フェイクニュースやロシア疑惑、さらには個人情報の不正利用や流出と、FBを舞台にした不祥事が途絶えないから当然かもしれないが、どうしてここまで1企業の不手際に厳しく延々とメディアが責め立てるのか。それはFBが、今や世界中の人々の個人生活や社会にとって測り知れないほどの大きな影響を及ぼしているからだろう。世界の22億人以上の人々が毎月利用し、その66%にあたる15億人近くが毎日FB上で情報のやりとりをしている。先進国だけではなくて新興国も含めて、ほとんどの国で人々の生活に深く根付いたFBに対して、メディアが社会的責任を問い直すのももっともである。
だが、メディアがしつこくFBを責め立てるのにはそれだけではなくて、別の理由もありそうである。この数年の間に、ソーシャル化とモバイル化で急変するオンラインパブリッシングの世界でFBが主導権を握り始め、パブリッシャーのメディアビジネスがFBの優位な形で展開せざる得なくなってきている背景がある。こうした流れに不満を募らせているブリッシャーとしては、FBとの交渉力を高めたいという思惑もあって、ここぞとばかりに自分たちのメディアを通してFBの問題点追及に力がこもるのも当然かもしれない。
こうしたFBにまつわる騒動は、日本にとってほとんど縁のない動きである。ただ、海外のほとんどの国では現時点でも、パブリッシャーに対するFBの影響力は大きい。NYタイムズのような伝統的な二ュースパブリッシャーにとっても若中年層を開拓するためにFBが必須のプラットフォームになってしまっている。消費者(オーディエンス)も、FBを介してメディアコンテンツと接する機会を増やすようになっている。
日本と海外においてFBの影響力に大きなギャップがあることは、いくつかの海外の調査データからも明らかである。英ロイター(Reuters Institute)が今年の1月から2月にかけて、36か国のニュースユーザー7万人(各国約2000人)を対象に実施した調査結果を見てみよう。各国の回答者のFB利用率(一般)と、FBをニュースメディアの接触の場として利用している回答者の割合(ニュース)を、国別に示したのが図1である。
図1 日常的にFBを利用しているユーザーの割合(一般)と、過去1週間にFBを介してニュースメディアの記事に接した人の割合(一般)を、国別に示している。 (ソース:Reuters Institute)
ここでは、FBの利用が国内で禁止されている中国は調査対象外になっているため、日本だけが極端に、FB上でニュースメディアに接触する人の割合が9%と低くなっている。またメディア先進国以上に新興国において、メディア接触の場としてFBを利用している割合が高くなっているのも興味深い傾向である。こうした日本と海外との差異が、メディア社のFB対応にもはっきりと反映されている。
世界の主要パブリッシャーがFBの手のひらに
各国の主要ニュースパブリッシャーのFBページが抱えるフォロワー数を図2に示す。海外の大手ニュースメディアが500万人〜4000万人規模の大多数オーディエンスからフォローされているのに対し、日本の主要ニュースメディア(日本語版)はわずか5万人〜35万人くらいしかフォローされていない。1桁どころか2桁くらいの差がついている。
図2 代表的な総合ニュースメディア(デジタル版)のFBページのフォロワー数(2018年9月23日のデータ)。ここでは、メディアブランドの旗艦FBページだけのフォロワー数を示している。
海外の主要パブリッシャーがFBに飛びつくのは、グローバルに若年層を含んだ巨大な潜在ユーザーにリーチできるからである。ほとんどの国で、有力パブリッシャーがFBを頼っている。さらに拡散性が極めて高くて、一気に多くのオーディエンスを獲得できる強力な飛躍台にもなりうるため、新興メディアにとっても立ち上げ時にはFBの利用が欠かせなくなっている。
国際展開するパブリッシャーも、FBは格好のプラットフォームになっている。英国の公共メディアのBBCは、図1に示したように英語版の旗艦FBページ(BBC News)が4755万人のフォロワーを擁しているほかに、各国の現地語版FBページにも多くのフォロワーを抱えている。例えばベンガル語版BBC Newsは1223万人ものフォロワー数を誇っている。逆にやっぱりというか日本語版のBBC News Japanでは約2000人からしかフォローされていない。
中国の国営メディア、国内使用禁止のFBをフル活用
FBを活用した国際展開で目立つパブリッシャーとなると、中国国営テレビ放送局CCTV(China Central Television)の躍進が見逃せない。中国国内では利用を禁止されているFBを、一転して国際展開ではフル活用しているのだ。英語版CCTVのFBページ(CCTVcom)のフォロワー数は、この1年間だけで約600万人も増えて約4800万人に達し、英語版BBCを追い抜いた。さらにCCTV傘下のCGTN(China Global TV Network)も、TV(動画)コンテンツを中心にFB経由で世界中に配布し、オンラインで視聴できるようにしている。図3で示すように、FBだけではなくて、TwitterやYouTubeでも配信しているが、フォロワー数から明らかにFBへの依存が圧倒的に高い。FBページのフォロワー数は、英語版のCGTNが6800万人で、フランス語版、アラビア語版、スペイン語版のCGTNでそれぞれ1500万人前後も抱えている。中国にとって都合の良い国際世論作りを狙って、FBを利用してコンテンツを世界中に効率よくばらまいているのである。最近では一帯一路に関する記事が目立つ。
