paper cutsマップによると,今年に入って1万3253人の従業員が,勤めていた新聞社のオフィスから追いやられたようだ。
米大手新聞社のMcClatchy(マクラッチー)が今年第2四半期に増益になったのも、大幅人員削減が利益を押し上げただけのこと。同社は昨年6月に全従業員の10%に相当する1400人の削減を発表し、さらに今年3月には15%に相当する1600人のカット(“McClatchy Plans to Cut 15% of Staff”,NYTimes.com)を明らかにしていた。Blommberg.comの記事“McClatchy Extends Wage Halt, Enforces Unpaid Leave ”によると,居残った社員は賃金凍結が言い渡されるかもしれない。
人員削減の対象は、ニュース編集室のジャーナリストにも及んでいる。というか人件費削減にはジャーナリストのカットが最も効果的となっているだけに、ジャーナリストが標的になっている。新聞と同じように,BusinessWeekなどのビジネス誌やNewsWeekなどのニュース週刊誌も、ジャーナリストが厳しい状況に置かれている。
ところが,この事態をチャンス到来と手ぐすねを引いていたメディアサイトが活発に動き始めている。AOLである。同社はTime Warner から独立して再スタートすることになった。そのAOLの会長兼CEOに,Googleで広告戦略を指揮していたTim Armstrong氏が今春に就任したが,どうもAOLを世界最大クラスのオンラインパブリシャーに育て上げたいとか。すでに細かくセグメント化したバーティカルな分野のオンラインサイトを80近いタイトルをひとまとめにし,Media.Glow.comのブランド名の下で大展開を進めつつある。TechCrunchやBNETの記事によると,このAOLのメディア部隊には約1500人のスタッフが働いている。その中には,BusinessWeek, New York Times, USA Today, ESPN, Washington Post, Wall Street Journal, Forbes, Consumer Reports, Condé Nast などの有力プリントメディア企業から転職してきたジャーナリストもいるし,地方新聞や大手雑誌社の出身者も多いという。
さらにAOLは近いうちに,スタッフを現在の2倍から3倍に増やしたいという。1500人の2〜3倍とは,すごい大風呂敷を広げたものだ。集めたいのはブログ記者のはず。フルタイムでAOLで働く記者も採用するが,フリーランサーが多いようだ。 Marty Moe氏(SVP of AOL Media)は「どのコンテンツカテゴリーにおいても,優れたライターをすぐに獲得できる」と語る。そりゃそうだろう。新聞や雑誌のプリントメディア社のジャーナリストがこれだけ次々とレイオフされているのだから。解雇されなくても、プリントメディアに見切りをつけた人も多いはずだ。それに今だと買い手市場で,かなり低賃金で雇うことができるようである。プリントメディアからネットメディアへ,ジャーナリストの大量移住が始まろうとしているのかもしれない。
Marty Moe氏は「すでに米国内で7600万人の月間ユニークユーザー数を誇る米最大のオンラインパブリシャーであるが,これからは高品質のコンテンツを提供する世界最大のパブリシャーに育て上げる」と抱負を語る(BNETの記事より)。確かに,80近いタイトルの中には,人気ブログが目白押しである。ブログ検索エンジンのTechnoratiが選んでいる世界トップ100 blogsにも,27タイトルのブログが選ばれている。参考までに世界トップ10のブログを以下に掲げておく。EngadgetとTMZ.comはAOLのブログである。TMZ.comはマイケルジャクソン心停止をいち早く報じたメディアとして話題になった。
1. The Huffington Post(Breaking News and Opinion)
2. TechCrunch
3. Mashable!
4. Engadget
5. Boing Boing
6. The Official Google Blog
7. Gizmodo
8. Lifehacker
9. Ars Technica
10.TMZ.com
AOLが新聞社や雑誌社でレイオフされたジャーナリストの受け皿になるのかもしれないが,一方でBarronによるとそのAOLで今週にも大量レイオフが発表されるとの噂も。これまで何度か期待を裏切ってきたAOLだけに,ほんまに世界一のオンラインパブリシャーになれるのか。ちょっと不安ではあるが,このような挑戦は楽しみでもある。
◇参考
・AOL's Business Model: "High-Quality Content to Scale"(BNET Media)
・AOL Newsroom Now Has (Wow) 1,500 Writers(TechCrunch)
・ジャーナリズムは再生するか―新New York Times私案(TechCrunch Japanese)
・AOLが世界最大級のオンライン雑誌社を目指す,タイムの紙雑誌リソースに頼らず(メディア・パブ)
・AOL’s MediaGlow Sites Achieve Record Traffic Growth In 2008(Taxi)
・Massive AOL Layoffs? Not Imminent–But Top-to-Bottom Cost Exam Definitely in Process.(BoomTown)