メディアサイトがRSSリーダーを配布するからには,コンテンツをRSSフィード配信することが前提になる。だが少し前まで,新聞社サイトや出版社サイトがRSSフィードを採用するなんて御法度であった。現在でも,メディアサイトがこぞってRSSフィード配信になびいているかといえば,必ずしもそうではない。
米国においてもRSS配信を採用している新聞社サイトは1割にも満たないし,専門分野に特化した出版サイトでも大半がRSS配信に及び腰だ。日本のメディアサイトはもっと否定的だ。
なぜそうなのか。RSSリーダーによる閲覧スタイルを考えてみよう。多くのWebサイトから希望分野のコンテンツだけをRSSリーダーに自動で取り込んでおき,ユーザーはその中から好きなコンテンツをつまみ食いするように読むことになる。これまでのように,ユーザーに自社サイトに来てもらい,あれこれとコンテンツを読んでもらうという閲覧スタイルではなくなるのだ。
このため,メディアサイトのページビューが減り,広告売上も落っこちる心配が出てくる。また,サイト側のコントロールが届かない所でユーザーが記事を選択するため,メディア側として見てもらいたい編集記事や広告がバイパスされるかもしれないのである。さらに悩ましい問題は,RSSリーダーを使っている持ち主(読者)の個人情報や行動履歴が把握できなくなることだ。
このように不安材料が一杯なのに,米国の大手新聞社は昨年夏当たりから,次々とRSSフィード配信の採用に傾いていった。風向きが大きく変わったのは,先行のNY TimesがRSSフィードを実施することによりページビューが増えた,と明らかにしてからだ。
実はRSSリーダーでWebコンテンツを閲覧するユーザーはまだまだ少数派である。Pew Internet & American Life Projectの調査にあるように、米国のインターネット・ユーザーの5%程度である。と言うことは,メディアサイトがRSS配信しても,既存ユーザーの90%強は,RSSリーダーではなくて,これまで通りダイレクトに自社サイトにアクセスしてくれる。現時点では,広告をバイパスされたり,個人の行動履歴が把握できなくなるというマイナス面は,心配するほど大きくない。
それどころかマイナスよりもプラスに働く方が大きそうだ。RSSリーダーの利用者は既存読者の5〜10%程度と少ないはずだが,彼らがもたらすプラス効果が想像以上に大きいことだ。もともとRSSリーダーでニュースサイトの記事を漁ろうとする人は,インフルエンサー的な立場にいる者が多い。つまり拡声器で「この記事はおもしろかった!!」と触れ回るタイプだ。当然だが,多くがブロガーでもある。
ニュースブロガーだと誰もが実感することがある。おもしろいニュース記事が,ブログ間を伝染するがごとくアッという間に広まることだ。数時間で世界中に蔓延することも珍しくない。こうしたブログでニュースの存在を知ったインターネットユーザーが,発信元のニュースサイトを訪れることになる。これまでリーチしきれなかった人も多く来るはずだ。つまり,RSSフィード配信することにより,新規のユーザーを呼び込めることになる。Intelliseekの調査でも,ブログが最も引用したニュースサイトとして,The New York Times , BBC,CNN, The Washington Post とRSS配信している新聞社サイトが上位に並んだ。
また,RSSフィードは,言うまでもなくSEO対策にもなっている。RSS配信されたニュース記事は,これまで以上に検索結果の上位にランクされやすい。この結果,サーチエンジン経由でもより多くのユーザーがニュースサイトにアクセスすることになる。
一方,雑誌社サイトは,新聞社サイト以上にターゲット化されおり,コンテンツも細分化されているのに,RSS配信が必ずしも定着していない。例えば,急成長している新興出版社であるTechTargetは,RSSフィードを全く行っていない。出版社サイトのトレンドについては話が長くなるので,別の機会でまとめる。
大きな潮流としては,メディアサイトがRSSフィード配信に流れているのは確かであろう。これからメディアがRSSのボールを投げるのは分かった。だが,そのボールを受け取るミットまでどうしてメディア側が配給する必要があるのだどうか。
(続く)
◇参考
・Newspaper with RSS
http://www.sidewalktheory.com/newspapers/
・ブログが最も引用したサイトは?,ニュースはYahoo! News がトップ
http://zen.seesaa.net/article/1346179.html