図3 中国国際テレビCGTNのFBページのフォロワー数。旗艦の英語版に加えて、フランス語版、アラビア語版、スペイン語版のそれぞれが擁する主要SNSのフォロワー数を示している。
パブリッシャー、ユーザー、広告主にFB離れの兆しが
このように世界中の主要パブリッシャーがFBをプラットフォームとして活用していたのだが、そうしたパブリッシャーからFBが社会の敵と言わんばかりに噛みつかれている今、今後の成り行きが気になるところだ。すでに、いくつかのパブリッシャーはFBページの投稿数を減らし、FB依存から脱皮する動きが出始めている。ブラジル最大の新聞、Folha de S.Pauloのように、FBページへの投稿を止めたパブリッシャーも。ニュースフィード・アルゴリズムの変更で、良いニュースが減りフェイクニュースが増えているFBには、投稿したくないと発表した。同新聞サイトのFBページのフォロワー数は今でも約600万人も抱えているが、今年の2月上旬以降、記事を全く投稿しないままだ。ただし、636万人のフォロワーを擁するTwitterには記事の投稿を続けている。
同じような理由で、ブランド毀損を警戒して一部の大手広告主も、FBへの広告出稿の中止に動いている。FBの収益源の大半を占める広告売上は一本調子で伸びていたが、ここにきて市場調査会社が一斉にFBの広告売上予測を下方修正した。さらに、消費者(オーディエンス)であるFBユーザーも、#DeleteFacebookと掛け合ってFBアカウントの削除に動き始めている。米Pew研究所の調査(今年5月末〜6月上旬)でも、米人の26%がこの1年間でスマホのFBアプリを削除したとなっている。
このように八方ふさがりで追い詰められるFBは打撃を被るのは避けられない。でもどうも表向きはそうでも、実際はちょっと違うようだ。影響力のある有力パブリッシャーも、厳しくFBをこき下ろすくらいなら、投稿数を大きく減らしてFB離れの行動に出ればいいのに、実際にはほとんどこれまで通りFBページの投稿に力を入れている。その結果として、例えばNYタイムズのFBページのフォロワー数は、この1年間だけで200万人以上も増えて現在1655万人を超えている。また図4に示すように、FBへの投稿記事もオーディエンスの反応が落ちるどころか高くなっている。メディア分析会社NewsWhipはFB掲載記事の月間エンゲージメント(いいね!数+コメント数+シェア数)総計を公表しているが、NYタイムズなどの有力ニュースパブリッシャーの月間エンゲージメントは、FBの悪評記事が氾濫している間でも、総じて上向いている。ジャーナリズムを標榜するNYタイムズやワシントンポストは、硬い記事が多いにもかかわらず、FBのオーディエンスから高いリアクションを得ているのだ。
図4 主要ニュースブランドの月間エンゲージメント総数の推移 (データソース:NewsWhip)
FBは今年1月にも、ニュースフィード・アルゴリズムに変更を加えていた。ニュースフィードには友達のコンテンツを優先して表示し、メディアコンテンツの表示回数を減らしてきている。信頼できるパブリッシャーからの優れた記事に絞ってニュースフィードに表示しているという。その煽りを食って、FBへの依存度が高い新興メディアの中には、アルゴリズム変更でエンゲージメントとトラフィックが激減し、閉鎖に追い詰められるパブリッシャーブランドも出てきた。一方で影響力のある伝統ニュースパブリッシャーは、アルゴリズムの変更でも冷遇されることがなかったのか、上で述べたように、月間エンゲージメントがかえって増える傾向が見られた。
社会的に影響力のある有力パブリッシャーは結局、FBと断交しないで、これまで通りFBに頼り続けることになるのだろう。グローバルなソーシャルプラットフォームとして利用せざる得ないのが現実だ。またユーザーも、ネットサービスの好感度調査では決まって、FBサービスの人気をGAFA(Google、Apple、FB、Amazon)の中で最も低く見ているが、実際には利用者数も利用時間も減っていなくて上位を走り続けている。確かに先進国のZ世代(10代)を中心にFB離れが見られるものの、グローバルには成人のFB人口が新興国を中心に増え続けており、特に毎日利用するDAUはまだ伸び勢けている。
嫌でも離れられない
要するに、パブリッシャーもユーザーも、嫌であってもFBから離れられないということか。この流れを読み取って市場調査会社も、下方修正していたFBの広告売上予測を、ここにきて上方に再修正し始めている。もともと同社の広告売上高は、デジタル広告市場の追い風に乗って、伸び率が少々鈍ったとしても増え続けている。ただ勢いを知るにはシェアがどうなっていくかが重要である。例えばeMarketerは昨年まで、FBのデジタル広告売上の米国市場シェアが、今後ともアップしていくと予測していた。ところが今年3月の予測では、2017年の19.9%から2018年の19.8%、さらに2020年には19.3%と、初めて下降線をたどると発表していた。それが最新のシェア予測では、2018年に20.6%、2020年に20.8%へと上昇すると上方修正している。広告主もFBから離れられないのか。
グローバルなソーシャルプラットフォーマーとしてFB天下がまだ続く勢いを失っていない。でも、ここまで深刻な個人情報の流出が続くと、各国の公的機関は何らかの規制を課せざるえないだろう。その規制対策で膨大なコストが嵩み、またサービスの魅力が色あせることになるかもしれない。
◇参考
・ The top Facebook publishers of September 2018(NewsWhip)
・ Amazon Is Now the No. 3 Digital Ad Platform in the US(eMarketer)