フェイスブックのユーザー数は、地球レベルではまだまだ増え続けている。ところが一方で、昨年後半からそろそろ頭打ちとの声も出てきていた。特に欧米では、10代のフェイスブック離れがあちこちで報告され始めている。さらに大人にも雪崩現象的にフェイスブック離れが波及し、2015年〜17年までに80%のユーザーを失うだろうという、とんでもない論文がプリンストンの研究者から発表されたりもした。
それだけに、フェイスブックの2013年第4・四半期決算で公表されたユーザー数推移に注目したい。同社の発表によると、月間のアクティブユーザー数(MAU)は2013年12月31日に世界で12億2800万人に達した。これは世界人口の約17%に相当する。3年間のMAUの推移で少し鈍化傾向が見られるが、まだ伸び続けている。ただ確かに米国・カナダにおいては成長が鈍化している。

上のグラフからも明らかなように、アジアやその他地域(Rest of World)では、MAUで米・カナダや欧州を上回り、さらに成長が加速化している。つまり、これからのフェイスブックのユーザー数の成長を牽引するのは、エマージング国や発展途上国となる。下のグラフでも、ロシアやトルコを欧州に含んでいるが、両国をその他地域に移せば、その他地域の成長率はもっと高くなるはずだ。
*
アジア地域でのMAUの推移 *その他地域でのMAUの推移
また、エマージング国や発展途上国においてユーザー数を増やしていくには、モバイルユーザーを標的にすることが前提になる。少し前までフェイスブックユーザーの大半が、PCからの利用が中心であったのが、この3年間でモバイルからの利用も一気に増えてきた。

さらに見逃せないのは、モバイル端末からしかフェイスブックを使わないユーザーが爆発的に急増していることだ。この1年間だけで倍増している。これからは事実上モバイル端末しか利用できない発展途上国ユーザーの割合が増えそうだ。

米国や欧州のフェイスブック先進国でユーザー数の伸びが鈍るのは仕方がないかもしれない。でもアジアやアフリカ地域では、モバイル端末の普及の追い風に乗って、新規ユーザーを大量に獲得できそうである。世界の人口が70億人強として、現在インターネットにつながっている人口が約27億人。まだ世界の2/3近い人たちはインターネットとつながっていない。そうした人たちの大半が、インターネット接続環境が整備されていないエマージング国や発展途上国に住んでいるはずだ。フェイスブック創業者のザッカーバーグ氏は、今後10年以内にその大部分の人がスマートフォンを手にすると予測している。つまり誰もがインターネットサービスを享受できるようになると主張しているのだ。その環境をより早く実現させるために、同氏は昨年、ノキアやサムソン、クアルコムなどのIT企業を参画させて、internet.orgを設立した。
そこで、エマージング国や発展途上国において、インターネットの利用状況がどうなっているかを俯瞰したくなる。幸いにこのほど、Pew Research Centerが、「Emerging Nations Embrace Internet, Mobile Technology」というタイトルの調査結果を公表したばかりだ。エマージング国や発展途上国から24か国を選び、それらの国の2万4236人にフェイスツーフェイスでインタビューした結果である。各国約1000人に、2013年3月から4月に実施した。電話を利用していない人も多いので、電話調査は行っていない。
まず、セルフォンの普及率を見ていこう。スマートフォン(スマホ)を含んだセルフォンは、中国やロシアは当然として、北アフリカ、中近東、南米の主要国でも、80%台から90%台の高い普及率を示していた。最も普及率の低いウガンダやパキスタンでも50%を超えていた。有線電話があまり普及しなかった開発途上国でも、無線のセルフォンの保有者が凄い勢いで増えているのだ。ただこれまではフィーチャーフォンによる電話利用が多い。インターネット利用が前提となるスマホの普及は多くの開発途上国ではこれからの段階である。それでも中国を先頭にヨルダン、チリ、レバノン、アルゼンチンなどの国で約35%以上の人がスマホを所有するようになってきており、その結果としてインターネットの普及率も50%を超えてきている。

フィーチャーフォンによるインターネット利用もなくはないが、やはり本格的なネット利用が定着するにはスマホの普及を待つことになる。また開発途上国でもネットユーザーになると、ネットにはまる人が多いのも興味深い。レバノン、ヨルダン、トルコ、エジプトでは、インターネットユーザーになると、その8割以上が毎日インターネットにアクセスしている。その流れの中で、SNSの加入率も高い。以下のグラフのように、ほとんどの国で、各国のインターネットユーザーの7割以上がSNSサービスを利用しているのだ。家族や友人との接触や、音楽や映画についての意見の共有のほかに、宗教や政治に関する意見の共有でSNSを利用する人が多いのも、開発途上国ネットユーザーの特徴と言えそう。
「スマホの普及→インターネットの普及→SNSの普及」
というシナリオが成り立てば、開発途上国などに残されているインターネットにつながっていない40億人前後の人たちも、10年以内にSNSを利用しているかもしれない。
ザッカーバーグ氏の立場からすれば「グローバルSNS=フェイスブック」がこれからも続き、現在の13億人近いフェイスブックユーザーにこうした新規ユーザーがどんどん上乗せされていくと想定したいのだろう。ソーシャルネットワークの新規ユーザーがかなり増えていく可能性は高いが、それがフェイスブックと称するSNSに向かうという保証は全くないのだが・・。
またその前段階の「スマホの普及→インターネットの普及」の展開で、足踏みするとの懸念の声も聞かれる。以下のグラフでは、各国における一人当たりのGDPとインターネット普及率の関係をプロットしている。開発途上国の一般人にとって、スマホでインターネットを利用することは、かなり贅沢であり、壁が高いからだ。でも今や、先進国よりも開発途上国での変化のほうが速い。セルフォンの普及も、先進国では長い年月を要したが、開発途上国では一気に進んでしまっている。スマホの価格やインターネット通信料金も、予測している以上に早く安価になり、豊かでない開発途上国でも、スマホによるインターネット利用がいつの間にかに当たり前になっているのだろう。Pewの今回のレポートでも驚くデータに事欠かない。たとえばセルフォンによる決済がケニヤやウガンダなどで定着していることを報告している。特に驚いたのは、セルフォンの普及が遅れているウガンダ(調査によるセルフォン普及率が59%)で、セルフォン保有者の50%がセルフォンでの決済を利用しているとの調査結果である。つまり国民の3割近くが利用しているのだから、やはりサプライズである。
posted by 田中善一郎 at 22:36
|
Comment(0)
|
TrackBack(0)
|
ネットワーク