1週間前にも、以下のような動画に出くわした。
図1 NYタイムズの6月3日付の動画ニュース記事。
これは、NYタイムズが配信したトランプ大統領発言の事実確認記事”Fact Check: Trump’s Exit From the Paris Climate Accord”である。このニュース記事は投稿してから6日間でフェイスブック上で約200万回も再生され、いいよ!が約2万2000人、シェアが約1万8700件、コメントが約2000件も獲得した。"ファクトチェック"の硬い政治記事にもかかわらず、このように多くの人に注目され視聴されている。動画であったことが効いたのだろう。
このようにニュースメディアでも動画シフトが米国を中心に活発化してきた。メディア分析会社NewsWhipの調査によると、CNNやFox News、BBC News、Voxなどの主要ニュースパブリッシャーのFBページにおいては、投稿ニュース記事のうち動画の割合が明らかに増えてきているという。また動画系ニュース記事のほうが一般に、テキスト系ニュースや写真系ニュースに比べオーディエンスからより多くのリアクションを得ているようだ。
実際に、代表的なニュースパブリッシャーのFBページを対象に、それぞれのFBページに投稿された動画ニュースが、どれくらいオーディエンスからのシェア件数を得てきているかを、NewsWhipの調査結果から見ていこう。図2は2017年1月時点で、動画の月間シェア数が多かったFBページのランキングである。月間シェア数が2016年1月からの1年間でいずれも急騰している。動画コンテンツによりエンゲージメント数(シェア数)の拡大を狙っているのだ。
(ソース:NewsWhip)
図2 動画ニュースの月間シェア総数の多いFBページ。ニュースメディアに分類されていたFBページが対象。各FBページの上段に2017年1月の月間シェア数を、下段に2016年1月の月間シェア数を示す
NewsWhipはまた2017年4月時点で、動画ニュースのエンゲージメント数(ここでは、いいね!数+コメント数+シェア数)を多く獲得したFBページのランキングも、図3のように公表している。いずれもニュースメディアに分類されているFBページが対象である。
(ソース:NewsWhip)
図3 ニュースメディアに分類されているFBページにおける動画ニュースのエンゲージメント数(いいね!数+コメント数+シェア数)。2017年4月の月間エンゲージメント数によるランキングである。
顔ぶれでは、テレビ/ケーブル系や新聞系の伝統ニュースメディアが目立つ。テレビ/ケーブル系の伝統メディアも少し前まで、オンラインニュースサイトにおいては、テキストや写真中心のニュース記事が中心であった。ブロードバンド化の浸透と動画配信のプラットフォームが整備されるに伴い、本業の動画ニュースの投入を加速化させている。
さらに注目すべきは、新興のニュースメディアが動画ニュースを武器に勢いを増していることだ。2011年設立のMic、2012年設立のNowThis、2014年設立のATTNは、ミレニアル世代をターゲットに、かなり良質の動画ニュースを配信している。政治ニュースにも力を入れ、分散型メディアの代名詞的存在になっているNowThisは、基幹のFBページのNowThisに加えて、新たにNowThis PoliticsとNowThis Futureというブランド名のFBページを立ち上げた。いずれも、図3に示すように、早くもトップ10入りし、驀進している。
そのほか、世界のローカル動画を集めたThe Epoch Timesや、中国内の動画を紹介する英語版のShanghaiistも面白い。
動画ニュースのエンゲージメント数でトップ15入りしたFBページが、それぞれどれくらいの動画ビュー数を達成しているかを、以下の図4に掲げる。オンライン動画の解析会社のTubular Labsが2017年4月に測定した結果である。
(ソース:Tubular Labs)
図4 代表的なニュースメディアにおける動画ニュースの月間ビュー数(再生回数)。2017年4月の1か月間に、フェイスブックとYouTubeでそれぞれ視聴された回数を示している。
