Yahooなどのポータル系サイトに成長鈍化が見られ始めているのに対し,SNSやブログ,コンテンツ共有(投稿)などのソーシャル系サイトが爆発的に成長してきたのだ。新しいニーズに応えていくには,ニュースサイトもソーシャル化に向かう必要が生じていた。
だが,Yahoo!ニュースは1年半少し前まで,ソーシャル化どころか,ユーザーを囲い込む閉鎖的なサイトであった。それでも,大半のユーザーは満足していたといえる。多くの提携先メディアサイトから調達する大量のニュース記事を,Yahoo!ニュース内でワンストップで閲覧できていたからだ。でも実際には,Yahoo!ニュース内で見られないニュース記事が外部サイトに数多く存在するし,またブログなどのUGC(ユーザー生成コンテンツ)も急激に増え続けている。供給者が用意する限定したコンテンツだけでは,ユーザーが納得しなくなりつつあったのだ。“参加”と“開放”を実現するソーシャル化が,Yahoo!ニュースにとっても急務になってきた。
そして,昨年初めにYahoo!ニュースは動いた。読者参加型機能と外部(アウトバウンド)リンク機能を積極的に導入することになった(この動きについてはこちらで)。そして今回さらに,同サイトの目玉であるトピックスページで,“参加”と“開放”の機能を強化することになった。
トピックスページのソーシャル化を説明する前に,同サイトのトピックスについておさらいをしておく。Yahoo!ニュースでは,他のニュースサイトと同様,トップページと分野別ニュースページを設けている。国内,海外,経済,エンターテインメント,スポーツ,テクノロジーの各分野別に契約したニュース提供社からの記事がシステマティック掲載されている。
この一般のニュースページとは別にトピックスページを設けたのが,Yahoo!ニュースの特徴でもあり,売り物にもなった。前の記事でも紹介したように,トピックスページはヤフーの専任スタッフが人手で独自に編集している。現在,編集スタッフを10人ほど擁し,彼らがテーマ別のトピック約1000件をサポートしている。ニュースサイト(情報提供元)からの記事を人手で取捨選別し,わかりやすい見出しを独自に付け,それを対応するトピックに組み込む形で提供している。トピック経由でニュース記事(本文)に辿りつくように設計されている。
実際の例を見てみよう。以下は,2008年8月31日20時33分時のYahoo!JAPANのトップページのトピックス枠である。
*Yahoo!JAPANのトップページのトピックス枠

Yahoo!JAPANのトップページのトピックス枠では,トピックス(主要),経済,エンタメ,スポーツ,その他(国内,海外,コンピュータ,サイエンス,地域)のタブ切り替えで,ニュース見出しが表示される。100社近い情報提供元より毎日3000本近い記事が提供されており,その中からから表示するニュース記事をヤフーの編集スタッフが選んでいる。注目すべきは,ニュース記事の見出しも,ヤフーの編集スタッフが独自に作っていることだ。見出しの長さを13文字に抑え,一目見て記事を読みたくなるような見出し作りに励んでいるという。13字見出しを組み込んだトピックス枠は,Yahoo!ニュースのページにもうまく散在させている。
トピックス枠内の特定の13字記事見出しをクリックすると,ダイレクトにはその記事本文に着地しないで,トピック記事に飛ぶ。その流れを以下の例で説明する。
*トピックス枠の記事見出しとトピック記事との関係


