伝統的な新聞は、たとえ有力紙であっても、デジタル化やソーシャルメディア化に向けて岐路に立たされている。ジャーナリズムを看板にしているNYタイムズやルモンドともなると、デジタル化の進路をまとめるのは至難の業である。女性初の編集トップが、よりによってこの最も難しい時期に就いたのだから、どうなるのやらと皆が注目するのも当然であった。
2011年9月にNYタイムズ編集主幹に就いエイブラムソン氏に対しては、就任当初、彼女の仕事の進め方にからんで、NYタイムズ編集室の内輪もめ話が連日のように報道されていた。彼女を批判する記事が多かった。でもその後、デジタル化路線でそれなりの実績を重ねるようになり、彼女もよく踏ん張っているとの印象があった。一方のルモンドのナウゲレード氏は2013年3月に、編集スタッフ450名の80%の支持を受けて編集長に就いたのだが、最近は編集方針や人事面などで編集室からの反発を受け、編集幹部が相次ぎ辞めていった。このため、彼女の辞任も時間の問題とされていた。
それだけに驚いたのは、やはりエイブラムソン氏のいきなりの辞任であった。辞任というよりも解任である。ザルツバーガー会長などとの確執が伝えられていたので、いずれ辞任させられるとの声も上がっていたが、突然の解任であった。その社内発表が彼女の姿のない中で行われたようだ。そしてすぐにサイトのマストヘッドも追従し、以下のように編集主幹(Executive Editor)が後任のDean Baquet(ディーン・バケット)氏に取って代わられていた。
なぜエイブラムソン氏が解任されたかの背景については、アメリカのメディアを中心に解説記事が氾濫し始めている。その解任理由の中で枝葉の話かもしれないが、ジェンダー・ギャップ(男女差別)が浮上してきたので触れておく。エイブラムソン氏は給与や年金支給について不満を述べていたようだが、これもジェンダー・ギャップ問題と絡んでいるのかもしれない。
どうも、今回の解任劇の矛先を、NYタイムズのジェンダー・ギャップにも向かわせたい動きが見受けられる。その前兆は、先日、Women's Media Center(WWC)が公表したレポート「The Status of Women in the U.S.Media 2014)」に現れていた。その中で、次のグラフを示して、米国の主要新聞の中でNYタイムズの編集が最もジェンダー・ギャップが大きいと指摘していた。このグラフは、各紙の署名記事を対象にして、女性記者執筆と男性記者執筆の記事本数の割合を示している。NYタイムズでは、全署名記事のうち女性記者が執筆した記事の割合が31%と、主要新聞10紙の中で最低となっていた。