彼はオンラインコンテンツの有料ビジネスの成功事例としてWSJ.comを取り上げ,WSJ.comを見習ってメディア業界が手を組んでpay wall(課金の壁)を設けるべきだと呼びかけている。ところがマードックの行動には矛盾が残っている。その有料のWSJ.comの記事がグーグルの検索エンジン経由でタダで読めることがあるのだ。
試してみよう。先ほど,WSJ.comにアクセスしてみた。次のようなトップページ画面が現れた。
ここで鍵マークが付いた記事が有料コンテンツである。そこで鍵マークの付いた記事"Hu Outlines Domestic Focus at APEC Summit"に飛んでみた。飛び先のページでは,その記事の本文は2行しか表示されないで,本文全文はpay wallで遮られた。購読申し込みの案内が出ている。
だが,ソーシャルメデャアに馴染んでいる人だと,ここであきらめない。グーグルの検索エンジンに,以下のように見出しを入力する。
検索結果のトップに,その記事が現れた。
その検索結果をクリックすると,以下のように有料記事の全文がタダで閲覧できる。
実は,この種の仕掛けは前から施されていた。「有料のWSJ記事をタダで読む裏技,WSJがこっそりとソーシャルメディア対策を」でも既に紹介していた。ソーシャルニュースサイトDigg経由でも,有料記事が閲覧できた。
ユーザーが新聞サイトのニュース記事に接触する経路として,二つのタイプがある。一つは,新聞サイトに目的地サイトとして訪れて,そこから好みの記事を閲覧していくタイプである。この経路を取るのは中高年者が多い。もう一つは,ソーシャルメディア経由で特定の記事を閲覧するタイプである。若い層が多い。
そのソーシャルメディア経由のユーザーを増やすことに,新聞社サイトも力を入れ始めている。ソーシャルメディアで記事の存在が口コミで知れ渡るには,検索エンジンで検索されることが重要になる。ブロガーが検索エンジン経由でWSJ.comの記事にアクセスし,その記事をブログで引用する場合が多そうだ。実際,米国のソーシャルメディアでよく話題になる新聞社サイトの記事としては,NYtimes.comとWSJ.comが目立って多い。
このように,ソーシャルメディア経由のトラフィックを増やすために,WSJはグーグルの検索エンジンの世話になってきたとも言える。ソーシャルメディアの世界では,有料コンテンツは相手にされない。そこで裏技的に,グーグル経由でアクセスすれば有料記事までが無料で読めてしまう。これだと,グーグルの検索エンジンでニューズ社のコンテンツをシステム的に検索させないようにすると困るのは,グーグルではなくてニューズ社(WSJ)ではないのか。
ニューズ社のCOOもWSJのpaywallに問題があることを認識している(こちらの記事)。それでも,マードックはRupert Murdoch to remove News Corp's content from Google ‘in months’ とこぶしを上げてしまっただけに,・・・。大きな墓穴を掘らなければいいのだが。
◇参考
・News Corp COO ponders overhaul of WSJ's paywall system, others still don't think it will work(editorsweblog.org)