ニュースメディアが動画ニュースを配信する場合、NowThisの分散型メディアのように、複数の動画配信プラットフォームを活用するのが当たり前になっている。Facebook、YouTube、Instagram、Twitter、Vineあたりが常連のプラットフォームである。ところが分散型メディアと言いながら、欧米では実際には、ほとんどの動画ニュースがフェイスブックで視聴されている。図4の表の右端で、分散型メディアでの視聴回数のうちフェイスブックで再生された割合を示している。
『月間ビュー数が億回超えの「料理動画メディア」が続出、レッドオーシャン化の兆しも』でも示したように、フェイスブックが圧勝しているのだ。また、『ニュース接触の主戦場が「フェイスブック」か「グーグル検索」か、記事のトピック別で大きく分かれる
』で紹介したように、ニュースメディアを含めたオンラインメディアは、特に米英ではフェイスブックに依存してきている。コンテンツがテキスト中心から写真中心に、さらには動画中心に移ろうとも、フェイスブック離れが難しいといえる。フェイスブックは巧みにニュースフィードのアルゴリズムを変えて動画コンテンツを優遇するので、なおさらである。
ただ、ニュースメディアが一斉に動画一辺倒に走っているわけではない。日常的に重要なニュース記事を次々と消費したいユーザーにとっては、テキストや写真・グラフ中心のニュース記事のほうが有難い。必然性のない動画ニュースで時間をつぶしたくない。高級新聞のNYタイムズや調査報道でも注目され始めたBuzzFeed Newsも、必然性のある動画ニュースは別にして、むやみに動画を増やしてはいない。このため、2017年4月の動画ニュースの月間ビュー数も、NYタイムズが約5000万回、BuzzFeed Newsが1億2000万回と、図4のトップ15と比べるとやや少ない。
ただし、両メディアとも動画開発には先行している。例えば、NYタイムズは、360度動画、VR、ドローン撮影など最新テクノロジーを駆使した動画ニュースの開発に熱心である。1年半前(2015年10月27日)に驚かされた覚えがある。グリーンランドで氷河が解けて激流となっている様子をドローン撮影した動画ニュースである。氷河の先端部が海に崩れ落ちる映像はよく見かけるが、このNYタイムズの動画は地球温暖化の深刻さをこれまで以上に訴えていた。
図5 ドローン撮影の動画ニュース。
またNYタイムズは昨年秋から、360度動画を届ける「The Daily 360」(http://nyti.ms/2eQ5vAm )を開始している。記者にサムソン製 360度カメラ Gear 360を持たせて、毎日、360度動画を配信している。
一方で、動画ニュースはバイラル性が高いので、けた違いのビュー数を獲得できる場合がある。ビュー数の最大化を狙って、バイラル性の高そうなテーマに絞るニュースメディアも出てきている。ランキングトップに上り詰めた英Daily Mailは、動画版バイラルメディアと言えそうだ。
以下、目についた動画ニュースをエンベッドしておく。
図6 NowThis Futureの動画ニュース。ゼラチン製のペットボトルで、飲み終えた後に食べてしまえるので、ゴミにならない。環境にやさしい水筒だが、3年前にも話題になっていたニュースである。このように新しい技術をビジュアルに紹介する動画の人気も高い。
図7 AJ+(英語版Al Jazeera)の動画ニュース。中東の紛争や難民の悲惨な現実を伝える生々しい動画が毎日のように配信されている。海外にとっては身近なニュースなのだろう、高いビュー数を得ている
図8 ATTNの動画ニュース。北朝鮮すら署名しているパリ協定を離脱したトランプ政権に対し、非難している動画。ATTNはミレニアル世代向けの動画ニュースを売りにしている。
図9 Shanghaiistの動画。おじいちゃんと孫の競演。このように、エンターテイメント性の高いコンテンツだと、再生回数が1億回近くになることも。上海などの中国内の動画を英語で配信。
図10 Daily Mailの動画ニュース。大衆受けするバイラル性の高い動画コンテンツで高いビュー数を獲得している。バイラル性の高そうなコンテンツに絞って、配信している。
◇参考
・The top engaging Facebook videos of April 2017(NewsWhip)