ダメ会社の代名詞的存在となり,Time Warner のお荷物部門に転落していたAOL。とうとうTime Warner からも見捨てられ,独立した株式会社として再スタートすることになった。
正直なところ,AOLなんて過去の会社と思って無視していたのだが,意外にもおもしろい展開を見せ始めている。まず今年3月にトップが変わった。AOLの会長兼CEOに,Google副社長(広告担当)のTim Armstrong氏が就任したのだ。そこで動いた。バーチカルな分野のオンライン雑誌(オンラインサイト)を数多く擁した,世界最大級のオンライン雑誌社を目指す。そのためにMediaGlowのブランド名を冠したサイト(ベーター版)を立ち上げている。
ここで注目したいのが,Time Warnerとの関係である。Time Warnerといえば,世界最大級の雑誌部門(TimesInc.)を持ち,PeopleやFortuneなどの有力雑誌を多く発行している。こうしたTime Warnerの強力な雑誌ブランドやリソースを活用して,新生AOLの再出発に弾みをつけることも考えられたはず。
ところが,Time Warnerのリソースに全く頼らない戦略を選んだ。オンラインに特化した専門出版社として飛躍してていくためには,紙文化と決別するのも必要かも。紙雑誌の組織(人的リソースも含む)や文化(価値観)を引きずった形で,オンラインメディアを成功させるのは非常に難しいからだ。
実は,AOLはオンライン出版で先手を打っていた。2005年に「米AOL,ブログ専門出版社のWeblogsを買収」していたのだ。まだ萌芽期にあったブログ出版社を,時代の流れから遅れつつあったAOLが買収したので,当時,驚いた覚えがある。そのWeblogsがら出ているEngadget や Joystiq,Autoblogなどは世界的に有名なブログブランドに育ってきている。Weblogが持ち込んだオンライン出版手法がAOLで根付き,ニッチな分野のターゲットオンラインマガジン(サイト)が生まれてきている。さらに外部のブログサイトの買収にも乗り出している。
MediaGlowのサイトにアクセスすると,以下のような79タイトルのオンライン出版が既に並んでいる。狙いは,それぞれのターゲット分野でナンバーワンになることだ。すでにcomScoreの調査によると,Asylum(男性向けライフスタイルのオンラインマガジン)をはじめとする9タイトルが,各分野におけるナンバーワンサイトになっている。
新しいサイトとして加わったPolitics Dailyも,MediaGlowの勢いを象徴している。新興の政治専門ニュースサイトPolitico(こちらで紹介)を,Politics Dailyがユニークユーザー数で一気に追い抜いたからだ。
こうした細かくセグメント分けしたオンライン出版の集合体であるMediaGlowは,集客数を急伸させている。comScoreの5月調査によると,月間ユニークユーザー数が7600万人に達した。ページビューも,今年1月の古いデータであるが,月間70億ページビューと1年前に比べ47%も増えている。
現在約300人のスタッフがMediaGlowのサイトの運用に携わっており,それに加えて同じ300人ほどのフリーランサーと契約している。過去6ヶ月間に,Associated Press, Washington Post, USA Todayなどのジャーナリストを50人ほど雇った。外部のオンライン出版社の獲得にも力を入れる。最近では,Patch Media と Going Inc.の2社を買収した。ともにローカルコンテンツの専門出版社である。
どうも,紙媒体のリソース(人材やコンテンツなど)に頼らないで,自分たちのオンライン出版のために本当に必要なリソース(人材や,時にはオンライン出版物まるごと)を外部から調達したほうが良いということか。
◇参考
・Here Comes The AOL Blog Rollup (TWX)(Silicon Alley Insider)
・AOL Buys Two Local Content Sites(NYTimes.com)
・AOL Cracks Web Publishing -- Sans Time Warner(AdAge)