2017年03月04日
月間ビュー数が億回超えの「料理動画メディア」が続出、レッドオーシャン化の兆しも
オンラインの料理動画サービスが、メディアパブリッシャーにとって"美味しい"市場として急浮上しているのだ。桁違いのビュー数の獲得が期待でき、また収益性の高いスポンサード動画や各種バイプロダクトも仕掛けやすいからである。ソーシャルメディアの拡散力を活用して、極めて短期間で成果を上げた料理動画メディアが相次いで生まれてきている。
まず、桁違いのビュー数を獲得した料理動画と、スポンサード動画の実例を見ておこう。図1の例は、2億5000万回も再生された料理動画である。このように億回以上も視聴される大ヒット動画は頻繁には登場しないが、1000万回レベルの動画となると海外では毎日のように投稿されている。また図2のようなスポンサード動画も、料理動画のネイティブ広告として盛んに投稿されてきている。この例では商品広告が入った動画にも拘わらず2300万回も再生されている(スポンサード動画の動向については、ブログ「スポンサード動画が昨年から爆発的に急増、広告なのにビュー数が1000万回超えも続出」で紹介)。
図1 Food NetworkがFacebookに投稿した料理動画「ピザ・ポット・パイ」
図2 TastyがFacebookに投稿したスポンサード料理動画「ウォッカ・パイナップル・ソフトクリーム」。スポンサーである多国籍農業・食品企業Doleと一緒に制作した動画である
2年ほどの短期間でグローバルに一気に開花
このような料理動画に特化したオンラインブランド(メディア)が、本格的に登場し始めたのは2年前あたりからである。Facebookに投稿された料理動画の総ビュー数の推移(図3)をオンライン動画の解析会社のTubular Labsが公表していたので、それを見てみよう。2015年の年初には総計でも月間数億ビューしかなかったのが、同年半ば頃から爆発的に立ち上がり、15年の年末には一気に100億ビュー台に乗せた。その上昇気流に乗って、月間ビュー数が億回を超える料理動画メディアが次々と生まれてきた。その中から抜きん出たトップ4が「Tasty」、「Tastemade」、「Delish」、「Food Network」である。これらは単体で、早くもビュー数が毎月5億回を超えている。
(ソース:Tubular Labs)
図3 Facebookに投稿された料理動画の総ビュー数。月間の総ビュー数の推移を示している。
ここで代表的な料理動画メディアの月間ビュー数の推移を見てみよう。Tubularが毎月測定したデータをプロットしたのが図4である。ここで取り上げたメディアはいずれも、少なくとも毎月2〜3億ビュー数を得ている。
(ソース:Tubular Labs)
図4 代表的な料理動画メディアの月間ビュー数(視聴回数)の推移。Tastyグループには、旗艦の「Tasty」のほかに「Buzzfeed Food」、「Bien Tasty」(スペイン語)、「Proper Tasty」(英国)、「Tasty Demais」(ブラジル/ポルトガル語)が、またTastemadeグループには旗艦の「Tastemade」のほかに「Tastemade Brasil」、「Tastemade Español」が上位に名を連ねている。
先頭を独走しているのはBazzFeedが運用する「Tasty」で、断トツのビュー数を誇っており、昨年前半には月間20億ビューを突破していた。その後を追ったのが「Tastemade」である。両メディアはまた、別ブランド名を立てて海外にも進出し、競い合っている。共に昨年、日本にも上陸した。その先行した2強を追って、米大手出版社ハーストの「Delish」と料理専門CATVの「Food Network」は、手薄になっていた若いユーザーを狙って、ソーシャル動画にも参入してきた。図4を見れば分かるように、ビュー数が頭打ちになっている先行の2強に対して、昨年の後半あたりから追い上げてきている。今年1月には、「Delish」が月間ビュー数で8億回を超え、初めて「Tastemade」を追い抜いた(下の図6)。
Facebookが仕掛け、BuzzFeedが素早く対応
このように、桁違いの月間ビュー数を達成する料理動画メディアが、この1〜2年の短い間に、相次いで生まれてきたのである。
もともとメディアパブリッシャーにとって、料理は定番の人気分野である。テレビでも雑誌や新聞でも料理コンテンツはよく見かけるし、インターネット時代でも変わらない。料理をテーマにしたWebサイトは多い。料理専門の人気ユーチューバも活躍しているように、すでにネット上には料理動画がふんだんに流れている。だが、最近登場してきた料理動画メディアは、これまでのコンテンツとはちょっと違う。生まれた経緯を振り返ってみよう。
ソーシャルサイトをプラットフォームとした動画ブームの仕掛け人は、やはりFacebookである。数年前からFacebookは、メディアが投稿する記事がより拡散するようにアルゴリズムを変えていき、バイラルメディア・ブームのプラットフォームとなってきている。そしてBuzzFeedに代表されるバイラルメディアが続々と台頭してきた。Facebookはさらに3年ほど前から、「これからは動画時代」と見据えてアルゴリズムを動画コンテンツ優先に変え、メディアパブリッシャーに動画コンテンツの投稿を強烈に働きかけた。
その働きかけにいち早く応えたのが同じくBuzzFeedであった。まず2014年に、動画に特化したブランド「BuzzFeed Video」を新たに立ち上げた。そこに投稿した料理動画がユーザーから高いエンゲージメントを得るのを確認し、ビュー数も100万回を超える人気動画が増えてきた。料理動画ビジネスはブレイクするとの声が一段と高まる。そこで2015年に入ってすぐに、今度は料理動画だけに絞ったブランド「BuzzFeed Food」を立ち上げる。ニューヨークのスタジオから毎日のように複数本のレシピの料理動画を投稿し始めた。
