これまで通りFBに頼り続けることになるのだろう。グローバルなソーシャルプラットフォームとして利用せざる得ないのが現実だ。またユーザーも、ネットサービスの好感度調査では決まって、FBサービスの人気をGAFA(Google、Apple、FB、Amazon)の中で最も低く見ているが、実際には利用者数も利用時間も減っていなくて上位を走り続けている。確かに先進国のZ世代(10代)を中心にFB離れが見られるものの、グローバルには成人のFB人口が新興国を中心に増え続けており、特に毎日利用するDAUはまだ伸び勢けている。

嫌でも離れられない

 要するに、パブリッシャーもユーザーも、嫌であってもFBから離れられないということか。この流れを読み取って市場調査会社も、下方修正していたFBの広告売上予測を、ここにきて上方に再修正し始めている。もともと同社の広告売上高は、デジタル広告市場の追い風に乗って、伸び率が少々鈍ったとしても増え続けている。ただ勢いを知るにはシェアがどうなっていくかが重要である。例えばeMarketerは昨年まで、FBのデジタル広告売上の米国市場シェアが、今後ともアップしていくと予測していた。ところが今年3月の予測では、2017年の19.9%から2018年の19.8%、さらに2020年には19.3%と、初めて下降線をたどると発表していた。それが最新のシェア予測では、2018年に20.6%、2020年に20.8%へと上昇すると上方修正している。広告主もFBから離れられないのか。

 グローバルなソーシャルプラットフォーマーとしてFB天下がまだ続く勢いを失っていない。でも、ここまで深刻な個人情報の流出が続くと、各国の公的機関は何らかの規制を課せざるえないだろう。その規制対策で膨大なコストが嵩み、またサービスの魅力が色あせることになるかもしれない。 

◇参考
・ The top Facebook publishers of September 2018(NewsWhip)
・ Amazon Is Now the No. 3 Digital Ad Platform in the US(eMarketer)



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posted by 田中善一郎 at 17:04 | Comment(0) | メディア
2018年09月19日

動画配信のソーシャル系プラットフォーム、グローバルで抜きん出ているのは「YouTube」か「FB」か「Instagram」か

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 テキストから写真・イラストに、そして今や動画へと、ネット上のコンテンツの主役が変わってきている。その動画コンテンツが2~3年後には、世界のインターネットトラフィックの80%以上を占めるという。さらに、動画コンテンツを爆速に配信する携帯5Gサービスもいよいよ離陸しようとしている。

 すでに、動画コンテンツを作りインターネットに投稿し配信するのは、パブリッシャーのみならず、ブランド企業や個人でも、当たり前になってきている。こうした動画コンテンツがいち早く、幅広いネットユーザーに視聴されるようになってきた背景に、ソーシャル系のプラットフォームの役割が大きい。

 動画メディアの調査会社である米Tubular Labsが、動画配信のプラットフォームであるSNSにおいて視聴回数の多いパブリッシャー(クリエーター)のランキングを毎月公表しているが、今年8月の結果を図1に示す。ここではグローバルに動画配信に利用されている主要SNSの「Facebook」、「YouTube」、「Instagram」において、どれくらい視聴されているかを示している。


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図1 SNSで視聴回数の多いパブリッシャーのランキング。トップ25のパブリッシャーと、ランク外から6パブリッシャーについて、それぞれのSNS別の視聴回数を示している。Twitterなどのプラットフォームでの視聴がここでは示されていない。このため実際の視聴回数はもっと多いはず。


検索性のYouTubeと拡散性のFacebook

 トップ25に入るパブリッシャーともなると、SNSだけで月間10億回近く視聴されている。多くのパブリッシャーは、複数のSNSで動画コンテンツを配信して多くのユーザーに閲覧してもらうために、分散型メディアを採用している。だが実際には図1に示すように、特定のSNSに依存している場合が目立つ。

 かつては、動画配信といえばほとんどYouTubeの独壇場であった。ところが数年前あたりから、モバイル化・ソーシャル化の追い風を受けて、パブリッシャーが次々とプラットフォーマとしてFacebookへの依存を強めていた。米欧だけではなくて新興国においてもだ。パブリッシャーのコンテンツの中心がテキストから写真・イラストに移るに伴い、Facebookはバイラルメディア環境を整え、オンラインメディアの主導権を握るようになっいた。続いてFacebookは次の一手として、パブリッシャーに対して動画コンテンツの投稿を強力に促した。コンテンツのエンゲージメントが大幅にアップすると売り込んだ。

 パブリッシャーもその働きかけに応じて、Facebookへの動画コンテンツの投稿に動き始めた。最初に大きく開花したのが短尺の料理動画である。例えばBuzzFeedのTastyは、3年ほど前に、月間視聴回数が20億回を突破する勢いを見せつけた(「月間ビュー数が億回超えの「料理動画メディア」が続出、レッドオーシャン化の兆しも」を参照)。料理に続いて、その他の分野の動画コンテンツも、世界中のパブリッシャーが競って投稿するようなり、動画配信プラットフォームとして、FacebookがYouTubeに対抗する存在になってきた(他国に比べFacebook普及率の低い日本はそうではない)。

