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2012年03月05日

TechCrunch、トラフィック急落で影響力低下の懸念が

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 TechCrunchがどうも芳しくない。月間ユニークビジター数とページビュー数が昨年秋ごろから急落しているのだ。インターネット業界で抜群の影響力を誇っていたTechCrunchに、何が起こっているのだろうか。

 月間ユニークビジター数の1年間の推移を、comScoreの調査データで見てみよう。以下の表のように、昨年8月に約500万人であったのが今年1月に355万人に大幅に減っている。またページビュー数も昨年8月の2600万から今年1月に1500万に落下した。

TechcrunchUV201201.jpg
(ソース:comScore)

 Technorati調査によるブログのAuthorityランキングでも、TechCrunchの影響力の低下が読み取れる。以前は総合ランキングでは、Huffington Postが1位に、TechCrunchが2位にほぼ定着していた。ところが、今日のTechnorati Top5を見ると、4位に甘んじていた。

TechnoratiTop5 201203.jpg
(ソース:Technorati)

 またテクノロジー分野では断トツの影響力を誇示していたのだが、テクノロジー分野のランキングでは1位のEngadget、2位のThe Vergeに抜かれて、3位に落ちていた。またビジネス分野のランキングでも、1位の座をMashable!に奪われていた。


 テクノロジー分野のニュースアグリゲーターの決定版であるTechmemeでも、掲載回数のシェアが縮小し始めている。米国のネット業界のインフルエンサーが必ずと言っていいほど活用しているTechmemeにおいて、掲載頻度が減っていけば影響力低下は避けられない。

 4年前(2008年3月3日)と昨年(2011年3月3日)、今年(2012年3月3日)の3時点における、掲載シェアのランキングを掲げておく。過去1ヶ月間の掲載回数のシェアである。テクノロジー分野のメディアの勢力図の変遷も読み取れる。

TechmemeRanking201203.jpg
(ソース:Techmeme)
 
 TechCrunchは、2005年6月にMichael Arrington氏によって創刊されたブログであった。Web2.0ブームが沸き上がろうとしていた時で、そのWeb2.0ブームに乗って急成長し、2007年ころにはテクノロジー分野のトップブログにのし上がった。そしてソーシャルメディア時代に入っても、不動のトップを独走していたのだ。2011年3月の掲載シェアでも、Techcrunchが10.45%と2位を大きく引き離していた。ところが2012年3月には掲載シェアが7.17%になり、2位の7.13%のVergeに肉薄されているのだ。

  順風満帆のTechCrunchに変調をもたらしたのは、2010年9月にTechCrunchがAOLに買収されてからであろう。TechCrunchの創業者のMichael Arrington氏はブロガーとしてもカリスマ的な存在で、ネット業界でトップインフルエンサーでもあった。一方でVCとしても意欲を燃やしていた。AOLに買収されてからも、TechCrunchは編集の独立を堅持し、Michael Arrington氏の指揮の下にそれまで通りブログ編集を続けていた。

 ところがAOLが2011年2月にブログ新聞のHuffington Postまでも買収し、その創業者のArianna Huffington氏がAOLメディアの編集トップに就いてしまった。つまり組織上、Huffington氏がArrington氏の上司となる。両者が衝突するのは明らかであった。Arrington氏がVC事業のためにTechCrunchを利用しているとHuffington氏が非難し、ついに昨年夏にArrington氏をTechCrunchから事実上追放したのだ。

 TechCrunchはArrington氏が看板のブログである。カリスマブロガーのArrington氏に加えてTechCrunchの人気ライター(ブロガー)も相次ぎ去ることになった。これが同ブログ記事の質に影響している。エッジの効いた鋭い記事が以前に比べ減り、ありきたりの発表記事が目に付くのもそのせいではなかろうか。また先週には編集長のErick Schonfeld氏が辞め、代わりにEric Eldon氏(前VentureBeat)を編集長に据え再浮上を狙うことになった。はたしてどうなるやら。

 失速気味のTechCrunchに対し、急浮上してきた The Vergeの動向が見逃せない。Vergeは昨年11月に創刊したテクノロジー系の新生ブログであるが、Techmemeの掲載回数シェアでTechCrunchに迫り、またTechnoratiが示すテクノロジー分野のAuthorityランキングではTechCrunchを追い抜いてしまったのだ。

 このVerge誕生の背景がおもしろい。AOL傘下の人気ブログEngadgetの編集長だったJosh Topolsky氏がAOLマネージメントを嫌って飛び出て、Vergeを創刊したのである。もちろんEngadgetチームの多くのスタッフも一緒にVerge発行に加わった。AOLのEngadgetが打撃を被ったのは間違いない。

 それにしてもAOLは人騒がせな会社だ。ともかくEngadget、TechCrunch、Huffington Postの米国3大ブログを傘下に収めメディア王国を夢見たのは凄いのだが、ネット分野のメディアをけん引してきたEngadgetとTechCrunchの勢いに陰りが見え始めているのは残念である。一方でVergeやThe Next Webのようなブログメディアが急浮上しており、どうもネット分野をカバーするメディアの勢力図が塗り替わりそうである。


◇参考
・As Staff Flees, TechCrunch’s Traffic Plummets(paidContent.org)
・Editor Erick Schonfeld Out at TechCrunch, Former VentureBeat Editor Eric Eldon In(Reuters)
・HELPFUL TIPS FOR KEEPING YOUR JOB AS EDITOR OF TECHCRUNCH
(UNCRUNCED)
・Engadget Alumni Launch The Verge(Adweek)
・Goodbye Erick, Hello Eric(TechCrunch)



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posted by 田中善一郎 at 11:23 | Comment(0) | TrackBack(0) | メディア
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