この1年以上、雑誌社や新聞社のパブリッシャーと電子媒体プラットフォームを運用するアップルとの間で、電子媒体の流通の在り方を巡って、綱引きが繰り広げられていた。激しく衝突したのは定期購読の進め方であった。iPad/iPhoneとApp Storeを武器に主導権を握るアップルが、今年2月に定期購読ルールを策定した。雑誌社の電子雑誌(iPadアプリ)をApp Storeで販売した場合、売上の30%がアップルに徴収される。定期購読も同じだ。さらに、営業上不可欠の読者の個人情報もアップル側が握る(読者の承諾があればパブリッシャーも得られる)。パブリッシャーは自社サイトで電子雑誌を販売できるが、App Storeの価格よりも安く販売してはいけない。
そこで、雑誌(紙雑誌)の電子版(電子雑誌)をiPadアプリで発行し始めている大手出版社の中で、Condé Nast社やTime社はそれぞれ、雑誌の定期購読者に電子雑誌を無料でダウンロード(入手)できるようにした。電子雑誌が無料だとアップルに30%分を徴収されることもないし、自社サイトで定期購読を申し込んだ読者の個人情報が外(アップル)に流れることもない。読者の個人情報はこれまで通り、自分たちの手で管理できる。でもこれでは、電子雑誌のコストは完全な持ち出しになってしまう。
そこで、Condé Nast社では雑誌の定期購読料を値上げを断行した。例えば雑誌「WIRED」は、アマゾン書店で年間購読料が10ドルであったのが、5月3日に突然、19.9ドルと2倍に値上げされたのである。いくら電子雑誌がタダで読めると言っても、安価な年間購読料が当たり前と思っている米国の読者からすると納得がいかない。紙の雑誌しか読まない従来の定期購読者からすれば、完全な2倍の値上がりである。また電子雑誌しか必要でない読者にすれば、電子雑誌の販売価格が値上げ前の紙の雑誌の2倍というのは受け入れられないはずだ。

ところが驚くことに、先ほどCondé Nastのサイトにアクセスすると、WIREDの年間購読料が10ドルになっている。同じく19.9ドルに値上げしていた「GQ」は12ドルに値下げしている。どうもこの値下げは昨日か今日(12日)に実施されたようだが。最初、「父の日」の特別割引かと思ったのだが。

だがもっと理解できないのは、同じ時間帯にAppleのサイトに行くと、WIREDやGQのそれぞれの電子雑誌の年間購読料が、いずれも19.99ドルのままになっていることである。

つまり、Condé Nastのサイトでは紙の雑誌「WIRED」の年間購読を10ドルで受け付けているのに、Appleのサイトでは電子雑誌「WIRED」の年間購読を19.99ドルで販売している。もし、紙の雑誌の年間購読者が無料で電子雑誌も閲読できるという約束がまだ生きていれば、10ドルで電子雑誌も読めることになる。こんなことを、アップルが認めるはずがないと思うのだが。
ともかく、WIREDの年間購読料は、以下のように乱高下した。

(ソース:camelcamelcamel)
◇参考
・How Apple Almost Killed Magazine Subscription Deals(GottaBeMobile)
・Apple Reverses Course On In-App Subscriptions [Apple Confirms](MacRumors)
・Apple、強い反発に妥協―App Storeでの定期講読などへの課金モデルの制限を緩める(TechCrunch Japan)