スポーツ選手、ミュージシャン、モデル、映画俳優などの有名人の多くは、インターネット上でも影響力の大きいインフルエンサーとして活動している。そのために、ブログで発信したり、さらに台頭著しいソーシャルメディアに公式アカウントを立ち上げてセルフプロモーションに精を出している。ただソーシャルメディアにおいては、有名なセレブだけではなくて一般人から浮上してきた大多数のインフルエンサーも、活躍の場を拡大してきている。インスタグラマーと称される人気インフルエンサーが爆発的に増え続けている。
こうしたインフルエンサーはたいてい複数のソーシャルメディアにポストしているが、彼らに今最も注力しているソーシャルメディアはどれかと問うと、インスタグラムと口をそろえて答えるようになってきた。米国のマイクロインフルエンサー・マーケッティング会社Hashoffが顧客のインフルエンサーを対象に実施した最新調査によると、回答者のほとんどがインスタグラムを最優先のソーシャルメディアと見ている。図1にその結果を示す。また彼らが今投稿しているソーシャルメディア(複数回答)は、インスタグラムが99.3%、フェイスブックが67.1%、スナップチャットが50.8%、ツイッターが43.1%、ユーチューブが27.8%、ピンタレストが27.8%となっている。
スポンサードポストのエンゲージメントが急上昇

(ソース:Hashoff)
図1 インフルエンサーが投稿しているソーシャルメディアはどこか?
インスタグラムの人気が沸騰しているのは、現在最も勢いのあるソーシャルメディアであるためであろう。全世界の月間アクティブ利用者数(MAU)が今年の4月末に7億人を突破し、その前のわずか約4か月間で1億人も増えたのだから、その勢いは目を見張る。年内に10億人の大台に乗せそうとの声も聞かれる。
インフルエンサー・マーケッティングに乗り出しているブランド(企業)にとっても、インスタグラムは最も注目したいソーシャルメディアとなってきた。実際、インスタグラムのインフルエンサーを活用したスポンサードポストが急激に増えている。メディア分析会社NewsWhipの調査によると、インスタグラムに投稿されたスポンサードポストのエンゲージメント数(=ライク数+コメント数)の総数が最近の5か月間で3倍以上にも膨れ上がっている。図2に示すように、3月前半には10日間で約1000万件であったのが、最近の10日間では約3000万件に上昇している。ここでNewsWhipが計測対象としたスポンサードポストは、
#paid, #ad, #sponsored, #spon, #promoted, #ambassador
などのハッシュタグが付き、ペイドコンテンツであることを明記した投稿(ポスト)である。

(ソース:NewsWhip)
図2 インスタグラムに投稿されたスポンサードポストの総エンゲージメント数。10日間単位で計数した総エンゲージメントの推移を示している
このように、インフルエンサーもブランドもインスタグラムになびくのは、インフルエンサーを起用したスポンサードポストが高いエンゲージメントを得ているからである。もともとメインコンテンツが写真や動画であるインスタグラムがの方が、テキスト中心のフェイスブックやツイッターよりも高いエンゲージメントが得やすい。海外の調査でも、インスタグラムポストがフェイスブックポストやツイッターポストに比べて、ケタ違いに高いエンゲージメントを得ている、との報告をよく見かける。
ブランドポストよりもスポンサードポストを
そのため、ブランド(企業)自身も相次いで公式インスタグラム・アカウントを立ち上げ、そこへ自社商品のプロモーション/キャンペーンのためにポストしている。ただブランドからのポストだけだとオーディエンスからあまり反応が得られないかもしれないので、インフルエンサーにスポンサードポストを頼むことになってきている。図3に、インスタグラム・マーケッティングに取り組んでいる大手ブランド5社がそれぞれ、ブランドポストおよびスポンサードポスト当たりどれくらいの平均エンゲージメントを得ているかを示している。

(ソース:NewsWhip)
図3 Urban Decay、Nordstrom、Wendy's、JetBlue、Postmatの各ブランドが、インフルエンサー・ペイド・ポストおよびオウンドポストのそれぞれで獲得した平均エンゲージメント数を示している。Influencer paid post(スポンサードポスト)の平均エンゲージメントは2017年6月に計測し、Owned Post(ブランドポスト)の平均エンゲージメントは2017年7月に測定した結果である。
ブランドのポストよりもインフルエンサーのポストのほうが、明らかに高いエンゲージメントが得られている。例えばアメリカの格安航空会社のジェットブルー航空(JetBlue)は自社ブランドの公式アカウントでポスト当たり平均で2363件のエンゲージメントを得ているが、セレブのインフルエンサーを起用したスポンサードポストでは24万件と100倍以上のエンゲージメントを獲得していた。