 Tubularはこのほど、YouTube と Facebookのそれぞれにおいて、視聴回数の多かったジャンル別動画コンテンツのランキングを発表した。図2に、今年の第2四半期における視聴回数を示しているが、料理(Food & Drink)分野だけだはなくて、エンターテイメントやニュースの注目分野でも、FacebookはYouTubeと激しく競い合っている。


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図2 YouTube 対 Facebook。視聴回数の多かったジャンル別動画のランキング。2018年第2四半期の視聴回数(単位は10億回)。ここでの動画コンテンツはほとんど無料で広告やeコマースなどを収益源としている。映画やTVドラマ、スポーツ実況などの課金型の動画配信にもYouTube や Facebookは力を入れ始めており、Netflix、Hulu、Amazon、Appleなどの新たな競合相手との戦いがすでに始まっている。


 図1のトップ25のパブリッシャー(クリエイター)が活用している動画配信プラットフォームを見ても分かるように、パブリッシャーは戦略的にYouTubeとFacebookを使い分けしているようだ。

 音楽や子供向けなどの動画配信サービスを手掛けていたパブリッシャーは、やはりYouTubeに頼っている。トップ25の1位のT-Seriesは音楽や映画のプロモーション動画を配信しているが、今年8月には30億回もYouTubeで視聴されており、ほとんど100%に近くYouTubeに頼り切っている。4位の子供向け動画のCocomelonも、18億回以上の視聴すべてがYouTubeにおいてであった。賞味期間が長いストック型コンテンツは検索エンジンからの利用も多いことから、YouTubeが向いている。

 一方、ニュースメディアのように、数多く投稿する動画コンテンツを、次々とユーザーに消費してもらいたいパブリッシャーは、Facebookを優先して活用している。フロー型の動画コンテンツでも、拡散性が特徴のFacebookだと短期間に多くのユーザーに視聴される可能性がある。バイラル性の高い動画を次々と投稿しているトップ25の3位のLADbibleや同9位のUNILADは、投稿動画の視聴の大半をFacebookに頼っている。

 ただ、上の例のようにYouTubeあるいはFacebookの特定プラットフォームに頼り切るのは危険である。そこで最近、特定プラットフォームの依存から脱皮して、分散型メディアに変えていこうとするパブリッシャーが急増している。既に、DIY動画で人気ナンバー1の5-Minute Crafts(トップ25の3位)は、8月の視聴回数がFacebookで8.7億回、YouTubeで8.6億回、Instagramで3.7億回とバランスよく分散させている。動物動画で日本でもファンの多いThe Dodo(13位)は、YouTubeやInstagramでの視聴を増やして、Facebookへの依存を減らしている。


動画配信でも勢いづくInstagram

 旬のInstagramが動画配信プラットフォームとして急成長していることも、見逃せない動きである。上で紹介した5-Minute CraftsやThe Dodoでも、Instagramでの視聴回数をこの2~3年一気に増やしてきている。若年層に的を絞って動画を提供したいパブリッシャーは、Instagramへの投稿に全力投球するのも効果的である。トップ25で2位のWorldStar Hip Hop // WSHHは8月にInstagramだけで約16億回、また同8位の9GAG: Go Fun The WorldはInstagramだけで約11億回も視聴されていた。


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図3 InstagramのWorldStar Hip Hop // WSHHページ。約2000万人のフォロワーを擁している。今年8月の1か月間で、投稿した動画コンテンツがInstagram上で16億回も再生された

 
 今や動画配信の3大ソーシャル系プラットフォームとして、YouTubeとFacebookに加えてInstagramがのし上がってきたと言える。Facebook一辺倒で動画を提供していた新興パブリッシャーが、最近は相次いで、Facebookへの依存を減らす狙いもあって、InstagramやYouTubeでの視聴回数を増やす施策を講じている。例えば料理動画のTastyは、1年半ほど前までSNSでの動画視聴の約95%がFacebook上であったが、今年8月には約50%にも減っている(図1で示すように、Facebookが4.1億回、YouTubeが1.1億回、Instagramが2.9億回)。


Facebookを活用すれば、かつてのバイラルメディアのような急発進の可能性も

 先進国で若者を中心にFacebook離れが少し進んでいるといっても、日本市場と違って、けた違いの規模感と、今でも圧倒的なシェアを誇っている。それに広域に渡っての極めて拡散性が強いSNSである。このため動画サービスを手掛けるスタートアップでも、Facebookをプラットフォームとして活用すれば、短期間で信じられない規模の視聴回数を獲得する可能性がある。

 トップ25の15位に突如登場したFake Outrageは、日常生活の便利な道具(新製品)を紹介する短尺の動画サービスであるが、凄まじいロケット発射を成し遂げている。今年の6月まで投稿した動画はほとんど視聴されなかったのが、7月にはFacebookで約1億回視聴され、さらに8月には10倍近い9億4600万回も視聴された。Facebookの累積フォロワー数も、6月までほとんどいなかったのが、7月に3万4400人、8月に21万5000人(9月18日には219万人)と急増している。まさに5年ほど前に起こったバイラルメディアの再来なのか。Facebookが備えもつ恐ろしいまでの拡散性を再認識した。


図4 Fake Outrageの動画コンテンツ。Facebookを動画配信プラットフォームとして活用することにより、わずか2カ月の間に10億回近い動画視聴回数を達成。


