Last.fmは最も人気の高い音楽SNSで,世界200ヶ国以上に1500万人以上のユーザーを抱えている。日本でもエキサイトと提携して日本語版サイトを運営している。
米国では,こうした伝統的なメディア企業によるネットメディア企業の大型買収は珍しくない。New York TimesがAbout.comを,Dow JonesがMerketWatchを,NBCがiVillageを,そしてNews CorpがMySpaceを買収してきた。
古い体質のメディア企業が,異質文化の新興メディア企業を買収して上手くいくのだろうか。これまでの買収事例を見る限りは,順調に推移しているように思える。
新興ネットサイトのブランドを維持させ,独立して運用させているのが特徴的である。新旧企業間のシナージー効果を無理矢理仕掛けて,伝統的なメディア事業を後押しさせるいった戦略を必ずしも採っていない。買収したネット企業のサイトを独立した形で更に発展させて,そこからの売上と利益を最大限に伸ばすことにより,伝統的企業に貢献させている。
たとえば,About.comを買収したNew York Times Co(NYT)もそうだ。今や同社において,売上と利益の成長率が最も高い部門がAbout.comである。About.comのサイトを見れば分かるのだが,NYTの臭いを全く嗅ぎ取ることができない。トップページの右隅に,小さく“©2007 About, Inc., A part of The New York Times Company”とあるだけである。一方,NYTimes.comのトップページには,About.comの面影が全くない。
About.comはNYTに買収されたのだが,ユーザーからはAbout.comがNYTimes.comの傘下に収まったとは見えないのである。
また,NYTimes.comが1年前にサイトのリニューアルを実施したときに,その陣頭指揮をAbouto.comの者に執らせたことを思い出す。外様のスタッフがNYTimesの記者に対しネット記事の作法を指導したのである。つまり,伝統的企業の価値観を買収先企業に押しつけるのではなくて,買収先企業の新しい価値観を重視し採り入れていく。
でも,日本で伝統的なメディア企業が新興ネット企業を買収した場合,どうなるのだろうか。伝統的メディア企業の本業を活性化するためだけに,ネット企業を利用することにならなければ良いのだが・・・。
◇参考
・米新聞のエースNYTも4月は業績悪化(メディア・パブ)
・NYTimesのサイト, ブランド依存から脱却し検索エンジン対策も(メディア・パブ)