「BuzzFeed Food」は期待通り大ブレイクする。立ち上げて半年も経たない2015年6月には、投稿動画のFacebookでのシェア数(月間)が663万件となり、Facebook動画メディアで断トツのトップに躍り出る(2位が279万件)。その6月にFacebookに投稿したレシピ動画「スモアディップ(S'mores Dip)」は、その6月だけで8000万回も再生され、210万人がシェアした(2年後の現在、累積で1億2900万回再生され131万人がシェア)。
図5 「BuzzFeed Food」がFacebookに投稿した動画「S'mores Dip」。焼いたマシュマロとチョコレートをクラッカーに乗せて食べる簡単なおやつ。プロダクトプレイスメントの動画でもあり,マシュマロにNestle製を使っている。
「BuzzFeed Food」が配信した料理動画は、主にモバイル向け/ソーシャルサイト向けを前提とした。そのため、ニュースメディアが配信する記事のように、コンテンツは短く(ショートフォーム)して次々と制作した新鮮な動画を流すことにする。早送りで極めて短尺にしたオリジナルなレシピ動画を、撮影用のキッチンがあるスタジオで制作し、毎日のように数本近くをFacebookやYouTubeに配信したのである。
図5の動画も、長さが16秒と短い。BuzzFeed Foodが15年6月に配信した料理動画の平均長は、一本当たり24秒と非常に短かった(最近の動画動画は1分前後が多い)。テキパキと手際よく料理をしていく動画が、次々と投稿されていった。視るだけでも楽しいが、視聴者自身もスマホを見ながら思わず作ってみたくなる。このため視聴者のリアクション(エンゲージメント)も高く、実際に料理を試みた人からのコメントなどで賑わう。図5の例では、瞬く間に210万人によりシェアされた。すごい速さと勢いで拡散していくのも、視聴者のリアクションが大きいためである。
このBuzzFeed Foodの躍進を見て、その同じスタイルを踏襲した料理動画メディアが、グローバルで一斉に登場してきた。BuzzFeed自身も、さらに力を入れて展開するために別ブランドの「Tasty」を2015年7月に立ち上げ、新しいロサンゼルスの動画スタジオから投稿し始めた。そして一気に、料理動画メディアのトップに躍り出ることになる。
分散型メディアをうたい上げているが、実際はFacebookに依存
こうした料理動画メディアの特徴の一つは、ほとんどが分散型メディアを採用していることである。YouTube 、Facebook、Instagram、Vine、Twitterなど、複数のソーシャル系プラットフォームを用いて、動画を配信している。より多くのユーザーにリーチするために複数のプラットフォームに投稿しているにもかかわらず、実際に視聴されるている場は大半がFacebookとなっている。
トップ4の料理動画メディアにおけるプラットフォーム別月間ビュー数を比べても明確である。図6は今年1月における月間ビュー数とフォロワー数である。いずれも90%以上の動画がFacebookで再生されている。「Delish」に至っては、視聴回数(ビュー数)の99%がFacebookである。トップ4以外の有力メディアでも、特定プラットフォームに依存しすぎるリスクを避けるために分散型メディアとうたっていても、実際にはFacebookに絞って投稿している場合が少なくない。
(ソース:Tubular Labs)
図6 トップ4の料理動画メディア。2017年1月現在のフォロワー数と月間ビュー数。Tastyの今年1月のビュー数が総計で16億1779万となっているが、そのうちの95%近くがFacebookで視聴されている。
Tastyの場合で、主要プラットフォーム別の投稿動画数および総ビュー数の累計を図7にまとめた。動画1本当たりのビュー数も付け加えた。ここでも圧倒的にFacebookに依存していることが、はっきりと出ている。かつては、YouTubeが最もよく利用されていたが、今では影が薄くなっている。それよりも、料理動画の中核ユーザーのF1層に人気の高いInstagram(Facebook傘下)のほうが、YouTubeよりも多く視聴されている。
(ソース:Tubular Labs)
図7 Tastyの総ビュー数/投稿動画数/投稿動画1本当たりの平均ビュー数。三つのSNS別に計数している。Facebookにこれまで1173本の動画を投稿し、それらの動画の総ビュー数が286億回となっている。つまり動画1本当たり平均すると2380万回も再生されている。
海外では日本と違って、Facebookが断トツに幅広く利用されており、さらに抜群の拡散力を備えているため、Facebookへの一極集中が進んでしまっている。追われる立場のYouTubeは視聴時間が1日当たり10億時間を突破したり、有料のYouTube TVを発表したりして、攻勢を強めている。ただYouTubeの動画は、比較的ロングフォーム(長尺)が中心で、アーカイブ的であり、検索エンジンからの利用に向いている。でもニュースのようにフロー的に、デイリーに次々と投稿される短尺動画で、拡散性に頼る配信では、やはりFacebookが優位になっている。
楽しくてシェアしたくなる
爆発的に急発進したソーシャル料理動画市場も、図3のように、早くも天井感が見え始めている。生き残るためのシェア争いが激化しそう。コンテンツの編集力が今まで以上に重要になる。目立つための話題作りも必要だ。
例えば、昨年7月にポケモンGOサービスが始まると、そのフィーバーにあやかって、すぐにポケモン・カクテルが現れた。まず、その動画を視聴してみよう。
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバック