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2006年02月20日

インターネットの危機説,中立性が崩壊するかも

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  インターネットビジネスはしばらく順風満帆だろう。どの調査会社もこぞって,2010年まではバラ色一色の予想図を描いている。オンラインコマースやインターネット広告などの市場も,2桁台の高度成長が間違いないとのこと。しかし一方で難題も浮上。「インターネットの危機」とか「インターネットの終焉」といった,とんでもない話が持ち上がってきたのだ。特に今年に入って,米国のニュースやブログで,“The End of the Internet?”をテーマにした記事を見かける。聞き捨てならない話なので追ってみた。

ネット利用企業 対 ネット供給企業

  昨年あたりから,SBC/AT&T やVerizonなどのネット(インフラ)企業とGoogleやYahooなどのネット(サービス)企業との間で,激しい綱引きが始まっている。この綱引きの結果次第では,深刻なインターネット危機が襲来するかもしれないというのだ。

  インターネットサービスプロバイダー(ISP)でもある,テレコム事業者やケーブル事業者の言い分はこうだ。ブロードバンド時代を迎えトラフィックが急激に増え始めており,このままではインターネットがパニック状況に陥るとの主張である。相次ぐ設備投資に追われ,経営環境が厳しくなっているテレコム事業者としては,早急に何らかの手を打ちたい。そこでISPは,新たな収益源を求めて,優先接続のインターネットサービスの導入を企んでいるのだ。追加料金を払ったユーザーには,優先的に回線(帯域)を割り当てようとするサービスである。

  この優先接続サービスの動きに,当然のごとくネット企業は猛反発を。表向きの反対理由としては,インターネットの中立性の崩壊を掲げている。インターネットの精神は,誰もが平等にインターネット接続サービスを受けられること。これに背くことは許し難いとの主張である。金持ちの企業や人だけが,インターネットの恩恵に浴することになっていくと,市民団体も反対運動の輪に加わってきた。もう一つ,ネット企業には,優先接続サービスをどうしても阻止したい事情がある。Verizonなどのネットインフラ企業が垂直統合型ビジネスに活路を見いだそうとしている動きである。Skypeなどの台頭で固定電話売上に頼れなくなったテレコム事業社が,ビデオオンデマンドや音楽配信などのアプリケーションサービスに力を入れるのは当然の流れかも。そこでGoogleやYahoo,Amazonなどのネット企業が警戒心を抱いているのだ。テレコム事業者が自社サービスを後押しするために,自社Webサイトの接続を優先させるのではと。

  こうした中で,ネット(サービス)企業としては,ネットワーク中立性の新法を制定させて,公正なインターネットサービスを徹底させたいのである。逆に,ネット(インフラ)企業は,優先接続のインターネットサービスを実施していきたい。両陣営のロビー活動も活発である。昨年の夏にGoogleに入った“インターネットの父”Vint Cerfも,インターネット中立法が成立しなければ,これからのインターネットが危機に瀕すると,各方面に訴えている。綱引き合戦の結果次第で,インターネットビジネスの主導権勢力図が大きく変わるかもしれなのだ。どっちに転ぼうと,ネット企業にとって,インターネットの利用環境は厳しくなりそうである。
   
Googleのビジネスモデルにも影響が

  ここ数年,インターネットのインフラは,ネット企業にとって望ましい方向で整備されてきたといえる。より高速な接続サービスが比較的安い定額制で提供されてきたからだ。安くインターネットが利用できたのは,光波長多重技術により光ファイバー容量が場所によって一気に数十倍近くに膨れあがったお陰である。インターネットのバックボーンインフラがジャブジャブの状態で有り余っていたのである。だが,この状態がいつまでも続くわけではない。今のペースでビデオトラフィックが急増していくと,いずれ回線が不足してくる。設備投資も嵩む。

  ブロードバンドインフラで米国よりも先行している日本では,すでに問題が浮上してきた。日経コミュニケーションの記事(2006年2月15日号)『特集2 GyaO間題で露呈したプロバイダの “ぜい弱性”』によると,無料ブロードバンド放送GyaOのトラフィックが急増し,ISPがネット増強に追われているとのことだ。GyaOサーバーを接続しているISPネットワークだけではなくて,中継のISPネットワークまでがGyaOのトラフィックの大波を受けている。そこで,NTTコミュニケーションなどのISPが,トラフィック増による設備投資をユーザー側,ここではGyaOにも負担させようと動き出しているという。

  こうした動きを見ていると,これからも,完全な定額制が維持されるかどうか。厳しそうだ。優先接続サービスか,段階的な定額制を取らざる得ないかもしれない。これまでネット企業は,一定料金を払えさえすれば,事実上無限に世界中のインターネットインフラを使えたのである。それを前提にしたビジネスモデルで,GoogleやYahooなどのネット企業は躍進してきたともいえる。ビジネスモデルの見直しを迫られるかも。

  トラフィックの流れを制御できる立場のインフラ企業が,インターネットの中立性を無視した形で垂直統合型ビジネスを展開するとなると,Googleのビジネスモデルすらも危うくなる。その対応策か,GoogleがVint Cerfを招聘して,自前のインターネットGoogleNetを構築しようとしているのは。今のところGoogleNetは噂の域を超えない。だが,いざという場合のために,垂直統合型ビジネスでも対抗できる準備を整えているのかもしれない。


◇参考
・The End of the Internet?( The Nation.)
・The Coming Tug of War Over the Internet(washingtonpost.com )
・A Gated Internet(PCWorld.com)
・Hijacking the Internet(MediaChannel.org)
・Internet neutrality law needed, Vinton Cerf says (InfoWorld)
・Googleの自前インターネット計画,うわさ記事が英Timesに (メディア・パブ)
・・インターネットの父“ Vint Cerf”がGoogleへ,GooglNetを着手するのか?(メディア・パブ)



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posted by 田中善一郎 at 08:20 | Comment(0) | TrackBack(8) | ポータル サーチエンジン
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Excerpt: メディア・パブ: インターネットの危機説,中立性が崩壊するかもを読んで。  ブロードバンドによる急激なトラフィック増加で設備投資に追われる米国のテレコム事業者が、優先接続サービスの導入を画策して..
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