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2014年07月26日

高級新聞もバイラルメディア化,英インディペンデント紙が「バズフィード」風サイトを立ち上げ

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     英国の高級新聞「インディペンデント」(TheIndependent)がBuzzFeed風サイト「i100」を7月17日に立ち上げた。高級紙までもバイラルメディアで疾走するのか。 

インディペンデントは個人的にはあまり馴染みのある新聞ではなかったが、それでもニュースアグリゲーター経由でWebサイトの記事には時々アクセスしていた。何となく信頼できる記事だなぁとの印象が強い。インディペンデントのサイト(independent.co.uk)は堅い高級紙のサイトとは思えないほど、ビジュアル重視のデザインで活気がある。

  同紙は1986年10月に創刊された若い新聞で、政治的な記事が売りで、リベラルな立場で環境や反戦のようなメッセージ性のある記事が多いが、右や左に縛られない中道派の新聞とされている。高級紙で初めてタブロイド版に切り替えたように、若い新聞のせいか思い切りが良い。オンラインシフトもやはり軽やかで速い。新聞紙の購読者数が10万部を切っているのに対して、オンラインサイトの今年6月の月間ユニークブラウザー数は前年同月比70%増の4000万台に乗せた。そして今度はバイラルメディアにも挑むことになったのだ。

図1
UKNewspaperwebTraffic201406.png 


インディペンデントのサイトはこれまで通り続けるが、同じドメイン内にサブタイトルの形で「i100」を立ち上げた。以下のインディペンデント・サイトの画面で示すように、i100への誘導枠を目立つように配している。これまでのインディペンデント・サイトのユーザーにすれば、i100は新しい目玉コーナーが加わったように見える。


図2
i100Independent20140720a.png


i100のホームページは次の通り。左枠サイドのThe Listは一種のタイムラインで、最新記事を中心に100本の記事が連なっている。ただ新しい記事を次々と上段に積み上げていくだけではなくて、ユーザーから多くの賛成票(UPVOTE)を投じられた記事は、居残る期間を長くしている(REDDITとよく似ている)。中央には、重要とされる記事が大きめの写真とともにいくつか掲載されているが、ユーザーはListの中から選んで閲覧する場合が多そう。最新記事がどれかが識別できるし(上位に掲載)、各記事にUPVOTE数が明示されているので人気記事がどれかも分かり、便利である。読みたい記事をクリックすると、中央枠にすぐに表示される。


図3
Independent20140725b.png


ローンチ後の1週間ほど閲覧してきたが、やや軟派系の記事も適当に発信しているが、やはり政治がらみの硬めの分野が目立つ。今はガザの紛争に関する記事が多く、ユーザーからの賛成票(UPVOTE)も次々と投じられていた。今、The Listのトップに出ていた以下の記事は、ガザ地区で犠牲になった子供たちを報じたラジオ局にイスラエル軍が砲撃した、とのニュースである。いかにもインディペンデントらしい記事で、賛成票が多かったため、投稿後10時間経過してもThe Listの上位に残っていた。

図4
Independent20140725c.png

全体としては、バイラルメディアお得意のリスト記事(まとめ記事)が多い。クイズ記事も掲載する予定だがまだ少ない。リスト記事のキューレーション対象となる素材は、自前のオリジナルコンテンツもあるが、外部のメディアサイトのコンテンツも利用している。次のアルジェリア航空機の墜落事故に関する記事もリスト記事であった。事故が判明した直後に投稿されたが、最初は墜落情報が錯そうしており、見出しで”・・・: What we do and do not know”とあるように、明らかになったことや不明な点を、時々刻々更新しながら伝えていた。第一報では、中国の国営メディアCCTV(China Central Television)のツイート画面も使ったりしていた(数時間後に削除)。CCTVは2012年1月にケニアにCCTV Africaを設立し、今やアフリカでのニュース市場でCNNや BBC、Al Jazeeraと競うまでに成長し、今回の事故も素早くツイートで伝えたようだ。

図5

Independent20140725d.png

 これまでのバイラルメディアではソーシャルサイトで話題になることを最優先し、記事の信頼性や社会性の意義などは2の次となる傾向があった。そこでi100が目指したのは、信頼できるバイラルメディアである。次の記事もある写真の信憑性を問いている。イスラエルの子供たちが「イスラエルからの愛をこめて」とミサイルにサインしている写真についての記事である。パレスチナとイスラエルとの間の憎しみを煽り立てる写真となるところだが、この写真は数年前に撮影されたもので、今回の紛争とは関係ないことを暴露している。 


図6
i100Independent20140720c.png

次はウクライナ紛争で、EU各国がロシアへの制裁で躊躇している状況を伝えた記事である。3360億もの理由があるから、制裁できないでいると皮肉っている。つまり、2012年にはEUとロシア間の貿易額が€336bnにも達しており制裁できそうもないとことを、各国の主要メディア記事を引用しながら説明していた。

図7

Independent20140725e.png

i100が立ち上がってから1週間ほど経過したが、UPVOTE数も増え始めており、順調に滑り出したようだ。信頼のおける質の高いバイラル記事を提供していくために、あえてi100を独立させないでインディペンデンス・サイト内に置き、スタッフも同じ編集室内で働いている。

i100の実働部隊としては、i100編集長のMatthew Champion氏(元 Metro News)に加えて自称フリーランス・ジャーナリストのDina Rickman氏(元Telegraph 、元Huffington Post)と Evan Bartlett氏の3人が中心になってバイラル記事を執筆している。一部、インディペンデント編集スタッフも手伝っているようだ。一般のバイラルメディアと同様、かなり少人数のチーム構成となっている。

ただバイラル記事を執筆したり制作するためには、コンテンツキューレーション、データ活用とビジュアル表現、クイズ編成、対話形式のチャート/マップ活用と、これまでの新聞記者とはちょっと違った能力が必要となりそう。新聞記者が足で(取材して)記事を執筆していたのに対し、バイラル記者は主にネットサーフィンし、最新ツール/サービスを駆使して記事を執筆することになる。

現在i100は、インディペンデンスサイトの下での一つのコーナーに過ぎないし、脇役的な存在かもしれないが、ページビューやユニークユーザー数の獲得で先導的な役割を演じてきた場合どうなっていくかが興味深い。バイラルメディアでどこまで高級感や信頼感を確保できるかである。たとえば、外部リンクを多用するリスト記事がメディアブランドを毀損するリスクが伴うので、どう対応していくかである。ともかく、こうした挑戦は楽しみだ。

◇参考
・Now i goes digital with a BuzzFeed-style website called i100(Guardian)・
・The Independent passes 40m web browsers for first time in June(journalism.co.uk)
・Why The Independent launched the new user-focused i100(journalism.co.uk)




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posted by 田中善一郎 at 07:48 | Comment(0) | TrackBack(0) | 新聞 ニュース
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