米国の4大新聞である、NYタイムズ、ワシントンポスト、 USAトゥデイ、ウォール・ストリート・ジャーナルの各サイトの月間ユニークユーザー数は、図1のように推移している。NYタイムズとワシントンポストの急伸が際立つ。NYタイムズは今年11月に、1億人を大きくクリアした。
図1 米国の有力新聞サイトの月間ユニークユーザー数の推移。comScoreが米国内のユーザーを対象に実施している調査結果より。
大統領選挙期間中は、ニュースメディアのニーズは高まるはずである。でも、ソーシャル化とモバイル化が進むに従い、バズフィードやハフィントンポストなどの新興ニュースサイトへのトラフィックが増えても、新聞社系ニュースサイトへの訪問数はあまり増えないのではと懸念されていた。だが、図1と図2からも分かるように、伝統新聞サイトでも、ユニークユーザー数はこの1年間でかなり増えた。
図2 2015年10月、16年9月、16年10月、16年11月における各新聞サイトの月間ユニークユーザー数。
やはりトランプ氏の存在が効いた。彼の破天荒な発言や過去のスキャンダルなど、トランプ氏に関わる記事に多くのアクセスが集まった。またソーシャルメディアで偽ニュースやデマ情報が蔓延したこともあって、信頼性の高い伝統新聞サイトに頼る人も増えていった。
その伝統新聞のほとんどが、選挙戦後半からトランプ氏に対する批判記事を多く発信し、クリントン氏優勢と報道してきた。にかかわらずトランプ氏が勝利したため、選挙後は新聞サイトが逆風に立たされることになった。読者離れが進むのではとの懸念も出てきた。ところが、NYタイムズ、ワシントンポスト、ウォール・ストリート・ジャーナルの有料サイトで、選挙の直後から購読申し込みが殺到した。
リベラル系の多い既存マスメディアを非常に毛嫌いしていたトランプ氏が、選挙後もマスメディアをバイパスして、ツイッターを通して独断的な発言を続けている。マスメディアを無視して、一方的に政策などを伝える姿勢に、危機感を抱く人が増えるのは当然である。またソーシャルメディアには選挙後も、トランプ氏のツイートも含めて、偽ニュースやデマ情報が少なくない。
真実の情報をもっと知りたいし、独裁的に走りそうなトランプ政権を監視してもらいたい。そうした願いを込めて、信頼できそうな伝統メディアに頑張ってもらうために、有料サイトの購読申し込みが増えたのだろう。NYタイムズでは、図3のように、今年最後の四半期(2016年10月〜12月)にデジタル版の有料購読数(純増数)が20万部を超える見込みだ。選挙戦後半の第3四半期(2016年7月〜9月)も11万6000部も増えている。トランプ氏がNYタイムズの救世主になるのかもしれない。
図3 NYTの有料購読数の純増数(四半期別)。有料サービス開始直後の四半期(2011年第2四半期)は28万1000部と特別に多かったが、それ以降は5万部前後で推移していた。トランプ効果で、今年後半に有料購読数が急増し、年末にはデジタル版オンリーの有料購読数総計は、150万部を突破する見込み(パズルの有料購読は除く)。
有料購読数が増えていけば、業績にも反映するはず。最近まで、有力新聞社でも、経営危機を乗り越えるために、ニュース編集のスタッフ削減を強いられてきた。業績回復に伴い、ニュース編集のスタッフ増強を実施する新聞が現れてきた。ワシントンポストが60人以上のジャーナリストを近く採用し始めるということだ。久々の朗報である。調査報道チームの専門スタッフ、ビデオジャーナリスト、 ブレーキングニュース・スタッフなどを集めるという。
◇参考
・'Profitable' Washington Post adding more than five dozen journalists(POLITICO)
・After Trump’s win, news organizations see a bump in subscriptions and donations(NiemanLab)