今や新聞業界では、NYタイムズ社のデジタル有料化事業が大成功しているとの評価なのに、なぜ暗雲が? NYタイムズ社がWebサイトなどのデジタルコンテンツ有料化に突入してから約2年がたつが、有料のデジタル購読者数が以下のように順調に増え、完全に軌道に乗っており、新聞業界が成功と評価するのも当然かもしれない。販売収入に新しいデジタル販売が加わり、販売売上がプラス成長が続いているのだから、青信号で安泰とみなしていたのだ。さらに一定本数までの記事閲覧を無料で提供するメーター制を導入することにより、ユニークユーザー数もあまり減らないのでオンライン広告売上もマイナスにならないですんでいる。
*有料のデジタル購読者数の推移
・2011年第2四半期:28万1000人
・2011年第3四半期:32万4000人
・2011年第4四半期:39万人
・2012年第1四半期:47万2000人
・2012年第2四半期:53万2000人
・2012年第3四半期:59万2000人
=56万6000人( NYTimes.com + IHT)+2万6000人(Boston Globe)
・2012年第4四半期:66万8000人
=64万0000人( NYTimes.com + IHT)+2万8000人(Boston Globe)
・2012年第1四半期:70万8000人
=67万6000人( NYTimes.com + IHT)+3万2000人(Boston Globe)
2013年第1四半期の決算説明で、デジタル購読者数( NYTimes.com + IHT)を67万6000人と 発表しており、前四半期に比べ5.6%増えている。四半期で3万6000人も上乗せしたのだから、大きな問題ではないと思いたい。ところが昨年は毎四半期ごとに約6万人増えていた。今年に入って増え方が鈍化しているのは確かである。Quartzが四半期ベースのデジタル購読者数の成長率の推移を以下のようにグラフ化しているが、やはり鈍化は明らかだ。
デジタル購読者数が増えてくれば、成長率が鈍化するのは仕方がないのだが、今、急に鈍化されると困るのだ。新聞が生き延びるには、販売売上の伸びに頼らなければならないからだ。今まで売上の大半を占めていた広告収入が急減しているからなおさらだ。
NYタイムズ社の2013年第1四半期決算でも、以下の表のように、広告売上が前年同期比で11.2%減と大きく落ち込んでいる。販売売上が6.5%増と頑張っているのだが、この程度の伸び率では広告の落ち込み分を補えず、全体の売り上げが2%減となってしまっている。そろそろデジタル購読者数の伸びが鈍る段階に入ったのだとすると、かなり厳しいことになりそう。
また今回の発表で驚いたのは広告売上の減り方である。プリント(新聞紙)広告が13.3%減と大きく落ち込みでいくのを諦めたとしても、広告売上のけん引を期待していたオンライン広告までが4%減とマイナス成長になっているのは非常に痛い。有料化のために配したペイウォール(課金の壁)が原因かもしれない。
NYタイムズ社としてはお荷物になっているBoston Globeなどを売却して、基幹媒体(NYTimes + IHT)を擁するThe New York Times Media Groupで延命を図りたい。そのThe New York Times Media Groupの決算は次の通り。残念ながら基幹媒体に絞り込んでも、NYタイムズ社と同じ問題を抱えている。
◇参考
・The New York Times Company Reports 2013 First-Quarter Results(プレスリリース)
・New York Times Misses Sales Estimates as Ad Revenue Dives(Bloomberg)
・The New York Times paywall has hit a growth wall(QUARTZ)
・NYタイムズが増収、広告売上ダウンを販売売上アップで補う(メディア・パブ)