文書ストア“Scribd Store”のHarvard University Press の売り場では,以下のように,すでに販売が始まっている。まず1000タイトルを売り出す予定。

アカデミック出版は電子書籍の有望な市場である。アカデミック関連の書籍は,一般にニッチで専門性が高い。そのため,販売部数が少なくて販売価格は高価になることが多い。典型的なロングテール商品である。このため,多くの人にとって無縁の類の書籍であった。一方で,アカデミック出版業界は経営的に厳しくなっている。古い体質のせいか,紙を残すのにこだわっていた。でも紙を脱する時期なのかもしれない。
YouTubeが動画共有サイトとして定着してきたように,Scribdは文書共有サイトの定番サイトとして根付いてきた。研究レポートやホワイトペーパーなどの各種資料の共有の場になっているのである。MIT PressやNYU Press などのアカデミック出版社もコミュニティーの場を設けて,研究資料などを無料で利用できるようにしている。
そのScribdが文書のマーケットプレイスの場としても利用できるようになったので,Harvard University Press がScribd Storeで電子版の販売に乗り出したのである。たとえば,上のScribd Storeの最上段に置かれている“China Marches West: The Qing Conquest of Central Eurasia ”を35ドルでダウンロード購入できる。これは,ハードカバー版と同じ価格(35ドル)である。そこで,Amazonを覗いてみた。すると,Kindle版は用意していないが,ハードカバー版が23.1ドルの割引価格で売られているではないか。Scribdの電子版を割り引かないのは,電子書籍に対して薄利多売になることを恐れているのだろうか。

Amazonも大学をKindle版電子書籍の重要な市場して,力を入れている。科学やコンピュータサイエンスの教科書がプレインストールされたKindle DXを、秋の新学期に一部学生に配布する予定である。この実験に、Pace, Princeton, Reed, Arizona State, and Darden School at the University of Virginiaが加わることになっている。教科書出版社を取り込もうしているのだろう。学生は重たい教科書や資料から解放されるので,嬉しいかも。
だが,AmazonがコントロールするKindleの垂直型ビジネスに対して,出版社は警戒している。一方のオープンな水平型モデルを採用したScribdは,販売のやり方の自由度が高く,またリーダー装置(ネットブック,スマートフォン,電子書籍専用端末、パソコンなど)の制約も少ない。出版社としては,電子書籍の販売チャンネルとしてAmazon以外の道を確保しておきたいのかもしれない。
大学での「Kindle対Scribd」の主導権争いは,これからの電子書籍市場の行方を占う意味で見逃せなくなってきた。
追記:Amazonを間違ってAppleとしていました。ご指摘して頂いた方,ありがとうございました。
◇参考
・Harvard University Press to sell 1,000 Books on Scribd(Scribd Blog)
・The future of scholarship? Harvard goes digital with Scribd(ars technica)
・開花する電子書籍市場,本命Amazonに挑むScribd(メディア・パブ)
○Amazon