そしてこのほど正式に、有料化サービスの成果が公表された(リリースはこちらで)。 そのリリースの中で、
“As a result, the total paid audience for digital products on The Times and The Sunday Times is close to 200,000 ”
と誇らしげに、デジタルコンテンツの有料購読者が早くも約20万人に達したことを伝えた。経営者も、非常に順調に滑り出したと興奮気味に語っている。
このようなリリースが急遽出てきた背景には、The Times (“The Times” include both The Times and Sunday Times)のWebサイトのトラフィックデータが、1週間ほど前にNilsenから明らかになったことがある。有料化前に同サイトのユニークビジター数が300万人を超えていたのに、有料化後に有料コンテンツに接した人が約10分の1に近い36万人に過ぎなかったからだ。36万人のうち、実際に購読料を払っているユーザーはかなり少ないのではとの悲観的な声が大きくなってきていた。
有料購読者が20万人の発表は、その悲観論を打ち消すもりであった。だが20万人の内訳を見ると楽観視できない。実際に購読料を払ったのは10万5000人である。そのうち月間の定期購読者は、半数の5万人である。iPadやKindleの有料ユーザーも含まれている。残りの5万5000人は、£1の1日パスや £2の1週パスのお試しユーザーである。さらに(20万人ー10万5000人)の10万人弱の有料購読者というのは、新聞紙読者でデジタルアカウントを無料で取得した読者である。
このように、新規に購読料を払って、有料コンテンツを閲覧するようになった人は5万人ということである。ただし、新規有料購読者が5万人であることを、かならずしも悲観すべきでないかもしれない。今後の増え方次第だが。
でも、問題点が浮き彫りになってきた。有料サイトが20万人レベルでは、広告メディアとして成り立てていくのは厳しい。逆にWebサイトの無料路線を貫く新聞サイトにすれば、The Timesのような有料化の動きはトラフィックを呼び込める追い風になる。その典型が英Guardianのサイトだ。英国のメディアサイトが、
Rupert Murdoch's "fail-wall" - "Open" Guardian revenues up 50%(The London Daily News.com)
というように、Guardianサイトの広告売上げが前年比で50%もアップしたと報じている。
さらにThe Timesのように強固なPay Wallですべてのコンテンツを事実上囲い込むと、The Timesのコンテンツがソーシャルメディアの世界から消え失せることになる。以前は、The Timesのコンテンツはソーシャルメディアでよく話題になった。また200年以上前の記事も対象にしたデジタルアーカイブを開発するなど、The Timesのサイトは人気者であった。ところがPay Wallによる閉鎖で、FacebookやTwitterでThe Timesの記事が取り上げられることが激減しているはず。つまり、ネット上でThe Timesの存在感が減るのは避けられない。それは、紙の新聞にも影響するのでは。
実際、The Times とSunday Timesの新聞紙の発行部数が激減している。ABC考査の最新データによると、The Timesは前年比14.8%減、Sunday Timesが9.5%減と大幅に発行部数を減らした(5万部以上減らしている)。かならずしもサイトの有料化が原因ではないが。
ともかくThe Timesサイトの有料化は前途多難である。
◇参考
・ロンドンタイムズ、オンライン有料化でどれくらい読者が去ったか(メディア・パブ)
・More Than 100,000 Pay for British News Site(NYTimes.com)
・Times reveals paying audience of 200,000(MarketingWeek)
・UK Times’ Paywall Numbers: 105,000 Sales Since Summer, 50k Subs(paidContent.org)
・The Times circulation falls to 16 year low below 500,000(BrandRepublic)
・Rupert Murdoch's "fail-wall" - "Open" Guardian revenues up 50%(The London Daily News.com)