代表例としてよく紹介されるのがNowThisである。新興の動画コンテンツ(大半が硬派な動画ニュース)パブリシャーである同社は、自前のメディア・サイトを閉鎖し、すべての動画コンテンツを外部プラットフォームにホストしている。ユーザーには、自前のホープページではなくプラットフォームで視聴してもらう。NowThisのサイト(nowthisnews.com/)に飛ぶと、
「HOMEPAGE.
EVEN THE WORD SOUNDS OLD.
TODAY THE NEWS LIVES WHERE YOU LIVE.」
の案内が目に入る。「古い感じのするホームページに来てもらうのではなくて、ユーザーがよく居る場所にニュースを置いておきます」ということだ。現在、毎日60点以上の動画コンテンツを、Facebook,Instagram、Vine、Snapchat、Twitterなど16か所のプラットフォームにホストしている。月間にして4億3500万回も視聴されている。
こうした分散型メディアが最近になって一段と注目を浴びているのは、一般のテキストニュースにも波及し始めているからだ。特に、その本命と目されているFacebookの「Instant Articles(インスタント・アーティクルズ)」が、参加パブリッシャーを20社に増やし、本格的に離陸しようとしている。
これまでパブリッシャーサイトへの参照トラフィック増を支援してきたが
この2~3年、米国のニュースメディアは、新興メディアだけではなくて伝統メディアも、バイラル重視に突っ走てきた。ニュースサイトへのトラフィックを増やすために、ソーシャルネットワーク、特にFacebookで話題になり拡散するコンテンツを作り出すことに努めてきた。Parse.lyが米主要パブリッシャー400サイト以上を対象に実施した今年5~7月の調査でも、図1のように、パブリッシャーへの参照トラフィックの流入元シェアでFacebookが43%とトップに飛び出て、38%のGoogleを追い抜いている。さらにモバイル環境の拡大に伴い、GoogleからFacebookへの流れは止まりそうもない。

図1 パブリッシャーへの参照トラフィックの流入元シェア(データ:Parse.ly)
このように、ニュースメディアなどのパブリッシャーが競ってFacebookからの参照トラフィックを増やす流れを、Facebookも後押ししてきた。ニュースフィードに掲載されるコンテンツは、Facebookが決めるアルゴリズム次第でどうにでも制御できる。この2〜3年の間、メディア/パブリッシャー・ページからのコンテンツが優遇され、逆にブランド・ページからのコンテンツは冷遇されニュースフィードへの表示でも目立たなくなってきた。その結果Socialbakers の調査でも、図2のように、メディアやパブリッシャー・ページからのコンテンツのInteraction数(=Comment数+Share数+Like数)が過去2年間に急増し、ブランド(企業)ページのコンテンツに比べ約3倍にもなっている。Interaction数の多いメディア・ページのニュース記事が、ニュースフィードに頻繁に表示されるようになってきたのである。

図2 フェイスブックのカテゴリー別Interaction数。メディア・ページからのコンテンツが最も拡散性が高い。(調査:Socialbakers)
これからはパブリッシャーのコンテンツはリンク情報からネイティブへ
そこで、NewsWhipでは、Interaction数(あるいはShare数)の多いパブリッシャーを「The Biggest Facebook Publishers」として、毎月ランキングを発表している。図3は、今年9月のShare数の多いパブリッシャーのトップ10である。Facebook内でのパブリッシャーの各記事はリンク情報がほとんどなので、Share数やInteraction数が多ければパブリッシャー・サイトへの参照トラフィックが一般に増えることになる。