 ここで見てきた3大動画配信プラットフォームであるYouTube、Facebook、Instagramはいずれも、開発途上国も含んでグローバルにかなり普及している。また動画コンテンツは言葉の壁が比較的低いし、最近ではテキストの説明やコメントなども自動翻訳が進んでいる。このため国境を越えたグローバルな動画サービスが手軽に実現できる環境が整ている。

 図1で示したトップ25のパブリッシャーも発信国には開発途上国も多い。1位のT-Series、6位のSET India、それに23位のZee Music Companyはいずれもインド産である。3位の5-Minute Craftsはキプロス、22位のnetd müzikはトルコ、24位のBadabun、25位のCanal KondZillaはブラジルが発信国である。

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posted by 田中善一郎 at 07:05 | Comment(0) | TV  ビデオ ラジオ
2018年09月11日

SNS上のニュースは不正確だと認識しながら、米成人の68%がSNSを介してニュースと接している

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  アメリカの成人の約3分の2がSNSを介してニュースと接している。Pew Research Centerの最新の調査結果である。

 Pewが今年7月30日〜8月12日に実施した調査”News Use Across Social Media Platforms 2018"の結果を図1に示す。SNSを介してニュースと出会っている成人の割合が、今年は68%となった。

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(ソース:Pew Research Center)
図1 SNSを介してニュースと接触している米成人の割合

 2年前の2016年の62%、昨年の2017年の67%、そして今年の68%と増えてきているのだ。この2年間、SNSのニュースコンテンツについて、フェイクニュースとか極端に偏っているとか、さらに接触する消費者個人の情報が不正に利用されているとかで、各国の機関やメディアから毎日のように厳しく叩かれ続けているにも拘わらずである。SNSを介してニュースと接している消費者自身も、図2に示すように、58%の人はSNSで出会うニュースの多くが不正確であると答えている。


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(ソース:Pew Research Center)
図2 ソーシャルメディア・ニュース消費者の何%がSNSで出会うニュースを正確だと見ているか?


 ただアメリカの伝統的なニュースメディアはリベラル派が以前から多いこともあって、エリート意識の高いニュースメディアに対する共和党支持者からの反発が高まっている。トランプ大統領の出現もあり、共和党支持者の72%がSNSのニュースコンテンツの多くが不正確だと声を大きくしているのだろう。逆に民主党支持者は不正確だと答えて割合は46%と比較的少ない。

 もともと、ソーシャルメディアのコンテンツを鵜呑みにする人は少ないはず。2年ほど前に、英ロイターが実施したデジタルニュースのユーザー調査を思い出す。米英のニュース消費者は、エンターテイメント性の高いバイラルニュースをSNS上で楽しむ一方で、正確なニュースを得るためにNYタイムズのような伝統メディアとも接していた。正確さよりも面白さ重視の軟派系新興ニュースメディアと、正確さ重視の硬派系伝統ニュースメディアを併せ読みする人が多いということだった。ちなみに同じロイターの調査によると、日本人は楽しさ重視で、軟派ニュースに関心を持つ人の割合が調査対象の26か国中で最も高かった(「日本人のニュースメディア接触、先進国の中で際立つ特異性、ロイター調査が浮き彫りに」)。

 
 不正確なニュースコンテンツが氾濫していることを認識しながらも、モバイル化、ソーシャル化の流れに乗って、アメリカ人はSNSを介してニュースと接する機会が減りそうもない。SNSもメッセンジャーも含めると種類が増えている。図3に、代表的なSNSで米成人の何%がニュースと接しているかを示している。Facebookが43%と最も多く、次いで21%のYouTube、12%のTwittertが続いていた。Facebookは昨年の45%から2%減となったが、アメリカのニュースパブリッシャーにとってはまだまだFacebookは頼らざる得ない存在である。


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(ソース:Pew Research Center)
図3 ニュースメディア消費者の多い代表的なSNS

 ソーシャルメディア・ニュース消費者の各SNSのデモグラフィックデータが興味深い。ここではニュース消費者の多いトップ7種のSNSを取り上げている。ビジネスパーソン特化のLinkedIn、10代のZ世代に絶大人気のSnapchat、ニュースオタクがはまってしまうReddit、の個性豊かな3SNSは、残念ながら日本では開花しないままに終わりそう。

 トップ4種のSNSは米国だけではなくて、日本を含むグローバルに浸透している。米国のニュース消費者の各SNSのデモグラフィックデータは、以前から気になっていたが、相変わらず意外性がある。まずFacebookでは、女性比率が61%で白人比率が62%と高いのに驚く。男性はLinkedIn(男性比率が64%)やReddit(男性比率が72%)を利用するようになっているのだろう。
 
 Facebookの白人比率が62%と高いのに対して、Instagramでは白人比率が35%と極めて低い(昨年は32%)のも驚きだ。またTwitterのニュース消費者に高学歴者が多いのも、ちょっと意外であった。エリートビジネスパーソンが多そうなLinkedInや技術オタクがたむろするRedditのニュース消費者は高学歴者の割合が多いのは理解できるのだが・・・。

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(ソース:Pew Research Center)
図4 ソーシャルメディア・ニュース消費者のプロフィール


