NY Timesが見直しを迫られている点は,多くの新聞社サイトや出版社サイトでも同じく抱えている課題でもある。紙媒体の延長上で作られていることが足かせになってきているのだ。新聞や雑誌作りの習性に従って,表紙・目次に相当するトップページから閲覧してもらう編集構造になっていた。つまり,まずお客さんにトップページに来てもらい,そこで関心のある記事を探してもらい,それから本文を閲覧してもらう。日本の新聞社サイトなどは,他サイトからのリンクをトップページしか認めなかったように,サイトへの入り口を強引にトップページに仕向けていた。紙媒体と同じスタイルで読めるため,ユーザーからも歓迎された面もあった。確かにこれからも,中高年層を中心に,トップページから読むスタイルがなくなることはない。
だが,若者を中心に,関心のあるコンテンツだけを限定して読むという閲読スタイルが根付いてきた。サーチエンジンの進歩やRSS配信の浸透が,新しい閲読スタイルを生み出したともいえる。
NYTimes.comは,新聞社サイトの中でもいち早く,ユーザーの新しい閲読スタイルに対応してきた。ニュース記事のカテゴリ別RSS配信や,ニュース・アグリゲータにおける同社記事のトップ掲載,ブログの採用などを進めている。つまり各記事単位で,読者をサイト(トップページではない場合が大半)に誘導する仕掛けを設けたのである。
だが,サーチエンジン対策については泣き所があった。NYTimes.comのニュース記事は1週間は無料であるが,1週間が過ぎると有料のアーカイブに移ってしまう(1記事あたり2.95ドルを払わないと読めなくなる)。つまり1週間を過ぎると公の場 から消え去るということは,ニュース記事へのリンクが切れることに相当する。検索対象がサイトのトップページの時代は問題がなかったが,対象が各ニュース記事に変わってきた現在では,SEO対策にとっては好ましくない。
そこで,NYTimes.comはこの4月から,数千種類のトピック・ページを設けることにしたのだ。細かくセグメント化されたテーマ別に専用のページを設ける。トピックとしては,「テロリズム」,「クローン」,「キューバミサイル危機」といったテーマだ。各トピックページはパーマネント・アドレス(リンクが途切れることのないURL)を割り振るので,例えばGoogleのページランクで上位に配される可能性が高くなる。
各トピック・ページは,テーマに関連する記事のインデックス(見出し,要点,本文へのリンク)で構成されるはず。でも過去記事の多くは,これまで通り有料となる予定。トピック・ページを介して,もっと有料記事を購読してもらう腹づもりであろう。トピック・ページのコンテンツは,1851年に遡って蓄えたアーカイブの記事(1000万本)が主な対象になる。グラフィックやマルチメディア・リソースも含まれる。当然,最新のニュース記事もリンク張りされる。買収したabout.comのコンテンツも組み込まれるに違いない。
さて,NYTimes.comのトピック・ページはうまくいくのだろうか。細かくセグメント分けしたテーマ別に,ニュースなどのコンテンツを提供するサービスは,旧来型メディアサイト以外の新興企業からも参入が相次いでいる。非常に厳しい市場だ。これについては,別の機会でまとたい。
◇参考
・The news from NYTimes.com
http://www.hyperorg.com/blogger/mtarchive/003743.html
・NY Times To Open Its Grand Old Archive
http://www.webpronews.com/news/ebusinessnews/wpn-45-20050303NYTimesToOpenItsGrandOldArchive.html