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2016年06月13日

分散型メディアで月間10億回の動画再生を一気に達成した「INSIDER」、意外な次の一手とは

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  分散型動画メディア「INSIDER」がアッと言うまに、月間10億回の視聴数を達成した。同メディアの概要を把握できる64秒間のプロモーション動画があったの、参考までに以下に貼っておく。

Exciting news: INSIDER is launching a website.
Introducing https://t.co/litFRoTPTs!https://t.co/WaBX17qd7q

— INSIDER (@thisisinsider) 2016年5月25日


図1 INSIDERのプロモーション動画

 大流行の分散型動画メディアの中でも、見逃せないのが「INSIDER」である。昨年8月に立ち上がった動画メディアであるが、今年に入って急激に再生回数を増やし、4月に10億回の大台を突破した。メディア/ニュース/出版分野の動画メディアでトップを走っていたNowThisを一気に追い抜いた。

 動画コンテンツはうまく拡散し始めると、とんでもない視聴数が得られるようだ。INSIDERが2か月前に投稿した「スパイダーキャッチャー」の動画は、フェイスブックで1億回以上の再生回数と、123万件のシェア数、41万人からのいいよ!を得て、爆発的に拡散した。蜘蛛を殺さずに捕らえる製品を紹介した動画で、以前から存在していた類の製品に過ぎないのだが、40秒間でまとめてうまく制作しており、思わず見入ってしまう。

 こうした興味深い動画コンテンツを連発することにより、4月には単月で1億人にリーチし、配信先のソーシャルプラットフォームでのフォロワー数が1000万人を超えたという。誕生してからわずか8か月で、このような実績をあげたのだから、やはりすごい。

硬いビジネス分野パブリッシャーが、軟らかい非ビジネス分野をゼロから始める
 
 「INSIDER」の誕生の背景を見ていこう。同メディアを立ち上げたのは、ビジネス/テクノロジー分野の新興ニュースメディア「ビジネスインサイダー」(BI)である。BIはアメリカで生まれて7年目となるサイト(前身のSilicon Alley Insiderからは9年目)で、仕事向けの高品質コンテンツを提供するパブリシャーとして知られている。このBIが日本でも話題になったのは、ドイツの大手メディアのアクセル・シュプリンガーに買収されたからだ。昨年春にアクセル・シュプリンガーは「フィナンシャル・タイムス(FT)」の獲得に動いたが、日本経済新聞との買収合戦に負けたため、その後すぐにBIを買収したのだ。

 ドイツ社の傘下に入った後もBIは、ビジネス分野のBusiness Insiderにテクノロジー分野のTech Insiderを加えたニュースメディアとしてグローバル展開している。それぞれのフェイスブックページは、Business Insiderが536万7495人、Tech Insiderが490万6254人ものフォロワー数(ファン数)を擁し、ミレニアム世代向けビジネス情報メディアとしてそれなりの地位を確保している。他にBIインテリジェンスが、有料の調査レポートを発行している。

 このようなビジネス向けの硬派メディアであるBIが、非ビジネス向けのライフ分野にも新たに進出しようとしたのだ。一般にこうした場合、現在抱えているビジネスユーザーに新たに非ビジネスコンテンツも提供する形でスタートすることが多い。つまり初めはBusiness InsiderやTech Insiderのビジネスユーザーに向けて、旅行やアート、料理(食)などのオフビジネス(ライフ)情報も提供していこうとするのが、普通のアプローチであろう。

 ところがBIの取った戦略は違った。ライフ分野サービスの対象者層のすそ野は巨大だ。一方、BIの現ユーザーは絞られたビジネスパーソン層である。BIのWebサイトからのアプローチでは、巨大なライフ分野の潜在ユーザーにリーチできないままに終わりかねない。

 そこでBIは、ライフ分野のサービスでは、自前のWebサイトを持たないようにした。そして分散型メディアを採用することにした。外部の幾つかのソーシャル・プラットフォームに投稿したほうが、桁違いに多くのオーディエンスにリーチできる可能性が高いからだ。またライフ分野のコンテンツは動画とした。テキストや写真に比べ動画のほうが拡散しやすく、圧倒的に多くのアクセスを獲得することが期待できるからだ。

 そして昨年8月に「INSIDER」のブランドでライフ分野サービスを開始した。Webサイトを持たずに、フェイスブックやユーチューブ、インスタグラムなどの外部ソーシャル・プラットフォームに、動画コンテンツを配信していった。同ブランドのフェイスブックページの例を、図2に掲げる。そのページに短めの動画を次々と投稿していった。カバーするライフ情報は現在、art, health, people, food, travel, design, cultureの7領域に広がり、各領域対応に独立のフェイスブックページも増設している。


