かなり厳しい目標と思われたが、今年に入ってデジタル売上が前年比で30%増を上回り、一気に展望が開けてきたのである。やはり「トランプ特需」が効いたようだ。昨年後半の大統領選、それに予想外のトランプ氏の勝利、そして今年に入ってトランプ大統領の誕生と、トランプ旋風が吹き荒れている。NYタイムズのようなリベラル系ニュースメディアはトランプ大統領との対決で危機感を募らせていたが、その対決ムードがNYタイムズにとって思わぬ追い風となり、新規の有料購読者が殺到したのである。
有料デジタルニュースのサービスを始めてから、購読者数が6年間でどう推移したかを図1に示す。これはデジタル版だけの定期購読者数である。直近の2017年第3四半期(2017Q3,2017年9月24日)には213万2000人に達し、この1年間で59.3%増と爆発的に増えたのだ。
図1 NYTの有料デジタルニュース購読者数の推移。
四半期単位の有料デジタルニュース購読者の純増数の推移を見ても、図2に示すように、突発的な急伸ぶりがすさまじい。昨年半ばころまで四半期で5万人程度で純増していたのが、昨年末の四半期(2016Q4)に27万6000人、今年初めの四半期(2017Q1)に30万8000人と、一気に跳ね上がった。まさに、トランプさまさまである。過熱化したトランプブームがやや収まってきた昨今でも、四半期毎の純増数が10万人前後と高成長を維持している。
図2 有料デジタルニュース購読者数の四半期単位の純増数
この1年間の有料デジタルニュース購読者数の急増を反映して、今年のデジタル販売売上高が大きく膨らんできている。2017年1月〜9月の9カ月間のデジタル販売売上高は2億4400万ドルとなり、前年同期間に比べ44.3%も増えた。また、期待したほど伸びていなかったデジタル広告売上高も、今年の好景気も手伝って勢いづき、2017年の9カ月間で前年同期比17.5%増の1億5400万ドルに達した。
この結果、今年1〜9月のデジタル売上高(デジタル販売売上高+デジタル広告売上高)は4億ドルに達した。前年同期に比べ33.3%も増えている。2017年通してのデジタル売上高も、前年比で30%を上回ると見てよさそうだ。
図3は、recodeがまとめたデジタル売上高推移のグラフである。2016年まで年平均成長率が12%前後で推移していたため、このままでは2020年の8億ドル達成は難しいと見られていた。それが、今年の成長率が30%台に跳ね上がり、8億ドル達成が見えてきたのである。recodeはさらに、2020年には9億ドルを突破すると予測している。
(ソース:recode)
図3 NYTの年間デジタル売上高と年平均成長率の推移。2017年には30%増の成長が期待され、デジタル売上高も6億ドル近くに到達しそうである。
だが、トランプ特需と好景気が重なった今年の成長率は、特殊環境が生み出した異常値と見るべきであろう。そこでこれからの年平均成長率が16%で続くとして、2020年には9億300万ドルに達すると、recodeがはじいているのであ。たとえ、以前のように12%成長に戻ったとしても、2020年には8億1300万ドルとなり目標をクリアできると主張している。
それでもこの目標に到達するには、目新しいサービスが必要だろう。不安定なデジタル広告ではなくて、デジタル販売、つまり有料デジタルコンテンツ・サービスへの依存を一段と高めていかなければならない。今回のようなトランプ特需を当てにしないで、継続性のある高成長を実現していくには、新しい有料コンテンツサービスを生み出したい。
実はすでに、NYTはクロスワード(Crossword)・パズルの有料サービスを始めている。今年6月からは料理(Cooking)の有料サービスも新たに始めた。さらに来年以降も、ニュースコンテンツ以外の有料の定期購読サービスを手がけていきたいという。
このほどNYTの新製品/ベンチャー部門のヘッダーに就いたAlex MacCallum氏は、ロイターのインタビューで「子育て、健康、美容、ファッションなど10〜15分野の独立したデジタルサービスを検討中である」と答えている。来年にも2本あるいは3本のデジタルコンテンツ・サービスを開発したいと意気込む。
ここで気になるのは、本流のニュース以外のコンテンツ購読サービスで、どれくらいの購読者と売上を獲得できるかである。NYTの決算書には、ニュース(News)subscriptionとは別に、その他(Crossword+Cooking)subscriptionの定期購読者数と売上高も公表されている。
その定期購読者数を図4に示す。2017年9月24日時点で有料ニュースコンテンツの購読者数は213万2000人に対して、その他有料コンテンツ(Crossword+Cooking)の購読者数は35万5000人となっている。先行しているCrosswordが33万2000人、有料化して約3カ月のCookingが2万3000人の購読者を抱えている。Crosswordのアーカイブには20年分のパズルが、またCookingには1万8000点のレシピが蓄えられている。
図4 2017年9月24日時点/2016年9月25日時点のデジタル購読者数。ニュースサービス(News Product)とその他サービス(Crossword+Cooking)の購読者数を示している。単位は千。
有料コンテンツの売上高の内訳は、図5のようになっている。今年の9カ月間の売上高は、ニュースコンテンツが2億3400万ドルに対して、その他(Crossword+Cooking)が981万ドルにすぎない。
図5 2017年1月〜9月および2016年1月〜9月のデジタル販売売上高。ニュースサービスとその他サービス(Crossword+Cooking)の販売売上高を示している。単位は千。
来年以降に登場する有料コンテンツサービスが、デジタル売上高の底上げにどれくらい貢献するか、注目したい。プリント版広告売上高が想定以上に落下しているだけに、売上高が少なくても、デジタルニュース以外のバーチカルな有料コンテンツサービスにも手掛けざる得ないのだろう。
◇参考
・New York Times to develop more products beyond news subscriptions(Reuters)
・The New York Times is nearing its goal of an $800 million digital business(recode)
・The New York Times Company Reports 2017 Third-Quarter Results(NYT,Press Release)
・Young subscribers flock to old media(Politico)
・The New York Times is now charging for its cooking site
(NiemanLab)