老舗雑誌AtlanticのWebサイト(The Atlantic+The Atlantic Wire)の月間ユニークビジター数が、5月に1000万人を突破したようだ。伝統的な硬派雑誌のサイトが、ビジター数をこの1年間で倍増させ、1000万人の大台に乗せるとは・・・。見逃せない動きである。
サイトの動きを反映して、デジタル広告が急増している。2011年1月〜5月のデジタル広告売上が前年同期比で20%も増えた。2009年1月〜5月に比べると219%もアップしている。その結果、Atlanticの総広告売上高(プリント+デジタル)のうちデジタル広告の占める割合は、2008年の16%から2010年は40%、そして今年は45%に達する予定だ。
このようにデジタル分野の割合が膨らんでいくと、その反動でプリント分野(老舗雑誌)が萎(しぼ)んでいくように思える。ところが注目すべきは、紙雑誌(プリント分野)も元気が出ていることである。米国の雑誌はこぞって、2008年後半から2009年まで金融危機による大不況で、広告売上と読者数を大幅に減らした。Atlanticも広告売上高が落ち込んだが、以下の表のように2010年から急反発した。発行部数も2010年には48万2659部と、2008年から10%も増えた。
*Atlanticの四半期別広告売上高と増減率(前年同期比)

(ソース:PIB(Publishers Information Bureau)
なぜ、Atlanticは勢いが増しているのか。2008年から始めた野心的な「5年計画」が功を奏してきたという。ブランディングキャンペーン、プリント(雑誌)とデジタル(サイト)の再設計、広告売上と販売(購読料)売上をアップさせることにより、2012年までに総売上高を倍増させ利益率を大幅に改善させることを目標にした。
ここではデジタル(Webサイト)分野の動きを見ていく。まず、「digital-first publication」を掲げたことだ。確かにこれまでも、「Web first」などと唱えた新聞社や雑誌社は少なくなかったが、ほとんどは従来通り紙(プリント)優先を踏襲しているのが実態であった。だがAtlanticは本気でWeb firstを実施した。まず、2008年1月に課金の壁を追っ払い、サイトの無料化を決行した。昔の雑誌記事が入ったアーカイブも無料で開放した。そして雑誌コンテンツに頼らないで、力の入ったオリジナルのWebコンテンツを充実させることにしたのだ。
紙のAtlanticは昔から、文学や文化から始まり教育や政治、経済などと幅広い分野のコラム/オピニオン欄からなる質の高い雑誌として知られており、競合誌と比べて最も年収が高く影響力のある読者を抱えているとされている。最近では、雑誌(Atlantic誌)ブランドと同じように、デジタルブランドも強力になってきたと言えよう。
このメディア・パブのネタ探しでも、Atlanticサイトの記事を参考にすることが、最近増えてきた。実際にはサイトに直接アクセスして記事を探すのではなくて、ニュースアグリゲーターやツイッター経由で記事にたどり着くのだが。個人的には、Atlanticの記事は当たり外れが少ない。一つのテーマでも、技術や文化、産業、政治などの多様な視点で書かれているためである。確かにデジタルブランドの高いサイトになってきている。
例えば、ニュースアグリゲーターでも、2008年からのサイト無料化の効果もあって、次のようにソースサイトのランキングでAtlanticサイトが現れるようになっている(6月4日のランキング)。
Memeorandum(政治分野のニュースアグリゲーター):12位
Mediagaze(メディア分野のニュースアギリゲーター):22位
Techmeme(技術分野のニュースアグリゲーター):94位
ブログを含めたソーシャルメディアで、Atlanticサイトの記事が話題になってきているのだろう。
「digital-first publication」が掛け声に終わらないために、優秀な人材を外部に求めた。たとえば、Andrew Sullivan(2011年4月にDaily Beastに転職したが)やJeffrey Goldbergのような著名なブロガーを雇い入れた。最近では、Boston.comのAlan Taylorをハンティングし、彼に2月から写真ブログ「In Focus」を立ち上げさせた。TailorはBoston.comで人気の「Big Picture」を立ち上げ、米国のニュースサイトにおける写真エッセイのトレンドを作り出した人物。In Focusを見たければ、たとえば5月25日のThree Months of Civil War in Libyaをどうぞ。凄く迫力のある写真に圧倒される。またリビア関係の話としては、Atlanticと契約していたフリーランサーの女性レポーターがリビア政府に拉致されたが、先週末に解放されている。
また2009年には、オピニオンアグリゲーターとして「The Atlantic Wire」を新たに立ち上げた。文化の批評に力を入れている。上の棒グラフで示すように、かなりユニークビジター数を増やしている。5月に200万人近くも訪れているのは、ビンラディン関連のオピニオンが多かったせいかも。さらに、2011年5月から編集プロセスを読者に開放する実験的な試みを開始する。
The AtlanticとThe Atlantic Wireのそれぞれのトップページを以下に。
*The Atlantic
*The Atlantic Wire
インターネット時代においても、こうした硬派雑誌でも、やりようによっては息を吹き返すということか。
◇参考
・THE ATLANTIC: Andrew Sullivan Who? We're Crushing It!(BusinessInsider)
・The Atlantic Opens Up Editing Room to Public(Mashable)
・Former Gawker editor to lead The Atlantic Wire(On Media)
・Detained Journalists Released by Libyan Government(Atlantic)
・Media Kit(The Atlantic)