InsiderViralVideoFBPage.png
図2 INSIDERのフェイスブックページ 


分散型メディアで、幅広くオーディエンスにリーチ

 これまでのBIのリソース(Business InsideやTech Insider)にあまり頼らないで、分散型動画メディアに賭けた戦略は順調に進んだ。特に今年に入ってからの成長はすさまじい。フェイスブックがユーチューブ対抗で動画配信に猛烈に力を入れていることもあって、フェイスブックでの動画再生数の急増が際立った。

 そこでフェースブック・ページのフォロワー数を見ていこう。以下は昨日(2016年6月11日)のデータである。
INSIDER:4,366,458人
INSIDER food:1,806,885人
INSIDER design:2,244,283人
INSIDER art:460,695人
INSIDER people:667,813人
INSIDER travel:1,233,882人
INSIDER pop culture:493,600人
INSIDER health:85,750人

  旗艦のINSIDERに約450万人のフォロワーが付いているのに加え、バーティカルな7領域の各ページにも多くのフォロワーが集まっている。フォロワー数の総計が冒頭のプロモーション動画でも誇示しているように、1000万人を突破している。すでに本流の(Business Insider:536万7495人 + Tech Insider:490万6254人)と肩を並べるファン数を擁しており、現在は追い抜いているはずだ。

 多くのフォロワーをバックに、動画の視聴数(再生回数)も急上昇している。動画のトラフィック調査会社Tubular Labsによると、図3に示すように、視聴数が今年2月に1億2000万回程度であったのが、4月には9億回を超えている。現在は10億回を超えているとBIが主張しているが、間違いないであろう。また、INSIDERの動画を視聴したオーディエンスは単月で1億人を超えているという。

ViralVideoINSIDER201604.png
図3 INSIDERの月間視聴数の推移

 BIとしては、質を優先してきた従来のビジネス情報サービスに対して、非ビジネス情報サービスではとりあえず量を優先しているのかもしれない。本格的な収益化はこれからであろうが、foodやtravel、healthのバーティカルな領域では、動画のネイティブ広告が期待できそう。

 また分散型メディアなので、各プットフォームでの視聴数の違いも気になる。 Tubularの測定では、フェイスブックの視聴数が群を抜いて多かった。図4に示すように、INSIDERだけではなくてNowThisにおいても、全視聴の99%以上が、フェイスブックで再生されていた。

ViralVideoInsiderNowThis.png
図4 INSIDERとNowThisのプラットフォーム別月間視聴数


ホームレスだとやはり心配なので、拠点のホームを構築


分散型動画メディアでは、NowThisの成功事例もあって、Webサイト(ホームページ)を備えないで複数の外部プラットフォームだけに投稿していくスタイルが増えてきた。こうした「ホームレス・メディア」が先進的であると見なされたりしている。INSIDERもホームレス路線で、短期間に爆発的な成長を遂げきた。

 ところが驚くことに、5月末にINSIDERのWebサイト(thisisinsider.com)が立ち上がったのだ。以下の図5は、Webサイトのスナップショットである。10か月間のホームレス生活を放棄して、昔のスタイルに戻るかのようにホーム(Webサイト)を構築したのである。

INSIDERWebPage20160610.png
図5 INSIDERのWebサイト「thisisinsider.com」

 無くても良いはずのWebサイトを、なぜわざわざ立ち上げたのか。外部のプラットフォームでは、編集や広告などの進め方でいろいろと制約を受けることがある。より深いライフ分野のコンテンツを、コンパクトな動画だけではなくて、テキストや写真で自由に編集したい場合も出てくるだろう。分散型動画メディアといっても、INSIDERの場合、図4で示したように、ほぼ100%フェイスブック上で展開している。つまり事実上、フェイスブックの手の平でメディア活動を実施しているのだ。これでは、ニュースフィードのアルゴリズムや編集/広告の取り決めを次第で、大打撃を被る心配がある。実際これまでも、フェイスブックがアルゴリズムを変更したことにより、痛い目にあったパブリッシャーやメディアサイトが少なくない。

 INSIDERとしては、1000万人以上のフォロワーを確保したのだから、そうしたファンを自前のWebサイトに誘導することにより、自由に仕掛けた各種イベントやECに招いたり、自由なフォーマットの広告と接触させることもできよう。INSIDERとバーティカルな7領域のフェイスブックページを先ほどチェックして分かったのだが、動画以外にテキスト/写真系記事もかなり多く投稿されていた。面白いことに、そのテキスト/写真系記事がフェイスブック推奨のインスタント記事ではなくて、リンク情報であったことだ。つまり、Webサイト(thisisinsider.com)に来てもらって、記事全文を閲覧させようとしているのだ。フェイスブックからthisisinsider.comへの流入トラフィックがどれくらい得られるかが興味深い。 


◇参考
・Business Insider Launches ‘Insider’ Lifestyle Website(WSJ)
・Business Insider Launches Lifestyle Site ‘Insider’(FishbowlNY)
・The rise of "homeless" media(Digital Content Next)



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posted by 田中善一郎 at 00:27 | Comment(0) | TrackBack(0) | メディア
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