なぜ,メディアサイトがわざわざRSSリーダーを配るのか。思うに,垂直統合(バーチカル・インテグレーション)モデルでビジネスを進めたいためではなかろうか。
ネット時代のメディアの大きな特徴は,主導権がコンテンツ供給者から徐々にコンテンツ消費者に移ってきていることである。次の3階層で考えてみよう。
コンテンツ(供給者)−チャンネル(流通ネット)−端末(消費者)
新聞社や出版社のサイトはこれまで,紙媒体時代の延長で1(供給者)対n(消費者)の関係にあった。紙媒体時代には読者が特定の新聞や雑誌を読んでいたように,ネット時代に入っても,読者が特定のメディアサイトに来て記事を読んでもらうのが当たり前と信じていた。つまり,供給者を頂点に多数の忠誠心の高い消費者を囲い込む,主従関係にあったと言える。
ところが,ここに来て大きな転換期を迎えている。極端に言えば,n(供給者)対1(消費者)に逆転しそうである。読者は特定の新聞社サイトや出版社サイトの記事を読むのではなくて,サイトに囚われずに好きなコンテンツ記事を読むようになってきているのだ。コンテンツサイトも,旧来マスメディアだけではない。企業サイトや個人サイト(ブログ)など多種・多様化している。。nは∞に向かっているのだ。
n(供給者)対1(消費者)の消費者主導においては,メディアサイトと言ってもnの中のone of themの存在になってきている。このような大逆転を加速化させている一つが,この連載の主テーマの“RSSフィード-RSSリーダー”である。
でもこのまま,ズルズルと消費者との主従関係が逆転してしまうと,ひょっとしたらメディア会社も商売あがったりになってしまう。そこで,RSSリーダーを配って,少しでも読者や流通をコントロールできる状況下にしておきたいわけだ。自社ブランドのRSSリーダーを通して,読者のロイヤリティーを維持させるとともに,読者行動に合わせた編集記事や広告を提供していきたいのである。
RSSリーダーの役割は,米TivoのHDDレコーダーと似たところがある。米国では視聴可能なTV番組が日本と比べ桁違いに多い。そこで米TivoのHDDレコーダーでは,視聴者がEPG(電子番組案内)で好みの番組を選び自動録画できる。RSSリーダーとの関係で注目すべきは,米TivoのHDDレコーダーにおいて視聴者の履歴データを取っていることだ。そのデータを放送局などに売ったりしている。さらに,広告ビジネスの準備も進めている。もっと興味深い動きが昨日(3月15日)に起きた。米ケーブルTV最大手のComcastとの提携だ。Comcastの視聴者数2150万人が見込み客に加わる。両社による,“コンテンツ(供給者)−チャンネル(流通ネット)−端末(消費者)”のバーチカル・インテグレーション・ビジネスが始まるのである。
RSSリーダーとHDDレコーダーの類似性で見れば,ともに利用者数はまだまだ少ないが,ともに2004年は前年比で倍以上に増え,今年以降も急成長を見込めることがある。RSSリーダーは新聞や雑誌の読むスタイルを変え,HDDレコーダーはTVの視聴スタイルを変えていこう。パーソナル化に拍車がかかる。RSSリーダーとHDDレコーダーが,メディアの地殻変動を引き起こす芽になるのでは・・・。
ところで,新聞社や出版社が1社独力で,バーチカル・インテグレーション・モデルを構築できるのだろうか。それについては次回で。
(続く)
◇参考
・NewsGator Launches ''NewsGator Media Platform,'' a Private Label RSS Service for Media Companies
http://home.businesswire.com/portal/site/google/index.jsp?ndmViewId=news_view&newsId=20050303005296&newsLang=en
・Comcast and TiVo Announce Strategic Partnership
http://www.cmcsk.com/phoenix.zhtml?c=147565&p=
irol-newsArticle&t=Regular&id=685606&
・DVDレコーダーの2004年出荷台数,日米共に倍増
http://zen.seesaa.net/article/2232803.html