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2010年08月08日

米雑誌社コンデナスト、ビジネスモデルを見直して再飛躍めざす

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 米雑誌社大手のコンデナストに活気が戻ってきた。次々と新しいプロジェクトに取り組んでおり、これからの展開が楽しみである。

 米国の雑誌産業は、景気低迷による深刻な広告不振に加えプリントメディアとしての構造的な問題も抱えているため、一昨年あたりから休刊や人減らしが日常化し、長期低落が終わりそうになかった。名門雑誌社のコンデナスト(Condé Nast )社も例外ではない。昨年秋には、グルメ誌の定番とも言われた「Gourmet」を含め、4誌の一斉休刊を断行せざるをえなかった。同社の有力誌の「Vogue」や「Vanity Fair」ですら、昨年(2009年)の広告売上げは2008年より27%前後も落ち込み、たとえばVogue1誌だけでも約1億ドルも前年に比べ広告売上げが減ってしまった(最後部の表を参照)。

 雑誌経営の抜本的な見直しが避けられなくなっていた。そこでまず、人事の刷新を。会長には内部からの昇格であるが、Robert A. Sauerberg氏が就いた。就任するや青写真として、収益モデルの見直しとブランドビジネスを宣言した。米国の多くの雑誌社と同じく、コンデナストも売上の大半を広告収入に依存している。同社の場合、総売上の約7割を広告売上げに頼っている。ここまで広告に依存していると、昨年のように主要雑誌の多くで広告売上げが20%〜30%も激減してしまうと、一気に経営危機に陥ってしまう。

 そこで今後は、過度な広告収入依存から脱却し、読者から得る購読料などの収入を増やすことに注力することにしたのだ。 米国の雑誌では、購読数が100万部クラスの大部数雑誌も珍しくないが、購読料売上が意外と少ない。広告売上げを増やすために(広告単価を上げるために)、安い年間購読料で多くの定期購読者を獲得しているからである。ニューススタンドで一部5ドル程度で売っていても、年間定期購読では一冊当たり1ドル程度と大幅割引を実施している場合が珍しくない。広告売上がたっぷりと見込める場合は、数分の1程度の大幅割引の購読料金でも成り立っていたのだ。

 でも景気後退が収まった今年に入っても米国の雑誌(プリントメディア)の広告は、以下のグラフのように回復が鈍い。広告メディアとして相対的に弱体化している。今年の第2四半期にはようやく一部の雑誌で広告のV字回復が見られるが(最後部の表を参照)、読者の紙離れが止まりそうもないだけに、やはりプリントメディアの広告に大きく依存し続けるのは無理であろう。

printmediaAd2010Q1.JPG

 となるととりあえず、読者から徴収する購読料売上を増やしていきたい。問題はどこで徴収していくかである。コンデナストもこれまで、プリント(紙)だけではなくてデジタル、特にWebサイトの展開にも注力してきた。だが残念ながらWebコンテンツでは無料が定着しており、コンデナストの雑誌のようなコンシューマ向けコンテンツをWeb上で有料化するのは容易ではない。

 そこでコンデナストが救世主到来とばかりに期待を寄せたのは、iPadのようなモバイル端末である。特に注目したのは、iPadアプリのようなモバイルアプリでは、雑誌コンテンツをパッケージした形で提供できることである。雑誌をニューススタンドで1部売り(有料販売)することが、オンラインで実現できるようになるからだ。

 同社の動きは早かった。iPadが販売される前からいち早く、「GQ」、「Vanity Fair」、「Wired」、「Glamour」、そして「The New Yorker」 の5雑誌について、今年の夏あたりまでに、電子版をiPadアプリの形で発売することを明らかにした。予告通り、「GQ」、「Wired」、「Vanity Fair」、それに8月に入って「Glamour」のiPadアプリを売り始めている。各号のiPadアプリの販売価格を、ニューススタンドでの雑誌の1部売り価格に合せたのも、購読料売上アップを目指しているからであろう。

 以下の「Glamour」のiPadアプリのダウンロードも、ニュースタンド価格と同じ3.99ドルとなる。ただしアプリには、ビデオやオンラインショッピングなどが加わっており、雑誌プラスアルファのコンテンツとなっているようである。

Glamour20100803.jpg



 iPadアプリなどのモバイルアプリに力を注ぐと言っても、同社のコア事業はまだ当分は紙の雑誌であろう。そこで、紙の雑誌に加えてiPadのような新しい多様なプラットフォームやWebサイトにも対応できる統合的な編集システムを整備しなければならない。ブランドを生かしたマーケティングビジネスにもシステムの支援が欠かせない。そこで先週、同社は新しいCTO(chief technology officer)にJoe Simon氏を任命した。彼はこれまでViacomのCTOであった。

 さらに同社は同じ先週に、派手な発表を打ち上げた。同社本社を、グランドゼロに構築中の 1 World Trade Center(写真はこちら)に移転するとの発表である。もちろん構築中なので、入居はまだ先の話である。それにしても、ニューヨーク市の新しいシンボルとなるビルに本社を構えるとは、コンデナストらしい。 


◇参考
・Glamour Selected as Magazine of the Year(NYTimes.com)
・Transcending Print:A Q+A with new Condé Nast president Robert Sauerberg.(Folio)
・Condé Nast Is Changing Its Blueprint(NYTimes.com)
・Condé Nast Names a Chief Technology Officer(NYTimes.com)
・Condé Nast Taps Viacom Exec to Explore New Publishing Platforms(EPICENTER,Wired)
・Another Magazine App? Yep. But This One’s For the Ladies: Condé Nast Brings Glamour to the iPad.(MediaMemo)
・Vogue Ad Pages Rise 24 Percent for September(Media Decorder、NYTimes.com)
・大手出版社コンデナスト,「グルメ」など4誌を一気に休刊(メディア・パブ)
・Make no mistake: Newspapers are still in trouble(REFLECTIONS OF A NEWSOSAUR)
・Condé Nast to Move to Skyscraper at Ground Zero(NYTimes.com)
●追記の表1
USMagazine20082009Revenue.jpg


●追記の表2
*2010年第2四半期の広告売上高と広告ページ数(前年同期比)
USMagazuneAd2010Q2.jpg
(ソース:MPA)

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posted by 田中善一郎 at 23:03 | Comment(0) | TrackBack(0) | 出版 雑誌
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