新聞社のWebサイトは概して閉鎖的である。たとえば記事本文から外部サイトへリンクを張ることはほとんどありえない。リンク先のコンテンツを保証し得ないことと,ユーザーが他サイトへ飛んでいくのを嫌っているからだ。
それでも米国の新聞社サイトは,一昨年あたりから少しずつ,開放路線に舵を切り替えはじめてはいた。ニュースアグリゲーターが用意するウィジェットを,ニュース記事本文の隣接に貼り付けるようになってきたのだ。新聞社サイトを鎖国とすれば,ウィジェットは出島のようなもので,ウィジェットからのみ外部へリンクを張れるようにしている。
記事本文は新聞社の責任で編集するが,一般にウィジェットはニュースアグリゲーターに編集を任せてしまう。たとえば,カテゴリー別のニュースページを新聞社のニュースルームが編集しても,外部サイトのニュース記事(リンク)を収めたウィジェットはニュースアグリゲーターが編集する。同じようにニュース記事本体は新聞記者が編集するが,その記事内容と関連性の高い外部記事の選択やリンク張りはニュースアグリゲーターが担当する。
ニュースアグリゲーターは新聞社サイトの開放化で大きな役割を果たそうとしているのだが,その中で2005年創立のOneSpotが注目を浴びている。同社のウィジェットが,WSJとWaPoに採用されたからだ。現在は,静かに始めているが,これからの開放化の流れを探る上で見逃せない。
WSJ.comでは法律ニュース欄でOneSpotのウィジェットを取り込んでいる。下の例で示すようにウィジェット内で,NYTやLA Timesの競合他社のニュース記事や代表的な法律系ブログに直リンクを張っている

さらにウィジェット(More Headlines)をクリックすると,以下のようなページに飛ぶ。WSJのロゴの下に,外部コンテンツ(見出しと要約)がズラリと並ぶ。“Powered by onespot”となっているが,wsj.comのドメイン内のコンテンツだけに,何か問題が起こればWSJの編集責任となるかも・・・。

またWashington Post(WaPo)も,同社の黒人向けオンラインマガジンThe Rootで,OneSpotからニュース記事の配信を受けている。小枠のウィジェットを使うのではなくて,The Rootのニュース欄すべてをOneSpotに任せた形をとっている。WaPoのニュース記事だけではなくて,競合のBBCやNYTなどのニュース記事も対等に扱っている。

New York Times(NYT)は,ニュースアグリゲーターとしてBlogrunnerを採用している。実はBlogrunnerは独自ドメインで運用されているが,NYTに買収されており,今やNYT傘下のニュースアグリゲーターとなっている(Blogrunnerについてはこちらで紹介した)。
以前に調べたときには,NYTimes.comの技術ニュース欄でのみしか,Blogrunnerのウィジェットが組み込まれていなかった。技術ニュース欄をテストケースとして始め,うまくいけば他分野ニュース欄でも採用されいくのではと思われていた。それが,以下のように政治ニュース欄でもBlogrunnerのウィジェットの姿が見られた。

Blogrunnerの担当者の話によると、Blogrunnerにもう少し人を投入してサービスを充実させていく予定のようだ。すでにトピック別のニュースアグリゲーションがかなり進行している。今後の展開に期待したい。
それにしても,今や米新聞社サイトにおいて競合他社サイトの記事へのリンクは珍しくなくなってきた。紳士協定を結んでいるのだろうか。それとも,時代の流れで黙認しているのかもしれない。
◇参考
・米新聞社サイトが打つ次の一手とは(メディア・パブ)
・NYTimesがWeb2.0風ベンチャーを買収していた(メディア・パブ)
・Interview With Blogrunner Product Manager Philippe Lourier; It's Worth Another Look(CenterNetworks)
・OneSpot launches news crawler widget for media sites(VentureBeat)