英国の科学誌「NewScientist」を日本で購読しようとすると、ある国内のオンライン書店では購入価格が1冊1869円もかかる。年間の定期購読にしても9万円以上(1冊あたりは同じ1869円)と高価である。ところが先月オープンになったZinioのサイトで「NewScientist」の電子版を購入すれば、1冊が483円で購入できる。年間購読にすると5842円(1冊あたり115円)と猛烈に安くなる。先の紙の雑誌に比べると16分の1以下の年間購読料だ。その上、紙の雑誌の場合は海外からの配送のため、状況が悪いと発売日から20日も後に届く場合もあるのに、電子版だと発売と同時に入手できる。

紙の海外誌が高価になる最大の要因は、海外からの郵送料がかかるからである。電子版になれば配送料は事実上無料で済む。さらに造本費(紙代、印刷代、製本代など)もかからない。また、特に米国では通常、定期購読にするとと大幅に割り引いてもらえる。ニューススタンドの一部売り価格に比べて、年間購読だと80%くらいの割り引きも珍しくない。でも定期購読の大幅割引の恩恵を日本の読者が、これまでの紙の雑誌ではあまり享受できなかった。毎号の郵送料がかかっていたからである。だが電子版になると郵送料が不要なため、日本の読者にも大幅割引の定期購読サービスが受けられるはず。「NewScientist」の年間購読料が、紙の雑誌の9万7188円から電子版になると5842円と激安になるのは、決して不思議ではないのだ。
Zinioサイト(Zinioの日本語サイト)では、同じような価格破壊を示す海外雑誌が出始めている。たとえば、「Popular Science」は、紙の雑誌を某オンライン書店で年間購読すると1万5360円であるが、Zinioの電子版(デジタル版)で年間購読すると1619円になる。また「Smithonian」の年間購読料も、紙の雑誌の9590円がZinioの電子版になるとわずか974円で済む。ところが昨日、某オンライン書店では「Smithonian」の販売を突然止めてしまっていた。
もう海外誌も電子版が出てくれば、紙の海外誌を日本で販売することは成立しなくなるかもしれない。ただ、価格破壊があまりにも強烈なので、どのような価格体系に変えていくかを注目したい。このためか日本のZinioサイトも、影響力の大きい一部海外誌の電子版販売を手控えているのでは。例えば、英「The Economist」の年間購読料は米国のZinioサイトで電子版(51冊)が126.99ドルとなっているが、日本のZinioサイトではまだ販売していない。日本で年間購読料3万4500円で販売している紙の「The Economist」へ配慮しているためであろうか。だが、同じビジネス誌である「Bloomberg Businessweek」は、米国での年間購読料(51冊分)が46ドルに対し、日本のZinioサイトで3733円と米国内並みの格安価格を実現している。
雑誌・書籍のデジタルコンテンツ配信サービス『Zinio』の日本サイトは12月にオープンしたばかり。同サイトで購入した電子雑誌は、PCやMac、iPadなどで閲覧できる。アンドロイド端末にも対応していく予定である。Zinioの電子雑誌は紙媒体のレプリカである。それをZinioリーダーソフトでペラペラめくりしながら閲覧することになる。
米国の有力雑誌が相次いでiPadアプリの形での電子雑誌をAppleの配信サイトで発売し始めている。だが、米国の出版社が目指している電子雑誌は、必ずしも紙媒体のレプリカではない。それよりも、紙媒体を超えた電子版ならではの新しい雑誌に挑んでいる。読者もそれを期待している。ところが問題になっているのが、定期購読の進め方である。出版社とAppleの間で激しい綱引きが繰り広げられている。このため現在は、電子雑誌は1冊単位でしか売られていない。格安な定期購読がまだAppleの配信サイトでは始まっていないのだ。
いずれ有力雑誌の電子版も、Appleのサイトなどで格安な定期購読料で売られることになるだろう。その時、Zinioのように米国とほぼ同じ格安の定期購読料を日本でも実現できるかどうか。一波乱が・・・。
◇参考
・ジニオ、日本で世界各国の雑誌のデジタル配信サービスを開始(プレスリリース)


