UpworthyやDistractifyなどの新興バイラルメディアが、驚異的な成長を示している。特にこの2か月の間の伸びは異常なほどだ。代表的なバイラルメディアである、BuzzFeed、Upworthy、Distractify、ViralNova、FaithItの月間ユニーク数が、この2か月弱の間にどれくらい増えたかを、以下の表で示す。いずれもQuantcastのデータである。
バイラルメディアは、ソーシャル系サイトでユーザーが共有したくなるコンテンツを発信し、一気にネット上で拡散させることにより、膨大なトラフィックを獲得しようとするメディアサイトである。旬の話題を興味深くまとめた記事や、お涙ちょうだい話、可愛い動物や世界の絶景の写真など、感情的に読みたくなるコンテンツが主流である。読まずにいられなくなる見出しでユーザーを引きつけている。思わず、いいね!やツイートして、友達とシェアしたくなるということだ。また人気急上昇のバイラルメディアのコンテンツを見ると、ネット上の記事や画像などを利用(キューレート)しているものが多い。センスの良い編集者なら少人数でも立ち上げることができるのも特徴。こうした海外のバイラルメディアについては、佐藤氏がブログ「メディアの輪郭」でわかりやすく紹介している。
上の5つのバイラルメディア・サイトの月間ユニーク数の推移を、Quantcastのグラフで示す。1年間のレンジで示しているが、DistractifyやFaithItは立ち上がって間もないので2か月弱のレンジしかない。はっきりしているのは、この2か月間弱の間に成長がさらに一段と加速化していることだ。
ここで取り上げたバイラルメディアで注目すべきは、モバイルユーザーの比率が高まっていることと、ソーシャルメディアでも特にフェイスブックからの流入トラフィックが急膨張していることだ。たとえばDistractifyは、全ユーザーの約6割がモバイルユーザーで、流入トラフィックの約9割がフェイスブックからとなっている。
つまり、フェイスブックのニュースフィードで表示されている記事リンクからメディアサイトへ飛んでいくトラフィックが多くなっているのだ。成長が加速化している背景としては、フェイスブックがメディアサイトとの連携を強化していることがある。メディア記事リンクの投稿などを、ニュースフィードで優先的に表示しているようである。その結果として、この1年間でメディアサイトへのトラフィック流入が170%も増えたと、フェイスブックは発表している。12億人の巨大ユーザーを抱えたフェイスブックで、メディア記事リンクの投稿とニュースフィードでの露出が増えれば、感情に訴えるタイトルを見つけてクリック(タップ)しバイラルメディア・サイトに飛びつくユーザーも増えてくるのだろう。それに合わせて、バイラルメディア側でも、どのような記事に仕立てればより多くの人にフェイスブックで共有してもらえるかと、学習し磨きをかけているのだ。
以下の表は、有力ソーシャルメディア(Twitter、LinkdIn、Pinterest、Facebook)で共有される記事を多く発信しているメディアサイトのトップ10である。メディア分析会社NewsWhipのデータである。Huffington PostやBuzzFeed、Upworthyのような新興メディアの記事が、伝統メディアの記事よりもソーシャルメディアで話題になる頻度が高くなってきている。さらにBuzzFeed、Upworthyのようにフェイスブック対策を講じたバイラルメディアは、フェイスブック上でやり取りされたアクション総数(いいね!、コメント、シェア)で伝統メディアを圧倒している。
ソース:NewsWhipのSpike
こうした動きの中で見逃せないのが、フェイスブックがニュースフィードの表示アルゴリズムを12月2日に変更したことである。ニュースフィードに表示される投稿が増えてくると、多くの投稿が目立たなくなり大事な情報も見逃すことになっていく。そこで今回の変更では、リンク情報を優先して掲載するようにし、またそのリンク情報にいいね!やシェアなどのアクションが多いとその情報を目立つ上位に配置していくという。また重要なニュース記事リンクの場合、そのニュースと関連のある他記事のリンクも表示するようになった。
アクション数が多いバイラルメディアにとって、今回のアルゴリズム変更は追い風になり、フェイスブックからの流入トラフィックをさらに増やしていけるかもしれない。BuzzFeedやUpworthyに続けと、バイラルメディア・サイトが次々と生まれてきており、中には1カ月少々で数百万ユーザーを獲得するサイトも登場している。まだしばらくブームが続きそうだ。でも一方で、今のようなバブル状態がはじけるとの見方も出てきている。
フェイスブックがニュースフィード掲載アルゴリズムを変更したのは、バイラルメディアを支援するためではない。狙いは、フェイスブック自身をユーザーにとってより価値のあるソーシャルメディアとして育てていくためで、ニュースフィードに質の低いコンテンツをなるべく掲載させないようにしたいのだ。品の高いニュースや楽しいコンテンツをフィードの目立つ位置に掲載していきたいのである。
2年ほど前にグーグルが、低品質なコンテンツを大量生産するコンテンツ工場対策として、検索アルゴリズムを変更したことがあった。システマティックに低コストで大量に作り上げる低品質記事などの検索結果順位を下落させたりした。今回のフェイスブックのニュースフィード掲載アルゴリズムの変更も、質の低いバイラルコンテンツ工場対策も視野に入れているようである。グーグルの検索アルゴリズムと同様、フェイスブックのニュースフィード掲載アルゴリズムもこれから度々、変更を加えていくことになろう。メディアサイトもアルゴリズムの変更に対応していかなければならない。特にフェイスブックからの流入トラフィックに大きく頼るバイラルメディアはなおさらだ。今後、フェイスブックのアルゴリズムに受け入れられるバイラルメディアが生き続け、逆に遮断されるバイラルメディアは淘汰されそう。
・Suddenly, Upworthy Clones Are Everywhere And Millions Of People Are Reading Them(Business Insider)
・The Most Viral Publishers of November 2013(The Whip Blog)
・More Ways to Drive Traffic to News and Publishing Sites(Facebook)・
・Does Facebook Think Virality Mills Are The New Content Farms?(Forbus)
・How Facebook could kill the new wave of viral media(WashingtonPost)