かつてソーシャルやケータイのサービスで先行していた日本が、「ソーシャル+モバイル」時代においてもトップランナーとして突っ走ているに違いない。と思っていたのだが、どうも日本はいつもの特異性を発揮して、少し他国とは違った道を歩んできているようである。
インターネットユーザーのうち、SNSを利用している割合を国別に見てみよう。英調査会社GlobalWebIndex(GWI)によると、グローバルのオンラインユーザー(16〜64歳)の93%は、少なくとも一つのSNSアカウントを有しているとレポートした。注目すべきは、図1で示す国別(34カ国)のSNS利用率である。日本は、グローバル平均より20%も下回る約70%と、特出して低いことだ。面白いことに、インド、インドネシアなどのアジア諸国、ブラジル、アルゼンチンなど南米諸国、サウジアラビア、UAEなどの中近東諸国では、ほとんどが95%前後と極めて高い。つまり、多くの新興国・開発途上国では、事実上、「インターネットユーザー=ソーシャルメディアユーザー」となっている。
(ソース;GWI)
図1 インターネットユーザーのSNS利用率。国別で比べると、日本の低さが際立っている
こうしたインターネットユーザーは、平均すると異なった7種類のソーシャルメディア・アカウントを保有するという。先に紹介した新興国・開発途上国では、図2に示すように、一人当たり8種類以上のアカウントを持っている。一方日本では、約2種類とずば抜けて低い。バーチャルなソーシャルメディアに寄り付かずにリアルワールドを満喫している高齢者が多いせいかもしれない。
(ソース:GWI)
図2 インターネットユーザー一人当たりのSNSアカウント保有数。Facebook、YouTube、Facebook Messenger、Twitter、Google+、WhatsApp、Instagram、LinkedIn、Pinterest、Line、Snapchatなどの中から、何種類のアカウントを保有しているかを示している。ほとんどの国のユーザーは平均で6〜9個のアカウントを有しているが、日本では約2個と非常に少ない。
国別のSNS利用率を、総務省が発行した「平成28年版 情報通信白書」でも調べていたので、図3と図4で紹介する。日本以外に米国、英国、ドイツ、中国、韓国も調査し比較しているが、やはり日本が最も低い。確かに日本の高齢者(60代)のソーシャルメディア無視が目立つ。図1のGWIの調査では、世界中の高齢(45〜64歳)のネットユーザーの85%がソーシャルメディアのアカウントを持っていることになっているのだが。ただ図4に示すように、最もSNS利用に熱心な20代〜30代でも、日本は他国に比べて低い。
(データソース:平成28年版 情報通信白書)
図3 国別のソーシャルメディア利用率。20代、30代、40代、50代、60代のそれぞれの回答結果を、各国の各世代の人口比で加重平均したもの。
(データソース:平成28年版 情報通信白書)
図4 日本、米国、中国における年代別のソーシャルメディア利用率
このように日本人ネットユーザーはソーシャルメディアを利用する割合が低いだけではなくて、さらに一人当たりの利用時間も短いようだ。GWIなどの調査結果(2016年1月)でも、日本人の一日当たりのSNS利用時間は、図5のように、0.3時間(約18分)と他国と比べて極端に短い。他国はすべて1時間以上となっており、多くの新興国では3時間前後となっている。日経新聞でさえも、"Japanese spend least time on social media worldwide"と伝える。GWIの調査法を精査していないので何とも言えないが、日本人の利用時間はもう少し長いように思える。
(ソース;GWI,we are social)
図5 国別SNS利用時間
日本でもSNSの利用が年々活発化しているのだが、グルーバルに見れば活発度が相対的に極めて低いのは間違いなさそう。その流れを支えるモバイル環境でも日本は特異性を発揮している。同じくGWIが、モバイル端末からのインターネット利用時間を国別で比較していたので、図6に掲げておく(PCからのインターネット利用時間も示されていたが、ここでは省く)。
(ソース;GWI,we are social)
図6 モバイル端末からのインターネット利用時間
日本人のモバイル端末からのインターネット利用時間は、0.6時間(36分)と短い。他国では1時間から4時間までとバラついているが、日本と比べると圧倒的に長い。特に目立つのは、新興国の多くは3時間前後と長いことだ。つまり新興国では、
「モバイル利用時間=インターネット利用時間=SNS利用時間」
となっている。
日本を含むネット先進国では、「固定通信網+PCインターネット」時代から始まり、「低速モバイル網+フィーチャーフォン・インターネット」との長い並走を経て、最近の「高速モバイル網+スマートフォン・インターネット」時代に入っている。このため高齢化でも先行する先進国では、PCインターネットを主に利用する人が多く、また馴染みのフィーチャーフォンを使う高齢者も少なくない。
一方、新興国・開発途上国では、「固定通信網+PCインターネット」時代を事実上バイパスし、一気に「モバイル網+スマートフォン/フィーチャーフォン・インターネット」時代に突入している。このため、インターネットユーザー=モバイルオンリーユーザーとなっている。ネットサービスも、ポータル全盛時代をバイパスしてソーシャルメディアを享受することから始まっている。新興国のほうが先進国よりも、モバイル端末やSNSの利用率が高くなっているのもうなずける。
日本が新興国だけではなくて先進国と比べても、ずば抜けてSNS利用率が低くモバイル・インターネット利用時間が短いのは、超高齢化と保守性、それに既得権者を大事にする政策のためなのか。今年の情報通信白書で調べた、スマートフォンおよびフィーチャーフォンの利用率でも、日本が際立っていた。フィーチャーフォンからスマートフォンへのシフトが鈍くなってきており、フィーチャーフォンの利用率が40%と他の先進国と比べても高止まりしている。。逆にスマートフォンの利用率が60%前後と伸び悩んでいる。先進国では、スマホ利用率とSNS利用率が連動する傾向にあるだけに、日本でSNSが幅広く定着するのはもう少し先か。
(データソース:平成28年版 情報通信白書)
図7 国別のスマートフォンおよびフィーチャーフォンの利用率。ふだん、私的利用のために利用しているモバイル端末を質問した結果である。
◇参考
・GWI Social: Q2 2016(GlobalWebIndex)
・Digital in 2016(we are social)
・「平成28年版 情報通信白書」の概要(総務省)