これは、Guardian(英ガーディアン)紙の昨日のトップページである。そのページ上段で、guardian.co.uk(GuardianのWebサイト)は"The world's best news website. Free this month. And every month."であると売り込んでいる。「Guardianのサイトは世界でもっとも優れたニュースサイトで、今月それを無料で読める。さらにこれからも毎月“無料で”読める」・・・。
新聞紙の購読者に向かって、同紙のニュースサイトでベストのニュースが“無料”で閲読できると言い張るのだから驚いてしまう。だがGuardianとしては、優れたニュース記事がWebでこれからもずーっと無料で読めるということを主張しておきたい事情があるのだ。
昨年からNews corp.のルパート・マードック(Rupert Murdoch)は、新聞サイトの有料化の必要性を新聞業界に呼びかけており、News Corp.自身も傘下の新聞サイトの有料化に乗り出すことになっている。その本格的な有料化の第一弾が、英The Timesのサイトである。その新しいWebサイト(日刊紙The Timesのサイトと日曜紙The Sunday Timesのサイト)が先週から立ち上がっており、6月末までに有料化を実施する。マードック側としては、優れたニュース記事をアクセスするためには購読料を払うという習慣を、読者に植え付けたいのである。
そのマードック有料化戦略に対抗しているのがGuardianである。購読料を払わなくても、優れたニュースにアクセスできると反発しているのだ。Webサイトの無料サービスを継続させることによって、世界トップクラスのニュースサイトを目指している。
欧米の新聞社で最も先進的なサイトを構築し運用してきたのは、米国のNYタイムズと英国のGuardianである。Web2.0のユーザー参加型のサービスなどを次々と展開してきた。両新聞社は、ソーシャルメディア化の進んだ新聞サイトを築き上げてきた。ただし、従来の新聞紙の延長上のニュースサイトを望む中高年層には、その有難さを実感してもらえなかったかもしれないが・・。
この先進性が功を奏したのか、GuardianのサイトはNYTサイトに次いで、世界第2位の月間ユーザー数を誇る新聞サイトになっているという。世界から毎月3600万人ものアクセスを受けている。ところが新聞紙であるGuardian紙は発行部数が40万部前後に沈んでおり、英国内で9番目の新聞紙にすぎない。逆にWebサイトは、英国でトップを競うニュースサイトとして存在感が増しているのだ。これからは一段とWebサイト事業に傾斜し、無料でオープンを前提にソーシャルメディア化を進めていくことになろう。
The Timesの有料化実施を、Guardianは反撃するチャンスととらえているようだ。有料化サービスはどうしても閉鎖的になりがちである。The Timesも、同サイト内の記事をGoogleなどの検索エンジンで検索させないようにするようだし、ブログ記事も課金の対象とし無料でアクセスできないようにしていく。外部のソーシャルメディアとの関係が希薄になっていく。無料で開放的なGuardianサイトとしては、The Timesのこれまでのユーザーを取り込めるチャンスである。
また、The Timesの閉鎖性に反発して、飛び出すブロガーも出てきた。The Timesのサイトで3年間、法務分野のブログ記事を投稿していた弁護士のTim Kevan氏が、寄稿を止めることになった。理由は、投稿ブログ記事が課金の壁の向こう側に置かれることになったからだ。ブロガーやコラムニストの多くは、より多くの人に読んでもらいたいために、課金の対象になるのを嫌がる。人気の法務ブログが無くなった結果、The Timesのサイトでは法律分野の記事が手薄になったようだ。
一方guardian.co.ukは、この動きに合わせたかのように、以下のような法律分野の新設ページを設けた。The Timesサイトの読者がまたguardian.co.ukに流れていくことになるのかも。
◇参考
・‘This could be very interesting’(kippreport)
・Guardian plugs its website as 'free and world's best'(JON SLATTERY)
・Times Cuts Back Before The Wall, As Guardian Tries Law Site(paidcontent:UK)
・マードックの英新聞サイト、有料化を目前にトラフィックデータのABC考査を取り止め(メディア・パブ)
・Times law blogger withdraws from site over paywall plans(journalism.co.uk)
・Press release: Tim Kevan withdraws his blog from The Times to avoid being associated with their new paywall(BabyBarista)