◇参考
・News Use Across Social Media Platforms 2018(Pew Research Center)

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posted by 田中善一郎 at 18:16 | Comment(0) | 新聞 ニュース
2018年07月28日

勢いが続く「LINE」「Instagram」「YouTube」「Twitter」、勢いが陰る「Facebook」

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 ソーシャルメディアの勢いは、日本国内でもまだ衰えそうもない。「LINE」「Instagram」「YouTube」「Twitter」のいずれも、ユーザー数が増え続けている。でも有力SNSのなかで「Facebook」だけが、ユーザー数が減り始めているようだ。

 総務省が先週公表した「平成29年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」で明らかにした主要ソーシャルメディアの利用率推移からも、主要SNSの勢いの違いが読み取れる。今回の調査は、平成 29 年 11 月 11 日(土)〜17 日(金)に13 歳から 69 歳までの男女 1,500 人を(性別・年齢 10 歳刻みで 2017 年 1 月住民基本台帳の実勢比例)を対象に実施した。本調査研究は、総務省情報通信政策研究所が東京大学大学院情報学環との共同研究の形で行っている。

 同調査では2012年から代表的なソーシャルメディア系サービス(画像等の共有サイトも含む)の利用率を調べている。ここでは、その中からLINE、Facebook、Twitter、それに画像系のYouTube(2014年以降)、ニコニコ動画(2014年以降)、Instagram(2015年以降)の利用率推移を取り上げて、図1〜図6に掲げる。全世代および年代別の推移を示している。

 まず注目すべきは、LINEが2017年末に全世代通しての利用率が75.8%と前年の67%から大幅にアップし、YouTubeを抜き去ってトップに躍り出たことである。年代別で見ても、10代以外のすべての世代で最も高い利用率となっている。中でも、50代が53.8%から67.1%へ、60代が23.8%から39.8%へと、この1年間における高齢者の急増が際立った。

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(ソース:総務省)
図1 LINEの利用率の推移(全世代と年代別)


 Facebookは、世界の大半の国でナンバー1に居座っているのに日本では伸び悩み、とうとう昨年末に全世代通しての利用率が31.9%と前年の32.3%よりも減ってしまった。最も熱心なユーザーが多いはずの20代と30代で減り始めているのが厳しい。2018年第2四半期の決算発表でも、北米のDAU(Daily Active User)が前四半期比横ばい、欧州のDAU 数が同微減となっており、先進国での勢いに陰りが見え始めている。

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(ソース:総務省)
図2 Facebookの利用率の推移(全世代と年代別)


 一方のTwitterは、グローバルに見ても日本がもっとも勢いのある国になっている。全世代通しての利用率が31.1%と増えており、Facebookと肩を並べている。10代や20代の若年層に至ってはTwitterがFacebookを大きく上回っていた。

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(ソース:総務省)
図3 Twitterの利用率の推移(全世代と年代別)


 YouTubeは、LINEと同じように、若年層だけではなくて、高齢層の利用も増えている。全世代通しての利用率も72.2%と着実に高くなっている。10代(13歳以上)の利用率が93.5%とは凄い。

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(ソース:総務省)
図4 YouTubeの利用率の推移(全世代と年代別)


 今や旬のInstagramの勢いもすさまじい。20代の利用率が52.8%となり、親方のFacebookの52.3%を上回った。全世代の利用率を男女別で見ると、女性が31%で男性が19.4%であった。女性の利用率も、Instagram(31%)がFacebook(30%)を追い抜いている。女性パワーがさく裂している。


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(ソース:総務省)
図5 Instagramの利用率の推移(全世代と年代別)


 動画系のニコニコ動画は、有料のプレミアム会員数が減り続け先行き不安が膨らんでいるが、昨年末の利用率は再びプラスに転じている。本格的な回復基調に戻れるかどうか。

2017soumuニコニコ動画.png
(ソース:総務省)
図6 ニコニコ動画の利用率の推移(全世代と年代別)


 先週、FacebookとTwitterの決算発表の後、両社の株価が暴落した。その背景として、米国や欧州でユーザー数が頭打ち、あるいは減る傾向が見られたことがある。そこで早くも、ソーシャルメディア全盛時代が終ろうしているとの声も出始めている。

 そこで、米国における主要ソーシャルメディア系サービスの利用率の推移を見ておこう。今年1月にPew Reseach Center実施した2018年調査結果を加えたグラフを図7に示す。FacebookやTwitterのような先行SNSに成長の鈍化が見られるものの、その間に後発のInstagramやSnapchatが急成長し、さらに日本では鳴かず飛ばずのPinterestやLinkedInがそれぞれ29%、25%の高い利用率を維持している。このように多様なSNSを複数、用途に応じて使い分けしており、主要SNSの利用率の総計では図に示すように増え続けている。

 また先進国で先行SNSで天井感が出てきているが、若年の人口層が厚い開発途上国では、ソーシャルメディア系サービスの利用率はしばらく増え続けるだろう。先週のFacebookの決算発表時のデータを見ても、例えばアジアパシフィック地域のFacebookのDAUが5億4600万人と、1年前の4億5300万人から大幅に増やしている。ソーシャルサービスが失速し始めたというのは早すぎそう。


