Columbia Journalism ReviewのRyan Chittum氏がまとめたグラフも、次のように有料化の成果を物語っている。最初のグラフは、NYタイムズ(NYT)の第3四半期の総売上高の推移である。内訳として、プリント版(新聞紙)とデジタル版(ネット、モバイルアプリ)のそれぞれの、販売売上高(購読料収入)と広告売上高、そしてその他売上高が示されている。
金融危機によりプリント版広告(print ads)が急落し、2009年に大きく総売上高を減らした。だが2011年の電子版有料化のお蔭でデジタル版の販売売上高(digital subs)が増え始め、その結果として総売上高が下げ止まり、わずかだが微増の兆しを見せている。

もし電子版有料化を実施しなかったら、つまり課金の壁(pay wall)を設けなかったら、デジタル版販売売上(digital subs)が得られないため、次のグラフのように、総売上高は下げ止まらなかったはずだ。だから、有料化に踏み切って良かったということになる。一方で、有料化しなければサイトのビジター数を増やせ、デジタル版広告売上高をもっとアップできたのではとの反論もある。しかし3〜4年ほど前から新聞サイトはオンライン広告媒体として相対的に弱体化しており、課金の壁を設けなかったとしてもデジタル版広告で多くの売上を増やすことはできなかっただろう。

NYTは電子版有料化が成功したといっても、総売上高は下げ止まったままで、かつての黄金時代の復活はとても期待できない。またデジタルシフトがかなり進んでいるが、最初のグラフで示すように、売上の大半をプリント版に依存し続けている。プリント版の収益性は悪くなってきており改善の見込みが少ないだけに、まだまだプリント版売上に頼っていかなければならない現状は辛い。片や勢いを増している新興のニュースメディアは売上高が伝統新聞に比べてまだ少ないかもしれないが、プリント版の足かせがなくてデジタル版に特化しているので、これからの展望地図を描きやすい。そこで伝統新聞の中でデジタルシフトで先行しているNYTとしては、もっとデジタル版売上を膨らませたい。ゼロからスタートしたデジタル版販売売上は順調に伸びてきたが、有料デジタル購読者数の純増が鈍り始めており、販売売上の急増は当てにしないほうがよさそう。またデジタル版広告売上も足踏み状態から抜け出せないでいる。
残る活路はやはり電子版による海外展開となる。英語版だけではなくて、昨年の中国語版に続いて、スペイン語やトルコ語版など多国語版での対応を検討している。
◇参考
・The NYT paywall plugs the hole(Columbia Journalism Review)