図4 インストグラムで1310万人のフォロワーを擁する女優のVictoria Justiceが、航空会社のJetBlueのためにペイドコンテンツをポストした。スポンサードポストであることを明らかにするために、#adと#jetblueのハッシュタグを付けている。
インスタグラムのインフルエンサー・マーケッティングの例としては、Airbnbが実施したスポンサードポストも話題になった。歌手のMariah Careyを皮切りにトップクラスのセレブを起用したスポンサードポストを、2015年7月からの2年間で37回も行った。超セレブのインフルエンサーにAirbnbで予約できる豪華な宿泊地に泊まってもらい、セレブに楽しんでいる写真をポストしてもらう。今年2月にヒューストンで開催されたスーパーボウルのハーフタイムに出演したLady Gagaには、ヒューストンの豪華ホテルをAirbnbが用意した。そこに泊まった彼女は図5で示すスポンサードポストを発した。Airbnbのホテルに泊まったことが多くのメディアで伝えられた効果も大きかった。
図5 Airbnbのインフルエンサー・マーケッティング・キャンペーンで起用されたLady Gagaのスポンサードポスト。
このようにセレブのスポンサードポストが牽引する形で、インスタグラムのインフルエンサー・マーケッティングは今年にも10億ドルの大台に達する勢いで拡大している。そこで最近の3週間(2017年7月1日〜21日)において、インスタグラムのスポンサードポストで多くのエンゲージメントを集めたインフルエンサーのランキングを見てみよう。図6にエンゲージメントの多いトップ7のインフルエンサー・アカウントを掲げる。これもNewsWhipの測定結果である。

(ソース:NewsWhip)
図6 スポンサードポストで多くのエンゲージメントを得たトップ7のインスタグラム・インフルエンサー。2017年7月1日から21日までの間に獲得したエンゲージメント(ライク数+コメント数)総数に合わせて、各インフルエンサーが擁するフォロワー数も示している。トップの Chiara Ferragni さんは、7月の3週間に彼女が発したスポンサードポストで571万のエンゲージメントを得ている
サッカー選手のCristiano Ronaldo(@cristiano)のように有名なセレブが多く選ばれているが、インターネット生え抜きのインフルエンサーも上位に顔を出している。ネットの世界で最も影響力があると言われているファッションブロガー Chiara Ferragni さん(@chiaraferragni)は、インスタグラムのスポンサードポストでも最も多くのエンゲージメントを獲得したトップインフルエンサーとなっている。
膨大なフォロワーを抱えたセレブよりも、エンゲージメント率の高いマイクロインフルエンサーを
よく知られているセレブともなると、これまでのリアルワールドでのファンも流れて公式アカウントで膨大なフォロワーを抱えている場合が多い。このためセレブを起用したスポンサードポストなら、先のAirbnbの例のように幅広くリーチできるはず。だが、超セレブを起用するとなると膨大な経費がかさむため、限定されたブランドしか仕掛けられないだろう。それに、図6の1億人以上のフォロワーを誇るRonaldoの例で見てもわかるように、超セレブのアカウントは一般にフォロワー数の多さの割にエンゲージメント数が少ない傾向が出ている。いわゆる、エンゲージメント率が意外と低いのだ。ここでは、
エンゲージメント率=(ライク数+コメント数)÷フォロワー数
とする。
それよりも、図6のFerragni さんのように、ネット業に特化したネット生え抜きのインフルエンサーのほうが、テーマを絞っていることもあって、セレブほどファン数が多くなくてもエンゲージメント率がおおむね高い。さらにフォロワー数が1万人を切るインフルエンサーでも、テーマを絞ることによって、非常に高いエンゲージメント率を上げている場合が少なくない。インフルエンサーマーケッティングが盛り上がっているのも、ブランドが用意したメッセージ(写真や動画)よりも、消費者でもある一般のインフルエンサーが生活目線で撮った写真や動画のほうが、オーディエンスの大きい反応が得られるからである。そのため、フォロワー数が少なくても高いエンゲージメント率を得るポストを連発する、いわゆるマイクロインフルエンサーがスポンサードポスト市場の主役になってきているのだ。
ニッチなテーマに絞ったマイクロインフルエンサーの例として、子育ての写真や動画をインスタグラムにポストしているママさんインフルエンサーを見てみよう。NewsWhipが取り上げていたアカウント例を図7に示す。

図7 子育てをテーマにしたインフルエンサー。ポスト数、ライク数、コメント数は4月1日から7月1日までの期間で測定した値。それぞれのアカウントは、@taza、@mother_of_daughters、@mommyshorts、@bluebirdkisses。
子育て関連の商品やサービスを提供しているブランドが、このようなママさんインフルエンサーを起用したスポンサードポストを多く依頼するようになってきている。そのスポンサードポストの例を、図8に。
図8 子育ての写真や動画を投稿しているNaomi Davisさん(愛称taza)のスポンサードポスト。このポスト例では、靴販売会社DSWがスポンサーで、#sponsoredのハッシュタグを付けている。もちろん、彼女の子供たちはDSWの靴を履いている。彼女はlove TAZAのブランドで事業展開している
◇参考
・How Instagram influencers drive 100x the engagement for brands
(NewsWhip)
・Instagram Dominates Influencer Marketing (Report)(Adweek)
・Micro-Influencers Are More Effective With Marketing Campaigns Than Highly Popular Accounts(Adweek)
・Influencer Marketing Prices Rising in the UK(eMarketer)
・Making $15,000 PER POST. Why Instagram Is Now The Best Social Network For Online Retailers(Bitcatcha)