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(ソース:Pew Research Center)

図7 米国におけるソーシャルメディア系サービスの利用率の推移。利用率が20%を超えるサービスが増えている。 


 最後に、グローバルに人気の高いソーシャルメディア系サービスのFacebook、YouTube, Twitter, Instagramの利用率が、日米でどう違うかを見ておこう。Facebookを除けば、ほぼ同じ傾向を示している。グローバルにはローカルSNSであるLINEが、日本ではFacebookにとって代わる地位を確保してきているということか。
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(データ:総務省、Pew Research Center)

図8 ソーシャルメディア系サービスの利用率の比較(日本と米国)。日本は総務省が2017年11月中旬に13歳以上の人を対象に実施した調査結果。米国はPew Research Centerが2018年1月上旬に18歳以上の成人を対象に実施た調査結果。




◇参考
・平成29年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書(概要)(総務省情報通信政策研究所)
・Social Media Use in 2018 (Pew Research Center)

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posted by 田中善一郎 at 10:51 | Comment(0) | Web2.0 SNS CGM
2018年06月30日

TVニュースだけではなくてオンラインニュースも「NHK」が支配していくのか

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 NHKブランドが日本国内において、ニュース分野でも圧倒的な存在感を示している。伝統メディア(TV、ラジオ、プリント)のみならずオンラインメディアにおいてもだ。

  前回のブログで紹介したロイターの「Digital News Report」2018年版でも 、日本人回答者2033人に伝統メディアやオンラインメディアでどのニュースブランドに接しているかを問うており、その結果でもNHKブランドが特出していた。ここで言うニュースブランドは、オリジナルのニュースコンテンツを作り出しているニュースパブリッシャーである。オンラインでのアグリゲーターやソーシャルメディアは対象としていない。

 日本のニュースユーザーがよく接するニュースブランドが、伝統メディアでは図1のように、オンラインメディアでは図2のようになった。メディア環境が激動した2年間の変化を追うために、2016年と2018年の調査結果を掲載した。

 伝統メディアでは、テレビ局ブランド(青色)が上位を占め、その後を新聞ブランド(黄色)が続いている。2年前の2016年には、トップを走っているNHK newsに回答者の57%が週(Weekly)1回、回答者の25%が頻繁(main)に接していた。それが2年後の今年は、週1回程度接する人の割合は変わっていないが、頻繁に(週に3回以上)接する人は44%とほぼ倍増している。NHK newsの人気はともかく高くなっている。

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(ソース:Reuters Institute)
図1 伝統メディア(TV、ラジオ、プリント)の人気ニュースブランド。背景の青色がテレビ局ブランド、黄色が新聞ブランド。



オンラインニュースでもNHKブランドがトップに

 次にオンラインメディアを見ていこう。今年のロイターの調査は世界37か国のニュースユーザーを対象に同時期に一斉に実施しているが、ニュースブランドの利用調査では日本を含めYahoo! Newsもニュースパブリッシャーとして分類していた。米国などのYahoo! Newsではオリジナルコンテンツの割合が高いためであろう。でも米トラフィック解析会社Parse.lyのようにYahoo! Newsをアグリゲーターとして分類している会社も少なくない。日本のYahoo! Newsもオリジナルコンテンツに注力し増やしてきているが、まだまだアグリゲーターの役割が大きい。そこで、オンランメディアのニュースブランド・ランキングで、図2のようにYahoo! Newsがトップに立っているが、ここではアグリゲーターと見なして外すことにした。

 そこでランキングを見直すと、オンラインメディアでも上位にテレビ局ブランド(青色)が占めている。ここでも、この2年間で一段と人気急上昇したNHK news onlineがトップを独走している。オンラインニュースサイトでは新聞ブランド(黄色)が先行していたはずなのに、テレビ局ブランドが上位を占めているとは・・・。動画コンテンツが充実していることや、TVニュース番組と連携することもあるので、テレビ局ブランドがオンラインでも目立ってきているのか。また日経ビジネスや東洋経済のような雑誌ブランドが顔を出してきたのも興味深い。

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(ソース:Reuters Institute)
図2 オンラインメディアの人気ニュースブランド。背景の青色がテレビ局ブランド、黄色が新聞ブランド



人気ニュースブランドが頻繁に利用され一段と躍進

 図1と図2のロイター調査で興味深かったのは、この2年間の激動のニュースメディア環境において、人気ニュースブランドを頻繁に利用するユーザーが増えていることだ。これは海外でも同様の傾向が見られ、ニュースニーズが確実に増しているのであろう。

 そこで、頻繁に利用される、つまり週に3回以上利用されるニュースブランドのランキングに着目してみた。図3に伝統メディアのランキングを、図4にオンラインメディアのランキングを示した。グラフでも示したように、この2年間で、人気ニュースブランドを頻繁に接するユーザー数が急増している。

 伝統メディアでは、NHKブランドが2016年の25%から2018年の44%に、TV朝日ブランドが同8%から25%へと躍進している。またオンラインメディアでは、NHKブランドが5%から13%に、日経ブランドが4%から7%へとアップしていた。


