新聞社が運用するサイトとなると、これまでNYTimes.comがトップの座に居ついていた。一般に世界的なクオリティペーパーと称されているNew York Times(NYT)のサイトだから、不動のトップが当たり前と見られていたのである。ところが先週末、英国大手メディア持株会社 DMGT( the Daily Mail and General Trust)のCEOであるMartin Morgan氏が、「the Mail Online が5月にNYTを抜き去っているかもしれない」と言いだしたのだ。同社のHalf Yearly Financial Report(4月3日までの半年間)によると、2011年3月のMail Onlineの月間ユニークビジター数は前年同月比68%増の6600万人に達した記されている。また同月の1日当たりの平均ユニークビジター数は370万人で、前年に比べ63%も増えている。この勢いが続くと、決してあり得ない話ではない。
ただ、DGMTが発表したデータは第3者が調査したものか明らかでないので、どこまで信用してよいのやら。ちょうどcomScoreから新聞サイトのユニークビジター数の4月データが明らかにされていたので、そのデータをもとにNYTとMail Onlineのビジター数を2010年12月から2011年4月までプロットしてみた。3月は日本の震災・原発事故やリビア・シリアなどの中東騒動のビッグニュースが続いたため、新聞サイトのビジター数はこぞって跳ね上がった。ところが4月はその反動で、新聞サイトは一斉にビジター数を大きく減らした。特にNYTは、NYTimes.comが3月28日から実施した有料化開始時と重なったこともあって、4月のユニークビジター数が激減してしまった。一方のMail Onlineは他サイトのように大きく落ち込まないで、勢いが継続していることを見せつけた。その結果、1位のNYTと2位のMail Onlineの差が一気に縮まったのである。
*NYTimesサイトとMail Onlineサイトの月間ビジター数(ソース:comScore)、単位:千人
5月に入ると、英王室の結婚に絡む話題やビンラディン死亡に関するニュースもあって、新聞サイトのトラフィックは一休み気味の4月に比べると反発するはず。特にMail Onlineは5月のユニークビジター数をかなり増やしそうである。Mail Onlineは典型的な一般大衆紙である。長いトップページをスクロールしながら刺激っぽい大量の写真を見ていると、大衆受けする理由が分かるような気がする。トラフィックが急増したお陰で、オンライン広告売上げは1年前に比べ倍増したという。
DMGTのCEOは、iPhoneアプリも成功しているとMail Onlineの勢いを強調した。アプリは28万回ダウンロードされ、そのアプリを毎日6万6000人が利用しているという。広告付きアプリは無料だが、広告なしのアプリは有料で半年間購読が4.99ポンド(約670円)、年間購読が8.99ポンド(約1205円)となっている。iPadアプリの電子新聞も発行している。
一方のNYtimes.comは有料化の影響で、4月のユニークビジター数は大きくへこんだ。Quantcastのデータでも大きく落ち込んでいる。ただし、ニュース特需があった3月からの反動もあるため、有料化によるビジター数の減り方は意外と少なかったのでは。4月のビジター数が激減したと言っても、2月以前の水準は維持している。
(ソース:Quantcast)
オンラインの広告売上や有料購読などの収益性の点では、NYTimes.comのほうが圧倒的に高い。だが新聞サイトの月間ユニークユーザー数のランキングでは、大衆オンライン新聞Mail Onlineが高級オンライン新聞NYTimes.comを追い抜くのは間違いなさそう。
◇参考
・Mail Online expected to become world's most popular news website(journalism.co.uk)
・Almost 200 jobs cut at DMGT in first two months of year(journalism.co.uk)
・Will Mail Online overtake NYTimes.com?(Yahoo News)
・英Mail OnlineがNYTに迫る、ビジター数で世界2位の新聞サイトに(メディア・パブ)
・Half Yearly Financial Report:Daily Mail and General Trust plc(DMGT)