オンラインニュース時代に入って、米国ではHuffington Postに代表される新興のWeb専用ニュースサイトが勢いを増し、主流になってきていた。ところがスマートフォンやタブレットのようなモバイル端末が台頭するに伴い、伝統メディアのニュースコンテンツに復活の兆しが見え始めているのだ。
Knowledge Networksが米国成人(18歳から65歳まで)3022人を対象に今春オンライン調査した結果によると、回答者の85%がデジタルニュース消費者であった。そのニュース消費者の半数以上(53%)は、ニュース情報をHuffington PostやYahoo News、Drudgeなどの新興オンラインメディア(Web-native sources)から取得していた。新興のWeb特化型ニュースサイトのコンテンツである。一方で、ニュースソースとして日常的にNYT、CNN、Fox Newsなどの伝統的なメディアサイトのコンテンツを利用している割合は、ニュース消費者の43%と半数を切っていた。ただし深堀のニュースコンテンツや信頼のおけるブレイキング・ニュースは、まだまだ伝統的なメディアサイトに主に頼る傾向はあるが・・・。
ところがデジタルニュース接触端末として、これまでのパソコン(Computer)に加えて、スマートフォンやタブレットも急速に利用され始めたのに伴い、興味深い動きが浮上してきた。今回の調査で、端末によって主にアクセスするニュースソースに違いが見られたのだ。パソコンユーザーの半数以上(54%)はWeb-native sourcesに頼っていたが、スマートフォンユーザーやタブレットユーザーは違っていた。両モバイルユーザーはいずれも、Web-native sourcesを利用する割合が40%を割っているのに対し、驚くことに伝統メディアのニュースソース(Established news sources)の利用が50%を上回っていた。
伝統から新興への流れが進んでいたのに、それに反してモバイルユーザーが伝統メディアのニュースコンテンツになびく傾向を見せるのはなぜか。これからニュースアクセスにモバイル端末を利用するユーザーが急増しそうなだけに、伝統メディアにとっては期待を抱かせる調査結果である。この背景に、モバイルアプリの普及がありそうだ。
振り返ってみると、伝統メディアにとってインターネットメディアの出現は必ずしも歓迎するものではなかった。web2.0とかソーシャルメディアとかの流れの中で、伝統的な新聞や雑誌、TVのニュースサイトは守勢に立たさがちであった。アグリゲーションやソーシャルなどの機能を充実させた新興ニュースサイトに押され気味になっていた。物理的にパッケージされたコンテンツ(ニュース記事群)を提供してきた伝統メディアは、インターネット時代に入ってもパッケージされた自前コンテンツを中心に提供し続けていた。伝統ブランドを看板にしたニュースサイトに来てもらい、メディア提供者が用意したニュース記事を閲覧させていたのだ。ところが、メディア側が一方的に提供するパッケージされたコンテンツではユーザーは満足しなくなってきた。そこで、コンテンツもパーケージ単位ではなくて記事単位(固有のURLを付与)で検索され、またアグリゲート、キューレートされるようになり、さらに誰もがコンテンツを発信できるようになっていった。コンテンツが分断化されるに伴い、オンラインニュース市場で伝統メディアの主導的地位が揺らいできていたのだ。
ところが本格的なモバイル時代を迎えて、伝統メディアに勢いを取り戻す機会が与えられようとしている。今回の調査を見る限り、爆発的に増えるであろうモバイルユーザーが伝統メディアのコンテンツを受け入れている。それは、新聞や雑誌、TVなどの伝統メディアのコンテンツの多くが、モバイルアプリとして提供され始めているからであろう。伝統メディアがこぞって、スマートフォンやタブレット向けにパッケージされたニュースコンテンツをアプリの形で提供し始めたのだ。パッケージされたコンテンツだと定期購読の有料化の対象としやすいし、それを支えるアプリの課金システムも整っている。AppleのNewsstandも、伝統メディアの昔からのパッケージされたコンテンツ提供スタイルを再現している。またアプリ内のコンテンツは、第3者による検索、アグリゲーション、キュレーションなどの対象とならなかったりするので、伝統メディアは主導権を復活できると期待する。
ユーザーも、スマートフォンやタブレットのアプリを使ってコンテンツと接する新しい環境を歓迎し、今のところパッケージされたニュースコンテンツのアプリを多くの人が受け入れているようだ。また玉石混交のコンテンツが氾濫しているインターネットメディアに疲れ、プロ集団によってきっちりと編集されたコンテンツに頼りたいというニーズが高まっているのかもしれない。
ともかく、モバイル端末からニュースコンテンツに接する人や、その接触時間が爆発的に増えていくのは間違いない。PEJ(the Pew Research Center's Project for Excellence in Journalism) が2012年6月29日から8月8日までに9513人の米国成人(18歳以上)を対象にした調査によると、成人の半分がすでにスマートフォンかタブレットを所有しており、そのモバイルユーザーの66%が自分のモバイル端末からニュースコンテンツに接している。
こうしたモバイル端末が、以下のグラフのように急増していくのも間違いないであろう。
(ソース:BisinessInsider)
モバイル端末でニュースコンテンツにアクセスするユーザーが増え続けるであろう。でもやはり、そのモバイルユーザーが伝統メディアのパッケージ化されたニュースコンテンツに一斉になびくとは考えづらい。クローズなコンテンツ環境だとなおさらだ。オンラインニュース市場で提供者(伝統メディア)主導から消費者(ユーザー)主導の流れができてしまった現在、逆流する動きを本格化させることはむずかしいだろう。
ただしモバイルアプリの出現で、パッケージ化されたニュースコンテンツを提供する新しい環境が整ってきたのも確かである。良く編集された優れたコンテンツなら、容易に有料化できるようになってきただけに、モバイルアプリは伝統メディアにとっても活路となるのかも。
◇参考
・Survey: Americans turn to established media for breaking news, mobile(Poynter.)
・THE
EXPLOSION IN MOBILE AUDIENCES AND A CLOSE LOOK AT WHAT IT MEANS FOR NEWS(Journalism)
・THE STATE OF THE INTERNET [SLIDE DECK](BusinessInsider)