新聞社のデジタルシフトの段階で、デジタル事業で1ドル稼ごうとすると、代償としてプリント事業で7ドル失う。これは1ヶ月ほど前に、Pew Research Centerの調査結果である。デジタル化の厳しさを伝えたかったのだろう。ところが最近、メディア産業のコンサルタントのAlan D. Mutter氏が、Pewの調査は甘すぎると言いだした。実際にはもっと厳しくて、新規のデジタル事業で1ドル稼ごうとすると、これまでのプリント事業で27ドルを失うことになる主張しているのだ。
これは、NAA(the Newspaper Association of America:米新聞協会)が発表した広告売上高をベースにした発言である。米国の新聞の売上のほとんど(これまで約8割)は広告売上に頼ってきた。そこでここでは、新聞紙(プリント)とオンラインサイト(デジタル)の広告売上高に着目した。2005年から2011年までの推移は次のようになる。
総広告売上高(プリント広告+オンライン広告)は、2005年に494億ドルもあったのが、2011年に239億ドルに落ち込んでいる。プリント広告が激減している。一方、2005年ころに力を入れ始めていたオンラインサイトからの広告売上は、絶対額は少ないながらも高い成長率を示していた。ところが、リーマンショック以降の不況でオンライン広告までが一時マイナス成長となってしまった。
次は、前年に比べての増減高の推移を示している。
2006年から2011年までの間に、267億ドルもプリント広告売上を減らしてしまった。一方期待していたオンライン広告売上は、同じ間で12億ドルしか増やしていない。そこで、デジタル事業で1ドルを得るには、プリント事業で27ドルを失うと、誇張してデジタルシフトの挫折を言いふらしたのだ。別にデジタルシフトに向わなくても、プリント広告売上が大幅に落ち込んでいるはずだが・・・。ただし大きな誤算だったのは、デジタルシフトにアクセルを踏み始めた2005年から2006年ころは、オンライン広告が高成長率を誇示していたのに、金融危機による広告不況でまさかのマイナス成長に陥り、景気回復後も高成長に戻らなかったことだ。
また、新聞紙から逃げ出した広告が、そのまま新聞サイトにシフトしなかったのも痛かった。例えば、米国の新聞紙広告の中核であったクラシファイド広告が以下のように紙離れが急激に進んだのに、新聞サイトがほとんど受け皿にならなかった。大半の案内広告を無料でオンラインで掲載するCraigslistが、新聞紙のクラシファイド広告の多くを奪ってしまった。
もともと、プリントメディアに比べオンラインメディアの広告掲載料は相対的に低かったし、最近ではソーシャルメディアの台頭で新聞サイトの広告メディアとしての価値も低下している。
◇参考
・Publishers lost $27 in print for every digital $1(REFLECTIONS OF A NEWSOSAUR)
・新聞、米国で最も縮小している落ち目の業種に(メディア・パブ)