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(ソース:Reuters Institute)
図3 伝統メディアで頻繁に利用されるニュースブランドは? 世界のトップクラスの発行部数を誇る保守系新聞の読売新聞(856万部)は回答者の10%しか、またリベラル系新聞の朝日新聞(626万部)は回答者の12%しか、頻繁に閲読されていなかった。完全に、TV局ブランドの後塵を拝している。



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(ソース:Reuters Institute)
図4 オンラインメディアで頻繁に利用されるニュースブランドは? 新聞の日経ブランドが2位に。twitterフォロワー数ランキングでも、297万人の日経新聞に256万人のNHKニュースが迫ってきている。


公共放送の信頼性を武器にTVニュースの視聴率で圧勝し、オンラインでも優位に

 TVニュースでNHKが圧勝していることは疑いの余地がない。ビデオリサーチ社の視聴率(6月11日(月)〜6月17日(日)でも、関東地区の報道部門の視聴率ランキングのトップ10は、テレビ朝日の報道ステーションを除いてすべてがNHKブランドであった。NHKニュースおはよう日本・首都圏やNHKニュース7が常連で、約11%〜約15%の世帯視聴率を得ている。

 伝統メディアでは、NHK以外の民放ブランドもプリントの新聞ブランドよりも多くの人に接触されている。ビデオリサーチのデータを見ても、コメント中心の民放のニュース番組の人気は高く、教育・教養・実用【関東地区】部門で、TBSのサンデーモーニング、日本テレビの真相報道バンキシャ!、テレビ朝日の羽鳥慎一モーニングショーといった番組は10%台の視聴率を得ていたりする。バラエティーなども含む全番組のランキング(例えば「放送研究と調査」)でもニュース番組が数多く上位に食い込んでおり、TVニュースの人気は根強い。
 TVニュースが人気が高いのは、なんやかんや言われながらも、信頼されているということか。ロイターの調査でニュースブランドの信頼度ランキングを国別に発表していたが、日本で最も信頼度の高いニュースブランドはNHKとなっており、テレビ局ブランドも上位にランクされている。新聞系は日経と地方紙は高かったが、全国版一般紙の新聞ブランド、特にリベラル系はあまり信頼されていない。

 NHKは2~3年前までは、前会長の「政府が右というを左といえぬ」発言もあって、信頼性が揺らいだ時期が続いた。だが最近は、優れたドキュメンタリーを連発し、NHKコンテンツの信頼感がぐんと高まっている。図3と図4のように、オーディエンスのNHKブランドに接する頻度が上昇しているのもそのせいであろう。

 予算や人材が潤沢な公共放送だからできる技かもしれない。ヨーロッパの主要国でも、英国のBBCのように公共放送のニュースが大きな役割を果たしてきた。英、独、イタリア、オランダ、スウェーデンなどでは、伝統メディアで人気トップのニュースブランドは、公共放送ブランドとなっている。でも公共のメディアブランドが、伝統メディアだけではなくて新しいオンラインメディアまでも支配する国となると少ない。自由なオンラインメディアでは、公共ブランドが劣勢に立たされれても不思議でない。たとえば ドイツでは、伝統メディアは公共のARDがトップであるが、オンラインメディアでは雑誌ブランドのSpiegelなどが優位に展開している。

 でも英国のBBCは、伝統メディアだけではなくてオンラインメディアでも圧倒的に優位に立っている。視聴料を払っている国民から信頼を得るために、絶えず政権から距離を置き独立性を堅持しようと努めている。同じように日本のNHKも、今年のロイターの調査結果によると、伝統メディア(TVニュース)だけではなくてオンラインメディアも支配する勢いを見せている。政治報道に偏りが見られるとの批判もあるが、日本人は権威を信頼する傾向が強いとロイターに言われるように、オンラインニュースもNHKに支配されていくのか。 

 NHKとしても、 若者のTV離れ伴い、若者のTVニュース離れ対策も打たなければならない。NHKの目玉のNHKニュース7の視聴率(2017年)は、50代男性が8%、50代男性が14%、70歳以上男性が33%と高齢者に支持されているものの、10代~30代男性の視聴率が1%〜2%に落ち込んでいる。NHKも若年層にはオンラインで攻めるほかはないのだ。


オンラインニュース利用がTVニュース利用を下回る

 モバイル化、ソーシャル化が加速するに伴いオンラインニュース利用が増え続け、一方で、TV離れに伴いTVニュース利用が減っている。グローバルに共通のトレンドと思っていたのだが・・・。ところが国によっては、必ずしもそうではなさそう。 

 どうも日本ではTVニュースの利用が相対的に多そうだ。ロイターの調査でも、先週接したニュースのソースがどのメディアであったかを問うたところ、65%の回答者がTVメディアと答え、59%のオンラインメディアを上回った(複数回答)。

 図5にここ数年の推移を示しているが、目に付くのがオンラインでニュースに接する利用者比率が2013年の85%から今年の59%と下降線を辿っていることだ。この背景については、「日本人のニュースメディア接触、先進国の中で際立つ特異性、ロイター調査が浮き彫りに」で述べたが、スマホ・ソーシャル全盛時代を迎える前まで、日本のオンラインメディアはパソコン主体のヤフーポータルが完全制覇していたことが響いている。スマホ化、ソーシャル化が加速するに伴い、パソコン中心のオンラインメディアの利用比率が下がっていった(利用時間は必ずしも減っていない)。


