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2013年10月22日

有力新聞から飛び出た看板ジャーナリスト、相次ぎニュースメディアを立ち上げへ

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  NYT(ニューヨーク・タイムズ)、WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)それにガーディアンの看板ジャーナリストが相次いで退社したり契約を解き、新聞ブランドに頼らないで個人ブランド力を武器に、新しいニュースメディアを立ち上げることになった。

 NYTのネイト・シルバー(Nate Silver)氏は8月に辞めてESPNに移った。彼の活躍の場であったブログFiveThirtyEightはNYTのアーカイブに残し、同じブランド名のFiveThirtyEightを再び立ち上げ中である。WSJのウォルト・モスバーグ(Walt Mossberg)氏とカラ・スウィシャー(Kara Swisher)氏はWSJとの契約を年内に終え、また2人が中核になってニュースメディアを立ち上げる。ガーディアンのグレン・グリーンワールド(Glenn Greenwald)氏は先週末に退社することを発表したばかりで、億万長者の支援を受けてニュースメディアを立ち上げる予定だ。

 彼ら4人のジャーナリストの記事は、彼らの属する新聞のオンラインサイトにおいて、圧倒的な集客を誇っていた。有力新聞の記事だからというよりも、彼らの個人名やブログブランドに魅かれて、ファン的な存在の読者が飛びついていたのである。ネット時代の特徴で、新聞サイトのトップページにアクセスしないで、ソーシャルメディアやニュースアグリゲーターを介して彼らの記事にダイレクトに飛び込んでくる読者が多いのだろう。この4人の人気ジャーナリストは、以下の表のように、個人名やブログ名を付けたツイッターで、独自にファンとなるフォロワーを数多く取り込んでいる。そして、記事を投稿するたびにツイートで知らせている。参考までに、彼らが属していた新聞の代表アカウントのフォロワー数も掲げておく。 

JournalistTwitter20131019.png
2013年10月19日現在

 彼らの古巣の新聞での活躍ぶりと、これからの新天地で何を仕掛けていこうとしているかを紹介する。

NYタイムズを飛び出たNate Silver

 ネイト・シルバー氏を有名にしたのは、大統領選の選挙予測であった。彼が編み出した統計解析手法により、2008年の大統領選では50州中49州で勝敗を的中させ、さらに2012年には全州で的中させた。その選挙予測の発表の場であった政治ブログFiveThirtyEightは2008年3月に立ち上げていたが、2010年8月にNYTにライセンス権を譲渡し、事実上NYTサイト内のブログとなっていた。

 2012年の大統領選の終盤にかけて同ブログの人気が沸騰した。以下は、同年11月3日の彼のブログ記事である

NateSilverFiveThityEight20121103.png
 
 2012年の後半にかけて、彼のブログ記事へのトラフィックは日を追って急上昇していった。NYTサイト全体と政治分野、それに、FiveThirtyEight(538)へのビジット数推移を以下に示す。NYTサイト全体と政治分野の各ビジット数には彼のブログへのビジット数も含んでいる。11月5日には、NYTサイトの総トラフィックの20%を個人ブログのFiveThirtyEightだけで占めるまでに至った。まさに昨年後半の選挙シーズンの超目玉記事になっていたのだ。

NYTNateSilverTraffic.png
(ソース:AllThingsD)

 政治ニュースのアグリゲーターであるMemeorandomでも、ニュースソースとしてFiveThirtyEightブランドはNYTブランドと区別して扱われていた。ニュースの掲載ページでもFiveThirtyEighの記事はNYTと記されていなかった。多くの読者はブログブランドで判断して、彼の記事にアクセスしていたのだろう。

  そのシルバー氏は、得意の統計手法を駆使した予測記事などを、政治分野だけではなくて幅広い分野でも展開したいという野望を膨らましていた。NYTとの間で交わされた3年間契約が終わる今年8月末に、同氏はNYTを去りESPNに移ることになったわけだ。NYTでのFiveThirtyEightは閉じて、同じブランド名のFiveThirtyEightを新装し、来年1月から本格運用を始める。新しいFiveThirtyEightがカバーする分野は、量的に1/3が政治、1/3がスポーツ、残りがその他にしていきたいという。このブログをハブにして、彼はESPN2のトークショー番組に登場したり、選挙シーズンなどの時にはABC News(ESPNとABC Newsのオーナーは同じWalt Disney Company)にも加わる予定である。


WSJを飛び出るWalt MossbergとKara Swisher

 WSJ傘下のAllThingsDは、テクノロジーやインターネット、メディアに関するニュースや分析、オピニオンを提供する人気ブログである。モスバーグ氏とスウィシャー氏が中核となって他に10人ほどのブロガーが加わっている。シリコンバレーを中心としたネット企業の関係者(経営トップも含めて)にとって最も影響力のあるブログとなっている。AllThingsDが定期的に開催する会議には、かつて、ジョブズやゲーツが参加したように、IT企業のトップがこぞって登壇する人気事業となっている。

