NYタイムズがWebサイトの大幅刷新を、1月8日に実施した。刷新の目玉の一つが、ネイティブ広告を本格的に導入することだ。スポンサーのコンテンツがそのままNYタイムズのドメイン内に現れることになる。
デジタルシフトで先行していた新聞NYタイムズでも、総売上の7割以上はプリント(新聞紙)事業に依存している(
こちらの記事を参照)。デジタル・オンライン事業の売上が未だに3割に達していないのは、急成長を期待されていたオンライン広告が足踏みしているからだ。そこでついに、禁断の果実とも言える「ネイティブ広告」に触手を伸ばし、オンライン広告売上の成長を促すことになった。
ネイティブ広告は、フォーブスやアトランティックなどの有力雑誌とか、ワシントンポストやウォール・ストリート・ジャーナルなどの有力新聞のWebサイトで、相次いで採用されてきている。ところがNYタイムズは昨年の前半ころまで、広告枠の外で(つまり編集枠で)広告主からのコンテンツを提供していく「ネイティブ広告」に否定的な立場をとっていた。編集と広告の境界線があいまいな形での情報提供を、高級新聞たるNYタイムズは避けるべきだという立場である。でも今の米国の新聞は、そんな綺麗ごとを貫ける余裕はない。NYタイムズも昨年中ごろには、iPhoneアプリでネイティブ広告の予行演習を実施していた。
そして2014年1月8日に 、公式にネイティブ広告に乗り出すことになった。ただし、他の有力な伝統メディアのネイティブ広告と比べると、読者からの反発を招かないように慎重に対応している。まず事例を見ていこう。最初の広告主はデル(Dell)社である。8日のある時刻における、NYTimes.comのトップページを以下に示す。

NYタイムズのタイトルロゴの左右に配置された青枠は、従来のバナー広告で、クリックするとDellのサイトに飛ぶ。ここで注目するのは、右サイド下に現れている青枠である。Dellのロゴに加えて、
"Paid Post -
Will Millennials Ever Completely Shun the Office?"
と、広告主が提供する記事の見出しが掲載されている。
この青枠をクリックすると、以下のネイティブ広告記事のページに飛ぶ。先頭には"PAID FOR AND POSTED BY DELL"と明記し、DELLのロゴも示しているので、編集記事でないことを伝えていることになっているのだろう。ただし、印象の良くない広告(Advertizing)という言葉を外している。8日には、この記事に加えて、他に3本のネイティブ広告記事も投稿されており、右サイドに紹介されている。

上のネイティブ広告記事の真ん中あたりで、以下のようにこの記事と関連のあるNYタイムズの編集記事を3本紹介していた。紹介した記事はDellが選んだことにしている。

さらにこのネイティブ広告記事の後頭部には、Dellサイトやその他の外部サイトにある関連記事も紹介していた。

最後に上の赤線で囲んだ注意書きが添えられていた。以下の説明文のように、この広告記事はNYタイムズ広告部門とDellとの協力で制作されており、NYタイムズの編集スタッフは全く関与していないということだ。
This page was produced by the Advertising Department of The New York Times in collaboration with Dell.
The news and editorial staffs of The New York Times had no role in its preparation.
Dellのネイティブ広告記事のライターもフリーランサーが中心であるが、いずれも署名記事で経歴が示されていた。ほとんどが大手メディアに寄稿しているプロのライターである。ネイティブ広告記事のテーマも、広告主(ブランド)のユーザーが関心を持つであろう内容に仕上げるだけではなくて、NYタイムズの高い編集レベルの品質を達成するように努めていると主張している。おしつけがましい広告記事にはしていないということだ。
編集と広告との境界をなるべく明確に線引きし、慎重にネイティブ広告事業を離陸させようと努めている。ネイティブ広告記事ページへのリンクを示す青枠は、トップページやビジネス分野、技術分野、DealBook(ブログ)の各ページをローテーションしながら掲載されているが、編集記事と紛れることがないように控えめに配置されている。また、ネイティブ広告記事ページのURLは、nytimes.comではなくてpaidpost.nytimes.comとして、別のブラウザウィンドウで閲覧させている。
ネイティブ広告の契約期間は3か月間となっているが、その後はどうなるのかが気になる。Paid Post(ネイティブ広告記事)は3カ月が過ぎてもNYタイムズのサイトに残し、同サイト内の検索で探せるようにするという。ただし、外に向けては、編集記事とネイティブ広告記事は差別していきたいようだ。例えば、グーグルの検索エンジンの検索結果には、NYタイムズの編集記事と同じようにネイティブ広告記事が現れたりはさせないという。また、NYタイムズのTwitterアカウントやFacebookページで、ネイティブ広告記事を共有するような働きかけも行わない方針だ。高級新聞として編集独立を揺らがせるような行動はとりたくないのだが、マーケッターからの要求にどこまで応じていくかが課題になりそう。
◇参考
・
目ざわりな広告を、有益なコンテンツへ。その期待が寄せられる「ネイティブ広告」とは何か?(MarkeZine)
・
Here's The New York Times' First Ever Native Ad(Business Insider)
・
Five Things to Know About The New York Times' New Native Ads(AdAge)
posted by 田中善一郎 at 23:47
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