Convergence 2.0会議の基調演説で,Leo Hindery(Managing Partner, Intermedia Partners VII, LLP)が 喋った内容をまとめたブログエントリーである。Leo Hinderyはかつて米ケーブル会社TCIのCEOも務めた人物。“ポータル会社に死を”といった感じの基調演説をブツぐらいだから,ポータル会社のビジネスのやり方には我慢できないようである。
彼の主張はこうだ。まずコンテンツ/流通に関わる業種を,次のように3種に分類した。
・Portals (AOL, eBay, Google, MSN, Yahoo),
・Content Providers (ABC, NBC, Disney, など) ,
・Non-Broadcast Distributors (Cable, RBOCs, Satellite, Wi-Fi など)
この3グループの中で,Portals系企業だけが不当に荒稼ぎをしていると,ポータル事業者を糾弾する。Portals系大手5社は驚くべき株式時価総額を誇っている。だが,現在のポータル事業が成り立っているのは,Content Providers のコンテンツリソースやNon-Broadcast Distributorのネットワークリソースに全面的に頼ってこれたからだと言うのだ。
これからは,そうはいかないぞと脅す。まずContent Providers がポータル事業の領域に進出していく。また,ネット中立性が崩れ,タダ乗りに近いネットワークインフラの利用も難しくなる。その結果,最終的に,上記の大手ポータル5社のうち4社は,店終いをするか買収されるというのだ。
伝統的なメディア企業やテレコム企業が,GoogleやYahooなどの新興ネット企業の台頭を,日頃から苦々しく思っているのは確かだ。この基調演説も,業界の本音というか,願望を述べたに過ぎない。でも,無視できない動きも顕在化してきた。ネットの中立性を義務づける法案が米議会で否決されたりと,彼らのロビー活動パワーは無視できない。
中でも見逃せない動きに,昔の電話会社がこぞって担ぎ出そうとしているNGN(Next Generation Network)がある。オールIPをベースにした次世代ネットワーク構想である。実は,ネットの中立性とも深く関わる。固定電話事業が落ち込んでいるテレコム事業者にとって,このNGNに全てを賭けるほかないのかも。これまでのインターネットでは,silly networkと称されるように,付加価値サービスはネットの外側(上位層)に任せていた。そのため,その美味しい部分を,Googleなどの新興ネット企業に食い荒らされたとする被害者意識を抱いているのだ。
NGNでは,課金,認証,通信品質保証などの付加価値サービスをネットの内側に取り込む(こうしたサービスを実施する層のことを,業界内では「サービスストラタム」と言い出している)。特に日本では,テレコム事業者が,その「サービスストラタム」を独占的に実施することを企んでいるようだ。つまり,日本のケータイ事業と同じ垂直統合のビジネスモデルを願っているのである。
日本のケータイ事業は,キャリア主導の垂直統合ビジネスのお陰で,移動体通信事業者は無茶苦茶潤ったわけだ。ケータイの通信料金が世界で最も高くても,日本発のサービスやケータイ端末が世界で通用しなくても,キャリアとしては国内市場で大成功を収めたことになる。次世代のインターネットでも夢をもう一度と,テレコム事業者や通信メーカーが,なりふり構わずにNGN実現に邁進し始めているのだ。
この動きに警鐘を鳴らす声も,一部で出始めている。総務省(旧郵政省)の通信政策を後押ししてきた実力者までが,「サービスストラタム事業者の自由な参入を推進すべき」と発言。だが,米国でも日本でも,政治的なロビー活動となると,新興のネット事業者よりも,伝統的なテレコム事業者などのほうが上手である。基調演説の「ポータル会社に死を」は,単なる脅しではないかも・・・・。
◇参考
・Leo Hindery's death sentence for the portals(Tech Confidential Blog)
・インターネットの危機説,中立性が崩壊するかも(メディア・パブ)
・Senate deals blow to Net neutrality(CNET News.com)
タグ:ネット中立性