MossbergAllTingsD20121005.png

 テクノロジー分野ニュースのアグリゲーターであるTechmemeにおいて、掲載される記事のソース元のシェアランキングを発表しているが、最新のデータではAllThingsDが3位となっている。WSJサイト本体の技術関連記事の掲載回数よりも多い。AllThingsDブランドと、業界内では誰もが知っている2人の個人ブランドが、ここでも幅を利かせている。

TechmemeAllThingsD201310.png

 AllThingsDを支えていた大黒柱のモスバーグ氏とスウィシャー氏はNews Corp(WSJ)との契約を年内に終え、縁を切ることになった。ただし、AllThingsDのブランドをWSJは手放さずに、2人が去った後もサイトを継続させることになっている。WSJを去ることになった2人は、再び手を組んで、新しいブランド名のニュースサイトを来年1月1日にも立ち上げる予定だ。今、投資してくれるスポンサーと交渉しているようだが、新しいサイトは3000万から4000万ドルの価値があると見られている。2人の個人ブランドで成功させてきた会議などから、AllThingsDは毎年、約1200万ドルの売り上げをあげてきた。同じような会議を新会社でも実施するという。またAllThingsDの他の仲間の人気ブロガーも何人かが合流するようだ。



Guardianを飛び出るGlenn Greenwald

 ガーディアンのコラムニストのグリーンワールド氏は、CIA(中央情報局)元職員、エドワード・スノーデン容疑者からの資料などをもとに、政府の監視問題を追求する急先鋒のジャーナリストである。彼の活躍ぶりは、ガーディアンでの過去記事一覧や彼のブログ(Glenn Greenwald's Blog)を見ればよい。

 例えば、彼のパートナーが英当局により対テロ法に基づきロンドン・ヒースロー空港で身柄を拘束され経緯を伝えるニュース記事を、フェイスブックで約3万6000人がシェアし、ツイッターで約1万5000人がツイートした。そしてその記事に約5500人がコメントを寄せた。かなり多くの世界中の読者が彼の記事を追いかけているのだろう。

Greenwald20130819.png

 グリーンワールド氏がスノーデン文書に基づいて、政府の監視実態を暴露したり追求する記事を連載し続けることもあって、英政府当局によるガーディアンへの圧力が日増しに高まっている。ガーディアンのような大きなニュース組織となると、政府からの圧力を完全に無視できないところがある。同氏も、政府の監視問題関連などの報道をガーディアンの組織内でやっていける限界を感じ取ってか、彼がスノーデンから得た機密情報全てをガーディアンのニュースルームと共有していなかった。そして、ガーディアンを飛び出ることを企んでいる時に出くわしたのが、eBay創立者ピエール・オミダイア(Pierre Omidyar)氏であった。

 オミダイア氏は、かねてから慈善家としてメディア関連の試みに支援することも多かったが、多くの人が受け入れる影響力のあるニュースメディアを本格的に立ち上げたいと動いていた。ワシントンポストの売却交渉にも今年の5月から乗り出していたが、結局、アマゾンのベゾス氏が2億5000万ドルでポストを買い取ることになった。退いたオミダイア氏も同額の資金を用意していたので、その2億5000万ドルを投資して新しいニュースメディア・プロジェクトを模索していた。そのプロジェクトでは、"パーソナル・フランチャイズ・モデル"を試みるようだ。個々のジャーナリストが専門のトピックスに絞ったメディアを独立に立ち上げられるように支援していく。そのオミダイア氏の動きに呼応して、グリーンワールド氏はガーディアンを去り、仲間の実績の豊富なジャーナリスト2人と伴って新しいニュースメディアを旗揚げすると、先週、発表したばかりである。


 ここで紹介した4人のジャーナリストは、必ずしも伝統メディアで訓練を受けジャーナリストの本流を歩んできた者でない。彼らはジャーナリストではなくてブロガーだと、伝統メディアの一部の人から見下されることも少なくない。でもデータサイエンティストやニッチなテクノロジーライターやアクティビスであっても、ネット時代のメディアではトップを走ることができる。米国で躍進著しい新興ニュースメディアでも、牽引している人は伝統的なジャーナリストよりもしがらみの少ないブロガーが中心である。

訂正:最後のパラグラフで、4人のジャーナリスは「必ずしも伝統メディアで訓練を受けジャーナリストの本流を歩んできた者でない」と述べましたが、モスバーガー氏は90年代後半からはテクノロジ分野の記者として、そして今ではAllThingsDのブロガーとして有名ですが、それ以前はWSJの「国家安全保障担当」を担当していました。島田範正さんからご指摘を受けましたように、伝統メディアのバリバリの本流記者でした。

◇参考
・Here’s What the New York Times’ Nate Silver Traffic Boom Looks Like(AllThingsD)
・AllThingsD founders are in talks to value their new venture at up to $40 million(Quarts)
・This Week in Review: Greenwald and Omidyar team up, and the blowback against publishing leaks
(NiemanJournalismLab)
・An Interview With Pierre Omidyar(NYTimes)



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posted by 田中善一郎 at 17:27 | Comment(0) | TrackBack(0) | 新聞 ニュース
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