図3 Share数の多いFacebookパブリッシャーのトップ10。2015年9月調査。(調査:NewsWhip)
ところが、こうした各パブリッシャーがFacebookからの参照トラフィック増を競う流れに、変調が見え始めた。ひとつ前の記事の中でも触れたように、バイラルメディアに代表される新興メディアにおいて、この1年の間にInteraction数(Share数も含む)を減らすサイトが目立ってきたからだ。そうしたサイトではFacebookからのトラフィックも減り始めているはずだ。先週末のDigidayの記事でも、今年に入って主要パブリシャーがこぞってFacebookからのトラフィックを減らしているというSimpleReachのレポートを紹介していた。
これは、Facebookのメディア戦略が新たな局面を迎えているためではなかろうか。これまで、Facebookはニュース/メディアなどのパブリッシャーのコンテンツを優遇してきた。そのお陰でパブリッシャーは参照トラフィックを増やすことができた。この結果、パブリッシャーのFacebook依存が高まることになり、多くのパブリッシャーは同社なしではやっていけない状況にはまっていった。伝統メディアまでも頼ってきている。今やFacebookは、パブリッシャーに対し優位に立てるようになったのだ。
ところが現状のままでは、パブリッシャーのコンテンツはリンク情報のため、Facebookはユーザーをパブリッシャー・サイトに送り込む役割を担っているだけとなっている。広告などの売上はパブリッシャー・サイト側で生まれるが、Facebook側の売上にはほとんど貢献しない。このままでは面白くない。そこでパブリッシャーに対し優位に立てるようになった段階の今、Facebookが次の大きな一手を打ち出したのだ。Facebookに置くパブリッシャーのコンテンツ(ニュース記事など)を、リンク情報ではなくてネイティブ(コンテンツそのもの)に変えていこうとしたのだ。
これはユーザーにとっても有り難い。ユーザーがパブリッシャーのコンテンツ(リンク情報)に出会った時に、わざわざパブリッシャー・サイトに飛ばなくても、即座にFacebook内でコンテンツ全文を閲覧できるからだ。このサクサク感はモバイル時代には欠かせない。ユーザーのエンゲージメントも高まるはず。さらに、パブリッシャーのコンテンツにかかわる広告事業をFacebookの制御下で展開できるようになる。これこそが同社の最大の狙いでもある。モバイル広告市場で急成長している同社としては、さらなる飛躍に向けて動き出せるのである。
まず同社が急いだのは動画メディアの強化だ。動画配信事業は以前、YouTubeが圧倒的に支配していた市場である。そのため、パブリッシャーや企業も、YouTubeに動画を投稿し、Facebookにはその投稿動画のURL(リンク情報)を掲載することが多かった。つまり、URL(リンク情報)がFacebookで拡散しても、動画再生のトラフィックはYouTubeに流出していたのだ。そこで、動画配信環境を整備し、Facebookへの動画の直接投稿を強力に推し進めてきた。その成果で、今や毎日、Facebookで80億回も動画が再生されるほどに急成長し、動画プラットフォームとしてYouTubeと対抗しうる存在となってきた。
動画メディアに続いてニュースなどのテキスト系メディアでも、パブリッシャーに対しリンク情報の代わりにコンテンツ全文を直接投稿するように働きかけているのだ。それが「Instant Articles(インスタント・アーティクルズ)」である。でもこのような流れが進むと、パブリッシャーが当てにしていたFacebookからの参照トラフィックが減っていくことになる。Facebookとしてはこの流れを加速化させるために、ニュースフィード・アルゴリズムに手を加えて、ネイティブ動画やインスタント・アーティクルズを優遇していくのだろう。一方でリンク情報コンテンツは冷遇されそう。
パブリッシャーのネイティブ動画ニュースが起爆に
すでにニュース系パブリッシャーも、この変化に対応し始めている。動画やイメージ・ニュースを、リンク情報ではなくて、ネイティブ(コンテンツそのもの)の形でFacebookにホストさせるパブリッシャーが増えてきているのだ。図3でShare数の多いトップ10パブリッシャーを示したが、これらパブリシャーでも、リンク情報コンテンツのShare数のほかに、ネイティブコンテンツのShare数もかなり獲得し始めている。図4はその両者を足し合わせたグラフである。中でも、伝統メディアのBBCとかGuardianでも、動画ニュース・コンテンツ丸ごとFacebookに置き、BBC NewsやGuardianのサイトではなくてFacebookサイトで視聴してもらおうとしている。例えば、独ミュンヘン駅に到着したシリア難民を出迎えるBBCの動画ニュースは、37万件を超えるShare数を獲得し、2200万回以上も再生されていた。

図4 各パブリシャーが直接投稿したネイティブコンテンツのShare数を追加したグラフ。黒い部分がネイティブコンテンツ。2015年9月調査。(調査:NewsWhip)
主要ニュースサイトは、これまで以上に動画ニュースに力を入れ始めており、動画ニュースの割合が増えていけば、相対的にリンク情報ニュースが減っていきそうである。図4にトップ10のパブリッシャーのInteraction数(=Comment数+Share数+Like数)の内訳を示しています。例えばBBCの場合、9月に3万2814本のニュース記事がリンク情報の形でFacebook内で拡散し、そのInteraction総数が18,455,535件となっている。記事1本あたり562件のInteractionを得ている。一方、コンテンツ丸ごと投稿した動画・イメージニュースは221本であるが、そのInteraction総数が3,253,616件となっており、記事1本あたりのInteraction数が1万4722件と、リンク情報ニュースに比べ25倍以上となっている。ニュースサイトが、動画ニュースに走るのも当然かもしれない。

図5 トップ10のFacebookパブリッシャーのInteraction数内訳
このようにニュース系パブリッシャーも、動画ニュースを手始めに、記事コンテンツを外部プラットフォームにホストすることに抵抗がなくなってきたようだ。そこで気になるのが、「Instant Articles(インスタント・アーティクルズ)」の展開である。そこで最初から同プロジェクトに参加しているNYタイムズの現況を見ていこう。NYタイムズのFacebookページ(ファン数1014万)の投稿ニュース記事を見ていくと、稲妻マークの付いたインスタント・アーティクルズ(つまりネイティブコンテンツ)の割合は数分の1程度で、ほとんどはリンク情報コンテンツである。
そこでNewsWhipでは、リンク情報コンテンツとインスタント・アーティクルズのそれぞれの、記事1本あたりのShare数、Like 数、Comment数をはじいた。リンク情報の場合、335件、1,437件、173件となった。一方インスタント・アーティクルズの場合、1,219件、3,423件、944件となった。インスタント・アーティクルズのほうが、Share数が 3.5倍、Like 数が2.5倍、Comment数が5.5倍と、平均エンゲージメント率がぐんと高まっている。つまり、インスタント・アーティクルズを採用したほうが、多く閲覧されることになる。これはFacebookの主張でもある。
また、パブリッシャーがいつまでもFacebookからの参照トラフィックを当てにしないほうがよさそうだ。
◇参考
・Facebook has taken over from Google as a traffic source for news(Fortune)
・Facebook's traffic to top publishers fell 32 percent since January(Digiday)
・Socialbakers Finds That 3% of Facebook Desktop News Feed Is Promoted(Socialbakers)
・The Biggest Facebook Publishers Of September 2015 – With Native Content(NewsWhip)
・Re-Thinking Engagement In The Age Of Distributed Content(NewsWhip)
・Instant Articles Are Shared Three Times More Than Regular Links(NewsWhip)
・The Biggest Facebook Video Publishers Of August 2015(NewsWhip)
・Facebook Mulls Ad Changes for Instant Articles After Publisher Pushback(WSJ)
・Theft, Lies, and Facebook Video(Medium)
・これがFacebookが動画再生回数を増やす「カラクリ」、コンテンツを他サイトから盗んでいる構図を解説したムービー「How Facebook is Stealing Billions of Views(Gigazine)