コンデナスト社が発行している月刊誌「WIRED」の電子版(iPad版)は、6月号が5月26日から売り出されていた。価格はスタンド(店頭)での1部売りと同じ4.99ドルであった。米国の一般の雑誌読者からすれば、4.99ドルはかなり高い価格である。
米国の雑誌は一般に、年間購読のような定期購読が中心で、「WIRED」誌の年間購読料(12冊、送料込)は10ドルであるから、1冊あたり1ドル以下になる。電子版の4.99ドルは、紙雑誌の年間購読の場合に比べると、一冊当たり5倍以上の値付けである。でも同誌発行人は、6月号のiPad版の電子雑誌は9万5000部も売れたと自慢する。新しい物好きのiPadの初期ユーザーが、試しにと話題の6月号を購入したのだろう。それでも、これだけ売れれば成功である。
ところが、電子版WIREDの7月号から、4.99ドルから3.99ドルに値引きすることになった。最初の6月号も20%カットの3.99ドルになる。
構造的な紙媒体不況の中で米国の多くの出版社は、モバイルアプリが大きな活路となることを期待している。タダ同然の定期購読で読者を増やし、広告売上げに大きく頼るビジネスモデルが崩壊してきている。そこでiPad版の電子雑誌で先行している雑誌社は、購読料収入に賭けていきたい。
大手出版社の有力雑誌もiPad版電子雑誌を出し始めているが、多くは1冊(1コピー)あたりの価格を「WIRED」と同じく4.99ドルに設定している。つまり、店頭での一部売りと同じ価格設定である。
「Popular Science」、「TIME(Magazine)」、「Men's Health」 、「VANITY FAIR」 などの各iPad版電子雑誌の価格は、いずれも4.99ドルであった。購読料収入を増やしていきたい雑誌社とすれば、電子雑誌の価格の相場を高くもっていきたい。だが当然、ユーザーからの反発は出てきている。
たとえば「Popular Science」の年間購読料は5ドルである。1冊あたり0.42ドルなのに、電子版では4.99ドルと10倍以上になる。週刊誌の「TIME(Magazine)」では年間購読料が20ドルなので、1冊あたり0.36ドルで毎週最新号が郵便受けに届けられる。それが電子版になると4.99ドルである。電子版が、単に紙雑誌をデジタル化しちょっと動画を加えた程度では、多くの米国読者はついてこないだろう。
確かに、「WIRED」の電子版6月号のデモビデオを見ると、紙媒体プラスアルファのコンテンツも多く、かなり頑張っていると思ったのだが。
それでも、WIRED Magazine for iPad on the iTunes App Store におけるユーザーの声(Customer Reviews)は厳しい。雑誌コンテンツがベースになっていることやソーシャルネットワーキング機能が不足しているなどの不満の声が。要するに高い値付けに向けられているようだ。そこで、20%の値引きを敢行したのだろう。
◇参考
・Wired’s iPad App Boasts a New Feature: A Price Cut(MediaMemo)
・Conde Nast Does Last-Minute Pivot On Wired App Pricing(paidContent)
・Why iPad mags cost $4.99 each(Fortune)


