メディアサイトは以前から、新しいニュースが投稿されたことを知らせるために、ニュースレターを定期的に送るメールサービスを実施してきていた。ただ読者は次第に、検索や最近ではソーシャルメディアを介して新たなニュース記事と頻繁に接するようになってきている。このため、ニュースメディア・サイトも検索エンジンやソーシャルメディア対策により注力するようになっていた。
そのせいか歴史の長いメールサービスが、今のソーシャルメディア時代においてはやや目立たない存在になっている。ニュースレターがこれまで通り、機械的に手軽に済ませ工夫を凝らすことが少なかったせいかもしれない。新聞サイトの発信するニュースレターのメニューも、たとえば新聞のニュースセクション対応に用意し、各セクションの主だったニュース記事をRSSフィード・スタイルでシステム的に送ることで済ませていたりしていた。
そこで、NYタイムズはマンネリ化していたメールサービスのテコ入れを行った。同サイトのニュースレターのメニュはEmail Subscriptionsで示されているように、現在42タイトルが用意されている。その中のいくつかのタイトルを以下に示す。
図1 NYタイムズのニュースレター。現在、42タイトルが用意されている。いずれも無料でレター内コンテンツを定期購読できるが、レターからリンク先のサイト内コンテンツは、有料の場合、一般に無料で読めない。
World | U.S. | Politics | Business | Technology などのようにサイトのニュースセクションに対応したタイトルは設けないで、全セクションを対象にした「Today’s Headlines」「Today’s Headlines European Morning」、「Today’s Headlines Asian Morning」で毎日、サイトにアップした最新のお薦めニュースを知らせている。その他は、サイト上のブログや特定コラムに対応した「DealBook」、「Bits」、「Well」など、ターゲットが明確なタイトルが目立つ。さらにこの1年ほどの間に、「NYT Living」(週2便)、「Nicholas Kristof」(週2便)、「The NYT Now Morning Briefing」(平日1便)、「Cooking」(週5便)など11タイトルを追加し、メニューを拡充させている。
また、「Movies Update」、「Travel Dispatch」、「Motherlode」、「Sophisticated Shopper」、「TicketWatch」、「Wine Club」のように、ブレーキングニュースの通知ではなくて、趣味的な、それもニッチなテーマをカバーしたタイトルが多いのも特徴だ。そして全体を見て気が付いたのは、ベビーブーマー世代向けの「Booming」にも象徴されるように、中高年層ユーザーへのサービスとして重視していることだ。
NYタイムズの最近のマーケッティング活動を見ていると、ミレニアル世代に代表される若年層読者を獲得しようと、フェイスブックなどのソーシャルメディア対策に躍起になっている。でも同新聞の中核読者は中高年層である。最も大事なデジタル版有料購読者が7月末に100万人を突破したが、その中央年齢が54歳である。現読者の高齢者向けにもきっちりとサービスを提供しなければならない。中高齢者ともなると、ソーシャルメディアよりもメールを介してニュースに接する人も多いはず。
そこで、ニュースレターを充実させるために、12人もの専任スタッフを張り付けている。レターの内容も、機械的にRSSフィード・スタイルで済ませるのではなくて、人手で編集しており、またレター用のオリジナルコンテンツを加えたりもしている。編集室の記者も手伝うことがあるという。その結果、各ニュースレターの購読者数は、1万人から数百万部までとなっている。「Nicholas Kristof」、「Booming」、「Motherlode」、「The New York Times Magazine」などの人気レターの開封率は70%を超えている。ニュースレターのサンプル例(コンテンツの一部)を以下に示す。
図2 ニュースレター「Booming」、「Cooking」、「Nicholas Kristof」のサンプル例
看板コラムニストのNicholas Kristof氏の最新のニュースレターでは、彼自身が購読者数が5万人を突破したことを報告していた。
これとは別に、先ほどHuffingtonPostのビジネス欄を読んでいると、以下のポップアップ画面が突然覆いかぶさってきた。HuffingtonPostビジネス欄のニュースレター勧誘であった。
追記メモ
米メール配信サービス会社Yesmailのレポートによると、メルマガとかニュースリリースと称する配信メールのclick-to-open (CTO)率、つまり開封率が、以下の図のように推移している。PC(デスクトップ)メールのCTOがモバイルメールよりも高いが、その差がどんどん狭まっている。モバイルメールのエンゲージメントが高まっているのだ。モバイルでメールを受信する頻度が増えているだけに、スマホ画面向けのHTMLメールの配信に力を入れるべきであろう。
◇参考
・Email Subscriptions(NYTimes)
・How The New York Times gets a 70 percent open rate on its newsletters(Digiday)