これまでのNYTのオンライン戦略を振り返って見よう。数年前までは,NYTimes.com(New York Timesのサイト)も新聞紙の焼き直しに過ぎなかった。サイトでも,パッケージ化した形でニュース記事を一方的に提供していたのだ。ユーザー(読者)はトップページにアクセスし,そこで関心のある記事を探し,それから本文ページで記事を閲読していた。大半のユーザーは,ブックマークあるいは検索エンジン経由でNYTimes.comのトップページに訪れていたのだ。
ところが数年前からオンラインメディアの世界でも地殻変動が起こってきた。一つはRSSフィードの出現である。もう一つは検索エンジンの進歩で,記事一本一本が検索対象になってきたのだ。それもリアルタイムに近い形で各記事を検索できるようになったのだ。この流れに乗って出現してきたブログが爆発的に普及する。そしてソーシャルメディアが勢いを増してきた。
保守的であった米新聞社サイトも,少しずつ動き始めた。ユーザーにトップページへ来させて,供給者側の価値観でパーケージ化したコンテンツを閲覧してもらうだけでは,時代の流れに取り残されかねないからだ。
そこで,NYTimes.comも4年ほど前から,RSSフィードで更新記事を配信するようにした。最初からカテゴリー分けして配信し始めた。ユーザーはRSSリーダーを用いて,複数のニュースサイトの更新記事を横断的に閲覧できるようになったのだ。もう,新聞社サイトのトップページに必ずしも飛ぶ必要がなくなった。
いち早くRSSフィード配信を提供していたので,それからのポッドキャスティングやパーソナライズド・ページ・サービス(“My Times”),Twitter対応,iPhone対応,ウィジェット(現在はMy Times対応だけだが,年内に拡大サービスを予定)の提供も難なくこなしていけたのだろう。
また検索エンジンの進歩に合わせて,パーマリンク(永遠に変わらないurl)の採用も大きな決断だった。新聞社のトップを走った。パーマリンクは検索エンジン最適化にとっても不可欠である。古い過去記事までもパーマリンク化したのが素晴らしい。最近完成したデジタルアーカイブでも,1851年からの記事すべてに固有のurlを付与している。先ほどNYTの検索エンジンで,1851年-1855年の期間指定で“Japan”を検索して見ると,555本の記事が出てきた。その検査結果のトップ記事が“JAPAN OPENED.; Satisfactory Result of Commodore Perry's Visit.”(プレビュー:PDFの全文も無料閲覧できる)であった。ペリー提督が1854年に日米和親条約を調印したことに関する解説記事である。Googleの検索エンジンでもこの記事が検索できた。すばらしい!
各記事をパーマリンク化しておけば,SEO対策に効果的であることは当然である。さらに,ブログをはじめ,ソーシャルブックマークやソーシャルニュースサイトでも,パーマリンクのお陰でNYTの記事が飛躍的に引用されるようになってきた。
このようにRSSフィードやパーマリンクの採用が,検索エンジンやソーシャルメディア経由でのアクセスを増やすことになったのだ。つまり,以下の図のように,トップページのアクセスに加えて,各記事に向けてのアクセスが上乗せされいったのである。ニュースサイトへのインバウンド(外部からの)リンク数が,かつてのTechnoratiの調査でも,NYTimesがダントツに多かった。
1年前に有料サービスTimeSelectを止めるに至ったのも、やはりRSSフィードやパーマリンクを採用していたことが後押ししたのだろう。無料化により,新たにユニークユーザー数を呼び込める可能性が高いからだ。
さらに,TimesPeople(ソーシャルネットワークの一種)を最近始めたり、また近く本格的なウィジェットサービスやマッシュアップサービス(外部にNYTコンテンツを開放)を手がけるのも,ニュース記事へのアクセス数アップを狙っているのだろう。
そして,NYTが次に仕掛ける大きな手として注目されるのは,ニュースアグリゲーター“BlogRunner”である。Silicon Alley Insiderによると,
Marc Frons(CTO of the Times' digital operations) has "bigger plans" for BlogRunner, but wouldn't share details.
とのことだ。実際のBlogRunnerのサイトの動きからも,大きな仕掛けを狙っているようにも思えるのだが・・。でもNYTにすれば,諸刃の剣となるかもしれない。BlogRunnerについては,別の記事で追って見たい。
現在,NYTの開発者は70人ほどいるが,さらに30人ほど雇っていく予定という。オンラインシフトは茨の道だが,進むほかないのかも・・・。
◇参考
・What's Next For The NYTimes Online? Widgets, iPhone Apps, APIs, And More(Silicon Alley Insider)
・New York Times to get update, includes widgets(Widgets Lab)
・ 'New York Times' goes social with TimesPeople(Webware,CNET)
・米新聞社サイトが打つ次の一手とは(メディア・パブ)
・NYTimesがWeb2.0風ベンチャーを買収していた(メディア・パブ)
・Interview With Blogrunner Product Manager Philippe Lourier; It's Worth Another Look(CenterNetworks)
直しておきました。