これまで、雑誌社が既存雑誌(紙)の電子版をiPadアプリで提供する場合、AppStoreでの一部売りが前提になっていた。Appleは電子雑誌の課金を含む販売代理すべてをAppStoreで実施すことになっている。雑誌社からすれば、定期購読までAppleの管理下に置かれることを非常に嫌っていた。米国の多くの雑誌は、一部売りよりも定期購読に頼っており、定期購読者の個人情報は手元に置きたいからだ。
Newsweek誌の場合、2009年の有料購読部数が前年比14.85減の232万部と落ち込んだが、それでも定期購読部数が225万部もあった。一方のニューススタンドで一部売りされる部数は、わずか6万4000部であった。以下のように、定期購読の場合の一号あたりの価格は、ニューススタンドの一部売り価格の数分の一以下である。読者は年間購読料として40ドル程度払っておれば、毎週、郵便受けに最新号が送られてくる。一号あたり約70セント(60円以下)である。多くの読者が、定期購読になびくのは当然かも。雑誌経営も、200万人以上の安定した定期読者向けの広告収入に頼っていた。
*Amazon書店におけるNewsweek誌(紙)の価格

ところで、一号売りするiPadアプリの販売は、いわばニューススタンドのデジタル版のようなもの。iPadアプリの販売価格も2.99ドルと、リアルのニュースタンドでの雑誌とほぼ同じ価格設定にしている。これではiPadアプリを買ってくれるのは、ニューススタンドで雑誌を購入する代わりとしてか。紙の雑誌を定期購読している読者にすれば、2.99ドルは高すぎる。このままでは、iPadアプリの売上部数を増やすのはかなり難しそう。
そこで、定期購読による割引販売を始めた。12週間(12号分)の定期購読料を9.99ドルに、また24週間(24号分)の定期購読料を14.99ドルに設定したのだ。Appleの購入システムを使って、読者はiPadアプリの定期購読ができるようになる。特に半年(24週間)の定期購読なら、1号あたりの価格が0.7ドルを切る。それに、ニューススタンドに紙の雑誌が現れるほぼ2日前に、同じ号の電子雑誌(iPadアプリ)がダウンロードして得られるだろう。定期購読で配送される紙の雑誌よりも、同じように早く電子雑誌が入手できるはず。これなら、読者は歓迎する。
*AppleのAppStoreにおけるNewsweekのiPadアプリの価格

ここで日本から定期購読しようとアクセスしてみたら、次のような画面が出てきた。12週間の定期購読料が1200円に、また24週間の定期購読料が1700円と、米国のドル価格よりも割高になっていた。それでも24週間購読を申し込めば、一号あたり約70円と安い。日本の某オンライン書店では、紙のNewsweek誌(英語版)を定期購読しても、6ヶ月間購読で1冊(一号)あたり380円、年間購読で352円、さらに3年間購読でも288円となる。さらに配送に時間がかかる。
このような料金の安さが実現し配送の早さも伴えば、それだけでも電子雑誌は魅力的だ。Appleのアプリ購入システムを使って、安い定期購読が受けられるようになったのは、読者にとっては素晴らしいことである。でも、NewsweekとAppleの間でどのような契約がなされたのかが、もうひとつ分からない。今回の定期購読サービスは、新規に申し込む人だけが対象であるようだ(既存の紙の定期購読者は対象でないようだ)。ともかく、iPad向けの定期購読サービスが軌道に乗れば、米国の電子雑誌ビジネスも離陸に向かうのかもしれない。
◇参考
・Newsweek Offers iPad App With Subscription Option(NYTimes.com)
・売りに出たニューズウィーク誌、火の車のニュース週刊誌に買い手が現れるか(メディア・パブ)
・米アップルと大手雑誌社の綱引き、iPad向け電子雑誌を雑誌定期購読者に無料提供へ(メディア・パブ)