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(ソース:Reuters Institute)
図5 日本人回答者が先週、どのメディアを介してニュース・ソースに接したか?(複数回答)。TVメディアが65%と最も多く、オンラインメディアを上回った。


 日本以外の大半の国では、オンラインでニュースソースに接する人の割合が約80%〜90%の高レベルに維持させている。ここ数年、ソーシャルメディアを介してニュースソースに接する人が急増しているからだ。ソーシャルメディアを飛躍台にしてニュースパブリッシャーが育っていく環境が、海外ではかなり整備されてきたといえる。

 一方で日本は、ソーシャルメディアを介してニュースソースに接する人の割合が21%と、今年のロイター調査の対象国37か国の中でもずば抜けて低かった。その結果としてオンラインでニュースソースに接する人も最も低い59%となっている。低いのに、オンラインによるニュースソースの接し方が特異で、アグリゲーターの利用が極端に多いことだ。Yahoo! Newsやスマートニュース、グノシーなどのアグリゲーターを介してニュースソースに接している人が40%と、今年もロイターの調査でトップを独走している。海外のユーザーのようにコミュニティーを通してニュースに接するよりも、お勧めのニュースを受動的に接するほうを好むということか。

 この日本のニュースアグリゲーターの特徴はユーザーの高齢化が顕著なことだ。Yahoo! Newsは言うまでもなく、スマートニュースは50代以上が5割以上を占め(20代以下は11.9%)、グノシーのニュースパスは50代以上が45%(20代以下は9%)となっている。選ばれるニュースも、本来の報道モノよりも、エンターテイメント性の高い情報ものが増えている。アグリゲーターでニュースっぽいコンテンツを楽しむ一方で、真っ当なニュースを受動的だがNHKブランドで抑えておく。高齢者が多数派の日本では、オンラインでもNHKに頼っていくという流れになるのか。



◇参考
・Reuters Institute Digital News Report 2018(Reuters Institute)
・テレビ・ラジオの視聴の現況〜2017年6月全国個人視聴率調査から〜、放送研究と調査、Sep.2017



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posted by 田中善一郎 at 12:36 | Comment(0) | メディア
2018年06月15日

ニュースユーザーのFB離れとサブスクリプション移行が始まった、ロイター・レポートより

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 世界のニュースメディアの利用動向を知るのに格好のレポート「Digital News Report」が、今年もロイター(Reuters Institute)から発行された。

 米大統領選のトランプ当選や英国のEU離脱に端を発して、この1〜2年、ニュースメディア業界は大荒れに荒れた。それだけに今年のレポートの発行を待ち構えていた人も多かったのではなかろうか。

 まず、今年の調査について。今回は2018年1月末〜2月始めに、37か国のオンライン・ニュース・ユーザー7万4000人を対象に行われた。各国から、少なくとも2000人がアンケート回答者として参加した(台湾だけは1,013人)。日本人回答者は2033人。調査はYouGovが実施。

 参加した37か国は次の通り。ニュースメディア産業がある程度整備されている国といえる。内訳は、欧州が24か国、アメリカ(北米+南米)が6か国、アジア・パシフィックが7か国。

UK 、Austria、Belgium 、Bulgaria、Croatia、Czech Rep、Denmark、Finland、France、Germany、Greece、Hungary 、Italy、Ireland、Netherlands、Norway、Poland、Portugal、Romania 、Slovakia、Spain、Sweden、Switzerland 、Turkey、US、Argentina、Brazil、Canada、Chile、Mexico、Australia 、Hong Kong、Japan、Malaysia、Singapore、South Korea、Taiwan

 インターネットも普及している国々で、いずれも国民の60%以上がインターネットを日常的に利用している。調査が難しい中国やロシアは含まれていない。またアフリカや中東の開発途上国も入っていない。


分散型メディアへの流れが止まり、逆もどりするかも 

 この1年間の混沌としたニュースメディア環境の中において、多くのニュースパブリッシャーがより高品質のコンテンツを生み出し、有料購読者増に励んでいることを、ロイターとしては訴えたかったようだ。

 そこでレポートの冒頭でも、ソーシャルメディアやアグリゲーターを介した分散型メディアの流れにブレーキがかかる一方で、多くの国でサブスクリプションの流れが強まっていると主張している。分散型メディアと言っても、実際には断トツのシェアを誇るFacebookが参照トラフィックの大半をもたらしている。

 そこで、世界各国のニュースユーザーがニュースソースとしてFacebookをどれくらい利用しているかを調べた。その結果が図1である。先週にFacebookを介してニュース記事に接した回答者の割合を示している。多くの国では40~60%の国民が、Facebookをニュース記事と出会う場として利用している。10%を切っている国は日本だけで、そのお陰で日本のニュースパブリッシャーは昨今のFacebook騒動にほとんど巻き込まれないで済んでいる。ただしFacebookが仕掛けた世界同時進行の新しいパブリッシングの流れから、蚊帳の外に置かれがちであったが・・。

