オバマ政権のテクノロジー政策を探る上で参考になるレポートが,1年前に出ている。選挙キャンペーンの一環として,テクノロジープランのレポートをVentureBeatのMatt Marshall編集長にスクープさせていた。シリコンバレーを味方につける巧妙なやり方だったのかも。実際に,シリコンバレーの企業は積極的に献金や支援を行ったし,AFPによるとシリコンバレーのハイテク企業および従業員の91%がオバマを支持したという。Google CEOのEric Schmidtも個人的にオバマ支持を明らかにしていた。
そのレポートを以下に貼り付けておく。フルスクリーンでも閲覧できる。
Barack Obama's technology policy - Get more Information Technology
レポートに示されたいた7つの計画は次の通り。詳しくは本文を。
I. OPEN GOVERNMENT
II. BROADBAND ACCESS
III. OPEN WIRELESS SPECTRUM
IV. NETWORK NEUTRALITY
V. IMMIGRATION
VI. PRIVACY
VII. SILICON VALLEY SUPPORT
その中で目についたセンテンスを二つだけ,紹介しておく。最初は,I. OPEN GOVERNMENT に関して,国のCTOを任命したいと主張している。
Obama will appoint the nation's first Chief Technology Officer(CTO) to ensure that our government and all its agencies have the right infrastructure,policies and services for the 21st century.選挙後のニュース記事によると,CTOの候補として,Eric Schmidt,Jeff Bezos,Steve Ballmer,Vint Cerf,Ed Felten(プリンストン大)などがうわさされている。環境や健康の政府関連システムに積極的に取り組むのだろう。
もう一つはIV. NETWORK NEUTRALITY(ネット中立性)に関する次のセンテンス。
Barack Obama strongly supports the principle of network neutrality to preserve the benefits of open competition on the Internet.
公式サイトでも,テクノロジー政策の一番目に次のように宣言している。
Obama and Biden strongly support the principle of network neutrality to preserve the benefits of open competition on the Internet. オバマ政権がネット中立性に対してどのような舵取りをしていくかによって,これからのインターネットビジネスの進む方向が大きく左右される。この問題に関しては,Google や Microsoft Corpなどのコンテンツ企業側とComcast Corp や AT&TなどのISP(Internet service providers)側とが,激しい綱引きを展開している。ネット(インフラ)企業とインフラを利用するネット(サービス)企業との間で,利害関係が大きくなっている。
ネット中立性を堅持したいGoogleのようなネット(サービス)企業にとって,民主党政権の誕生は追い風である。一方テレコム事業者やケーブル事業者のようなネット(インフラ)企業にとっては逆風かもしれない。
ネット中立性の精神は,誰にもインターネットの恩恵を公平に享受させることである。だが,現実はそんな甘いことを言っておれなくなってきたというのが,ISPを提供するテレコム事業者やケーブル事業者の言い分だ。
ブロードバンド時代を迎えトラフィックが爆発的に増え始めている。YouTubeに代表されるビデオトラフィックが,ネットの帯域を蚕食しているのはよく知られている。P2Pトラフィックの占める割合が増えてきており,このまま放置していると,インターネットがパニック状況に陥るかもしれない。その対応で設備投資に追われいると,ネットインフラ企業の経営環境が厳しくなっていく。そこでネットインフラ企業としては,公平に使わせるのではなくて,より多くの通信料を払うユーザーに優先接続させたいわけだ。
つい最近でも,ComcastがBitTorrentユーザーを狙い撃ちして,帯域制限を実施して問題になった。半独占的な立場にあるネットインフラ企業が自らの判断で,特定のトラフィックを制限しようとする行動に対し,ネット(サービス)企業側の不信感は高まっている。突然,自由なネットサービスを阻害されるかもしれないからだ。
ネット中立性派に追い風が吹くといっても,これまでの定額料金制の下で,誰もが平等にインターネットを無制限利用できる時代は終わりそうである。AT&T CTOのJohn Donovanは,インターネットユーザーの5%がインターネットインフラの40-80%の帯域を消費しているという。つまりP2Pサービスなどをがむしゃらに利用するヘビーユーザーがネット渋滞の元凶と言いたいようだ。だが,こうしたヘビーユーザーの存在が先進的なインターネットサービスを生み出したともいえる。
これまで新しいインターネットサービスが次々と登場してきたのは,やはり定額制導入のお陰である。完全な定額制は消えるかもしれないが,従量課金制に後戻りするのは抵抗が大きいだろう。一般のユーザーには事実上定額制として,月間トラフィック消費量の多いヘビーユーザーに対してピーク時間帯に帯域制限をかけるということも考えられる。ともかくオバマ政権はこれまで以上に,ネットサービスのイノベーションを誘発するためにも,ネット(サービス)企業側の言い分に耳を傾けることになろう。
ここで,気になることを一つ。独占的なキャリア主導で進められている日本のNGNはどちらの方向を目指しているのだろうか。キャリアやメーカーにとっては大きな収益源になるかもしれないが,利用するサービス事業者やエンドユーザーにとっては・・・。
◇参考
・Exclusive: Barack Obama to name a “Chief Technology Officer”(VentureBeat)
・Barack Obama expected to be first US "Tech President(AFP)
・An Obama presidency: Good, bad news for technology(Cnet News)
・Caterpillar, WellPoint May Win, Delta, Pfizer Lose Under Obama (Bloomberg)
・Obama Must Get Tech and Media Oversight Right(Mediapost)
・How U.S. stock sectors could fare in an Obama administration(Reuters)
・US President-Elect Obama Is Plugged In On Technology Issues(Dow Jones)
・Science, Technology and Innovation for a New Generation(オバマの公式ページ)
・ネット中立性の危機,米大手ISPがP2Pトラフィックをブロック(メディア・パブ)
・インターネットの危機説,中立性が崩壊するかも(メディア・パブ)
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