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2014年05月15日

NYタイムズとルモンドの女性編集長、同じ日に共に辞任へ

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 名門新聞のNYタイムズとルモンドの編集主幹(全体の編集長)が共に、同じ14日に辞任した。

 NYタイムズのJill Abramson( ジル・エイブラムソン)氏は約160年の歴史上初めての女性編集主幹として、またルモンドのNatalie Nougayrède(ナタリー・ナウゲレード)氏は約68年の歴史で初めての女性編集主幹として就任し、活動ぶりが非常に注目されていた。その編集トップの女性二人がいみじくも同時に、辞めたのだ。

 伝統的な新聞は、たとえ有力紙であっても、デジタル化やソーシャルメディア化に向けて岐路に立たされている。ジャーナリズムを看板にしているNYタイムズやルモンドともなると、デジタル化の進路をまとめるのは至難の業である。女性初の編集トップが、よりによってこの最も難しい時期に就いたのだから、どうなるのやらと皆が注目するのも当然であった。

 2011年9月にNYタイムズ編集主幹に就いエイブラムソン氏に対しては、就任当初、彼女の仕事の進め方にからんで、NYタイムズ編集室の内輪もめ話が連日のように報道されていた。彼女を批判する記事が多かった。でもその後、デジタル化路線でそれなりの実績を重ねるようになり、彼女もよく踏ん張っているとの印象があった。一方のルモンドのナウゲレード氏は2013年3月に、編集スタッフ450名の80%の支持を受けて編集長に就いたのだが、最近は編集方針や人事面などで編集室からの反発を受け、編集幹部が相次ぎ辞めていった。このため、彼女の辞任も時間の問題とされていた。

 それだけに驚いたのは、やはりエイブラムソン氏のいきなりの辞任であった。辞任というよりも解任である。ザルツバーガー会長などとの確執が伝えられていたので、いずれ辞任させられるとの声も上がっていたが、突然の解任であった。その社内発表が彼女の姿のない中で行われたようだ。そしてすぐにサイトのマストヘッドも追従し、以下のように編集主幹(Executive Editor)が後任のDean Baquet(ディーン・バケット)氏に取って代わられていた。

NYTExecutiveEditor20140514.png


 なぜエイブラムソン氏が解任されたかの背景については、アメリカのメディアを中心に解説記事が氾濫し始めている。その解任理由の中で枝葉の話かもしれないが、ジェンダー・ギャップ(男女差別)が浮上してきたので触れておく。エイブラムソン氏は給与や年金支給について不満を述べていたようだが、これもジェンダー・ギャップ問題と絡んでいるのかもしれない。

 どうも、今回の解任劇の矛先を、NYタイムズのジェンダー・ギャップにも向かわせたい動きが見受けられる。その前兆は、先日、Women's Media Center(WWC)が公表したレポート「The Status of Women in the U.S.Media 2014)」に現れていた。その中で、次のグラフを示して、米国の主要新聞の中でNYタイムズの編集が最もジェンダー・ギャップが大きいと指摘していた。このグラフは、各紙の署名記事を対象にして、女性記者執筆と男性記者執筆の記事本数の割合を示している。NYタイムズでは、全署名記事のうち女性記者が執筆した記事の割合が31%と、主要新聞10紙の中で最低となっていた。

WomanMediaCenterNewspaperGenderGap2014.png

  同レポートはまた、Pew Researchのデータによるグラフで、新しいソーシャルメディアでは女性ユーザーの割合が高く、かつ滞在時間も長いことを示していた。 つまりソーシャルメディアの世界では、女性の声が反映されている。それに対して伝統的な新聞では未だに男性文化がはびこっており、男性の目線での記事が多いと言いたいのだろう。


WomanMediaCenterSNSGenderGap2014.png
 NYタイムズの女性記者Margaret Sullivan氏も、このレポートを受けて、NYタイムズの現況をブログ記事で報告。NYタイムズには、全記者の1/3に相当する約400人の女性記者が働いているという。20年前には女性の割合が1割程度であったことに比べるとかなり進出しているが、もっと増やすべきということだ。

  メリーランド大学はNYタイムズの署名記事3万本を対象に、女性記者の記事と男性記者の記事の違いを比較している。女性記者はヘルスや旅行、家庭などの分野の記事を多く執筆しているが、スポーツ、サイエンス、オピニオンなどの分野では女性記者の記事が極めて少ない。興味深いのは、頻度の高い見出しの単語が、男女の記者によってかなり違うことが示されていたことだ。記事の切口が、男性記者と女性記者とでは異なっているせいかもしれない。

 NYタイムズのマストヘッドを見る限りでは、編集幹部の半分を女性が占めており、深刻なジェンダー・ギャップがあるとは思えない。でも、女性記者の割合が少ないと、どうしても男性目線の記事が多くなるのは仕方がない。ちなみにソーシャル化が進んでいる新興新聞のHuffington Postでは、署名記事の半分近くの48%が女性レポーター(記者)の手によるものだ。


◇参考
・Female editors of Le Monde and the New York times spiked in a single day(The Independent)
・Times Ousts Its Executive Editor, Elevating Second in Command(NYTimes.com)
・WHY JILL ABRAMSON WAS FIRED(New Yorker)
・Still Talking About It: ‘Where Are the Women?’(NYTimes.com)
・The most comprehensive analysis ever of the gender of New York Times writers(Family Inequality )
・France’s Le Monde elects first female editor-in-chief(France24)
・A Sexist Explanation For Why The New York Times Just Fired Its Top Editor(HuffPost)



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posted by 田中善一郎 at 20:49 | Comment(0) | TrackBack(0) | 新聞 ニュース
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