 ともかく、世界中のほとんどの有力ニュースパブリッシャーはソーシャルプラットフォームであるFacebookへの依存を高めてきた。併せてFacebookを介してニュース記事と接するユーザーも増えていったのだ。ところがフェイクニュースや個人情報不正流出などのFacebook騒動が燃え盛るに伴い、Facebookを介してニュース記事と接するユーザーが減り始める国が現れ始めた。その中で目立ったのが、メディア大国の米国。前年に比べ9%も減っただけに、分散型メディアが曲がり角に差し掛かっていると言い張るのも頷ける。



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(ソース:Reuters Institute)
図1 Facebookを介してニュース記事と接するユーザーの割合

 図1の調査対象の27か国のうち18か国で、昨年に比べFacebookを介してニュース記事と接するユーザーの割合が減った。Facebookを含むソーシャルメディアを介してニュース記事と接するユーザーの割合が、ブラジル、米国、英国、フランス、ドイツの各国でどのように推移しているかを図2に示す。2年前まではソーシャルメディアをニュースソースとして活用するユーザーが各国で揃って増え続けていたが、昨年あたりから壁に突き当たっている。米国も2013年の27%から2017年の51%へと一本調子で増え続け、分散型メディア・ブームを巻き起こしたが、2018年には一転して45%へと転落した。

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(ソース:Reuters Institute)
図2 ソーシャルメディアをニュースソースとして利用しているユーザーの割合の推移。


ニュースソースとしてFBを活用するユーザー数がグローバルに減り続けている

 ニュースパブリッシャーは過度なFacebook依存を避けるためにも、他のソーシャルメディアにも記事を多く投稿するようになってきている。このため、ユーザーもニュースソースとして利用しているソーシャルメディアの種類が増えてきている。図3に、6種のソーシャルメディア別に、どれくらいのユーザーがニュースソースとして利用しているかを示している。Facebookをニュースソースとして利用している人が圧倒的に多いのだが、2年前(2016年)の42%から今年の36%へと急落下しているのが目につく。


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(ソース:Reuters Institute)
図3 ニュースソースとしてソーシャルメディアを利用した人の割合。6種のソーシャルメディア別の割合の推移を示している。主要12か国(米、英、独、仏、日本など)の回答者を対象。2年前から、Facebookだけがニュースソースとして活用しているユーザー数を減らしている。

 一般の用途でソーシャルメディアを利用している割合を、ソーシャルメディア別に示したのが図4である。興味深いのは、ニュースソースとしてFacebookを活用している人がはっきりと減っていたのに、一般の用途でFacebookを利用している人の割合は65%と天井を打ちながらも減っていないのだ。明らかに、日常的にFacebookを利用しているユーザーもニュースソースとしては使いたくないという人が増えてきている。つまりフェイクニュースなどの信憑性に欠けるニュース記事と接する機会が増すFacebookを避けようとしているのだろう。


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(ソース:Reuters Institute)
図4 多目的にソーシャルメディアを利用している人の割合。

 海外の有力ニュースパブリッシャーの多くは、Facebookからの流入トラフィックに大きく依存していた。ところが信憑性のないコンテンツがFacebook上に氾濫していると同社 への批判が高まるにつれ、その対応としてFacebook自身もニュースフィードのアルゴリズムを変更してきている。ニュースフィードに流すニュースパブリッシャーの記事数を絞り込んできており、その結果として図5に示すように、Facebookから
ニュースパブリッシャーへのトラフィックは減ってきている。ニュースパブリッシャーにとって、否応なしにFacebookへの依存を減らしていかなければならない。

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(ソース:Reuters Institute)
図5 ニュースパブリッシャー・サイトへの外部トラフィック(参照トラフィック)のうち、Facebookからのトラフィックが占める割合。

 広告売上で成り立っているFacebookからすれば、ニュースパブリッシャーの編集記事を優先してまでニュースフィードに流すことはしたくない。ニュースパブリッシャーのFacebook離れが起こっても構わないのかもしれない。図3に示したように、ニュースソースとして利用されるソーシャルメディアとして、Facebook以外にWhatsApp、FB messenger、Instagramが浮上しているが、いずれも同社傘下にあるからだ。


北欧を中心にサブスクリプションが浸透 

  ニュースパブリッシャーのFacebook離れが進むと、デジタル広告売上が伸び悩む心配が持ち上がる。すでに昨年半ばあたりから、Facebookからの参照トラフィックが落ち込むのに伴い広告売上が減り続け、休刊に追い込まれた新興のニュースパブリッシャーも出てきた。オンラインニュースサイトを支えていくには、デジタル広告売上だけでは不十分で、ユーザーからのサブスクリプション料金や会員料金、寄付金に頼る動きが軌道に乗ろうとしている。

 図6に示すように、北欧を中心に各国で有料コンテンツをユーザーが着実に増え続けている。課金方式にも工夫が凝らされている。例えばノルウェーの新聞サイトでは、ハイブリッド課金モデル(月間の上限ページビュー+いくつかのプレミアムコンテンツ)を採用して、成功しているという。

ロイター2018FBf.png
(ソース:Reuters Institute)
図6 有料のオンライン・ニュースコンテンツを利用している割合。直近の1年間だけでも、有料コンテンツユーザーが北欧を中心に増え続けている。


◇参考
・Reuters Institute Digital News Report 2018(Reuters Institute)

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posted by 田中善一郎 at 14:33 | Comment(0) | 新聞 ニュース
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