トピックス枠内の記事見出し「四国の水がめ 貯水率が0%に」をクリックすると,上図のように,渇水のトピックに辿り着く。そのトピックには,「四国の水がめ 貯水率が0%に」の元記事見出し「早明浦ダム貯水率0% 発電用水を緊急放流」が現われている。ここで元記事の見出しをクリックすることにより,その記事全文が閲覧できるわけだ。
トピックはこれまで「ヘッドライン」と「ニュース」の両エリアで構成されていたが,今回のソーシャル化のために「関連情報」エリアを新たに加えた。上のトピック「渇水」の例では,ヘッドラインエリアに最新記事「早明浦ダム貯水率0% 発電用水を緊急放流」(情報元が産経新聞)が置かれており,同じニュースを取り上げた他の情報源の記事見出し(リンク)も掲載されている。次のニュースエリアでは,渇水をテーマとして取り上げた最近のニュース記事(リンク)が紹介されている。
ユーザーはトピックを介して,ニュース記事と関連深い記事や周辺記事にすぐにアクセスできるのである。ただし従来のトピック記事(ヘッドラインエリアとニュースエリア)では,ほとんどが契約ニュース提供社の記事リンクとなっている。このためリンク切れの問題が生じる。契約ニュースサイトから提供されている記事の大半は,Yahoo!ニュースに平均して20日間程度しか置かれていない。つまり,約20日間が過ぎると多くの記事は,ヘッドラインエリアとニュースエリアから消えることになる。
このため,これまでのトピックスは,フロー的なニュースリンク集となっていた。トピックスについての背景や詳細それに過去ニュースを知りたいというニーズには,十分には応えきれていなかったのだ。そこで,新設したのがソーシャル化のための関連情報エリアである。ヘッドラインエリアとニュースエリアはヤフーの編集スタッフが編集していたが,新設の関連情報エリアは外部のメディア関係者や読者に編集を任せることにした。
ネットワーク上の膨大なサイトから,該当トピックのテーマに関して参考になる重要なホームページやブログ,ニュース記事を見つけ,それにリンクを張ったり,時には解説記事を書いたりもすることは,とてもヤフーの編集スタッフだけではこなしきれない。そこで外部の編集者,つまり集合知に任せたのだ。関連情報エリアでストック的な情報もカバーすることにより,トピックスはWikipediaのような事典的な性格も帯びるようになるかもしれない。
実際に関連情報エリアでは,Wikipediaと似た編集スタイルを採る。編集/制作プロセスはガラス張りになっている。トピックス編集者として参加するには,インターネット上での検定に合格しなければならない。原則として外部の人に編集を任せるので,当然だが,Yahoo!JAPAN外のサイトへのリンクが多くなる。
関連情報エリアが加わることによりトピック記事がどう変わるかを,もう一つの事例で見てみよう。8月31日14時52分時のYahoo!JAPAN(トップページ)のトピックス枠に掲載されていた「錦織圭、世界4位下し4回戦へ」を取り上げる。13字見出しをクリックすると,錦織圭のタイトル名が付いたトピックに飛ぶ。このトピック内のヘッドラインエリアとニュースエリアでは、ほとんど全米テニスでの活躍の記事で埋まる。だが、全米オープン以前の記事は消え失せている。
*トピック記事の例(ヘッドラインエリアだけを抽出)

(追記:9月2日朝のニュースでは,ヘッドラインの記事が「錦織、8強入りならず=4回戦でデルポトロに敗れる−全米テニス」に変わっていた)
錦織選手の経歴や過去の成績を知りたくても,以前のトピック記事ではあまり得られなかった。ところが,トピック錦織圭に新たに加わった関連情報エリアで,錦織選手の経歴をはじめ,ツアー初優勝,北京オリンピック,ウィンブルドンでの成績もすぐに得られるようになっている(外部リンクを通して)。
「関連情報エリア」はまだ始まったばかりだ。面倒な問題にぶつかるだろうが,参加型/開放型のソーシャル化の挑戦は興味深い。トピックの内容がどのように充実していくかが楽しみである。
それと意外というか,なるほどと思ったのが,トピックス編集の参加者に外部のメディア関係者が少なくないことである。それもそのはずだ。Yahoo!ニュースから外部リンクを張られた記事に猛烈なトラフィックの波が押し寄せてくることは,よく知られている。トピックの関連情報エリアでは外部リンクを多く張ることが当たり前なだけに,外部のメディア関係者としては参加する価値がある。例えば先のトピック錦織圭の関連情報エリアでは,ウィンブルドンの情報としてAFP(日本語版)の記事にリンクが張られていた。
個人的には,あまりYahoo!ニュースを閲覧することは多くないのだが,久しぶりにじっくりサイトを眺めて,Yahoo!ニュースの強さを再認識した。オンラインニュースのマーケティングを熟知したヤフーが,集客力をバックにしてトピックスの編集権を握ったことが,Yahoo!ニュースが独走態勢を固めることができた要因なんだろう。それに加えて,外部の編集者に開放する本格的なソーシャル化に打って出たのだ。リスクもあるが先手を打ったことは評価したい。
ヤフーメディア事業部ニュース企画部の川邊健太郎部長も「ニュースサイトもユーザーを囲い込む時代ではない」という。また,トピックスがWikipediaと競合するのではとの疑問に対して、同氏は「時事的なテーマを分担することにより,Wikipediaとも棲み分けできる」と答えた。Yahoo!ニューストピックスの進む方向を示唆している。
◇参考
・Yahoo!ニュースが断トツなのに更なる強化へ,読者参加と外部リンク機能を本格導入(1),(2),(3)(メディア・パブ)
・Yahoo!ニュース(その1),なぜぶっちぎりの独走なのか(メディア・パブ)