本人、NYタイムズ、ESPNのいずれからも公式発表がない段階で、NYタイムズのスクープの形で飛び出たのである(正式発表は7月22日にも)。ずば抜けた集客力を発揮する政治ブロガーのシルバー氏がNYタイムズから飛び出るということは、同紙にとって大きな痛手となる。そんなニュースを、自社のサイトで発表前に伝えるとは・・・。
この数年、ネイト・シルバー氏を有名にしたのは、大統領選の選挙予測であった。彼が編み出した統計解析手法により、2008年の大統領選では50州中49州で勝敗を的中させ、さらに2012年には全州で的中させた。その選挙予測の発表の場であった政治ブログFiveThirtyEightは2008年3月に立ち上げていたが、2010年8月にNYタイムズにライセンス権を譲渡し、事実上NYタイムズ・サイトのブログとなっていた。2012年の大統領選では同ブログの人気が沸騰し、NYタイムズ・サイトの全トラフィックの約20%もが同ブログへのアクセスであった。一人のブロガーがトラフィックの20%も貢献していたとは凄いことである。
彼の評判は高まる一方であった。ところが今年8月末にシルバー氏とNYタイムズとの間で交わされた3年間契約が切れることになっていた。そこでNYタイムズの編集長やCEOも、年初から彼との新契約を結ぶことで努力してきたようだ。またNBC NewsやMSNBCなども、同氏獲得に動いていた。
ところが、先週金曜日に急に、スクープとしてESPNに移ることが明らかになってしまった。つまり新たな契約を結ぶことなく、シルバー氏と彼のブログはNYタイムズから消えることになった。参考までに、彼の現在のツイッターページとFiveThirtyEightのスナップショットを以下に掲げておく。


ESPNでの最初の仕事として、彼は夜遅くのESPN2のトークショー “Olbermann,” に8月末からレギュラー出演することになっている。また選挙の年には、ABC Newsに登場する予定だ(ESPNとABC Newsのオーナーは同じWalt Disney Company)。
彼の選挙予測に関して、オバマ大統領までが“The guy’s amazing.”と驚嘆したというように、ともかく評価が高まる一方であった。そこでNYタイムズもそれなりの待遇をして引き留めに必死だったようだ。でも一方で彼は、政治分野だけではなくてスポーツ分野などにもっと注力したい、と漏らしていたという。ESPNを選んだのもそのためと見られている。
シルバー氏は2002年に、大リーグ野球選手の統計的評価システムPECOTAを開発していた。そのPECOTAは、映画「マネーボール」でも知られるようになったセイバーメトリクスをオンライン化したものである。今はやりのデータサイエンティストの成功者として、一部で持てはやされており、もともとスポーツ分野から出発していたのだ。今年のスーパーボウルでの各種予測記事も投稿していた。
さらにNYタイムズとの間で、金銭面でもやはり問題があったようだ。NYタイムズはシニアスタッフの削減を実施しているだけに、彼をあまり優遇できないこともあったのでは。ESPNの親会社のDisneyはシルバー氏に破格の給与を提示したようである。
米国のジャーナリストは一般に、特定のメディア会社にしがみ付くのではなくて、ニュース系の新聞や雑誌、そして最近ではネット専門ニュースサイトを幾つか渡り歩き、キャリアを積み重ねていく。今回の件のように、人気の高いジャーナリスト(記者、ブロガー)を巡って、これまで以上にニュースメディア間での争奪戦が激しくなりそうだ。
◇参考
・Nate Silver of FiveThirtyEight Blog Is to Join ESPN Staff(NYTimes.com)