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2018年02月07日

「メディア」も「プラットフォーム」も信頼できないので、「ジャーナリズム」に頼りたい

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 世界的にメディアの信頼が崩壊している。今年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)では、昨年に引き続いて、メディアの信頼性危機が議論された。

メディアがグローバルに信頼されなくなっている

  一つ前の記事で紹介したエデルマンのグローバルな年次信頼度調査「2018 Edelman Trust Barometer」でも、ほとんどの国でメディアに対する信頼度が散々な結果となっていた。

 この調査では、28カ国の成人に対して、4種の組織(政府、メディア、企業、NGO)のそれぞれに対する自国民の信頼度を測った。一般層(回答者全体)と知識層(富裕層が多い)に絞って、それぞれが各組織をどの程度信頼しているかの結果を、以下に示す。

*一般層国民の各組織に頼する信頼度(%)
・NGO:53
・企業:52
・政府:43
・メディア:43

*知識層国民の各組織に頼する信頼度(%)
・NGO:64
・企業:64
・政府:53
・メディア:53

 一般層国民からも知識層国民からもメディア組織に対する信頼度が、政府組織と並んで最も低くなっている。国別に一般層国民のメディアに対する信頼度を比べると、図1のようになる。28カ国の中で22カ国の一般層国民が自国メディアを信頼していなかった(信頼度が40%以下)。この中で、自国メディアを信頼している国は、中国、インドネシア、インドのわずか3国である(信頼度が60%以上)。中国が高くて、日本が低くなっている理由として考えられる背景はこちらで)

EdelmanMediaTrust2018.png
(ソース:Edelman)
図1 一般層国民のメディアに対する信頼度(国別)。28カ国の中で22カ国の一般層国民は自国メディアを信頼していない(信頼度が40%以下)

プラットフォームもメディアの仲間入りに

 ただ、ここで問題となるのは、一般のオーディエンスがメディアをどのような範ちゅうで捉えているかである。かつてのように、新聞、TV、雑誌、ラジオのような伝統的なマスメディアだけが対象ではない。当然、デジタルオンリーの新興メディアも含んでいる。さらにフェイスブックやツイッターのようなSNSや、グーグルのような検索、それにFlipboardのようなアグリゲーターといった、いわゆるプラットフォームも、メディアと見なす人が増えている。実際に65%もの人は、いろんなプラットフォームを介してニュースを消費しているという。

 プラットフォームで出会った記事を、実際にはパブリッシャーが編集・制作したのにもかかわらず、プラットフォームの記事として読んでいる人が少なくない。つまり誰が作った記事(どのメディアブランドの記事)かを気にしない人が若者を中心に増えている。たとえばワシントンポストの記事をフェイスブックで読んだ人の中には、フェイスブックの記事と思いこんでいたりしている。

 そこでエデルマンは、一般人のメディア・イメージを次の図2のように描いた。パブリッシャーに加えてプラットフォームも含んでいる。パブリッシャーとしては、89%の人がジャーナリストを、40%の人がブランドを、23%の人がインフルエンサーを念頭に入れている。またプラットフォームとしては、48%がソーシャルを、41%がニュースアプリを、25%が検索を想定している。

EdelmanMediaPlatformPublisher2018a.png
(ソース:Edelman)
図2 一般国民が考えているメディアとは

 メディアの信頼度が落ちてきたと言っても、その回答者が定義しているメディアには、バイラル性重視の新興パブリッシャーも含むだけだはなくて、フェイクコンテンツを拡散させがちなプラットフォームも含んでいるわけだ。特に最近は、プラットフォームがフェイクニュースを蔓延させたとして矢面に立たされているだけに、メディアの評判が悪くなるのは仕方がない。

 でも、オリジナルコンテンツを編集し制作しているパブリッシャーからすれば、外部のコンテンツを流通させているプラットフォームと同じメディア仲間に入れられるのは面白くない。特に、ジャーナリズムが看板のパブリッシャーからすれば、プラットフォームとの道連れにされて信頼のないメディア仲間と見られては、我慢ならないだろう。

 ジャーナリズムの信頼度がプラットフォームを凌ぐ

 そこで、パブリッシャーとプラットフォームとを別々に、オーディエンスがどの程度信頼しているかを知りたくなる。ただパブリッシャーでもフェイクニュース・サイトのように全く信頼できないものも少なくない。そこでパブリッシャーを89%の人がジャーナリストと想定していたので、ジャーナリズムとプラットフォームとを対比させて、それぞれの信頼度をエデルマンが比較した。一般ニュースや情報のソースとして、ジャーナリズムに対する信頼度とプラットフォームに対する信頼度が、2012年から2018年までどのように推移しているかを示したのが図3である。


EdelmanTrustPlatformDeclineJournalismRebound2018.png
(ソース:Edelman)
図3 ジャーナリズムとプラットフォームの信頼度。プラットフォームの信頼度が下降する一方で、ジャーナリズムの信頼度が跳ね上がっている。

新聞のようなジャーナリズムを標榜しているパブリッシャーに対する信頼度も、長期的には低迷していた(例えばギャラップの調査)。どうしても上から目線の習性から抜け出せないことと、消費者主導のネットメディアの台頭もあって、ジャーナリズムの看板があまりアピールしなくなっていたようだ。

 2015年には何と、ジャーナリズムの信頼度がプラットフォームの信頼度よりも低くなっていた。この当時はまさに、フェイスブックがソーシャル・プラットフォームとしてメディアに対して圧倒的な影響力を及ぼし始めていた頃である。ジャーナリズムとは縁遠いバイラルメディアが人気沸騰していた時期でもある。また爆発的に増えるコンテンツに対応して、フィルタリング(時にはパーソナル対応で)してくれるプラットフォームに信頼を寄せるオーディエンスが多かったということでもある。

 でもプラットフォームにおいては、信頼性よりもバイラル性の高いコンテンツがやたら目立つようになり、さらに米大統領選の時期にも重なる2017年前後からフェイクコンテンツが一段と増えてきた。このため、プラットフォームの信頼度は下降し始めた。2018年も前年比2%ダウンの51%に落ち込んだ。

 信頼性が欠けるバイラルコンテンツが蔓延するに伴い、信頼性の高いコンテンツを守りたいというニーズが沸き上がってきた。トランプ氏の台頭でフェイクコンテンツが市民権を得たかのように世界中で出回っていることに対する危機感も高まってきた。そうした中で、影が薄くなっていたジャーナリズムが再び一般人の間でも脚光を浴びてきた。2018年のジャーナリズムに対する信頼度は、前年比5%ポイント増の59%へと急上昇したのだ。

 米国ではこの1年間、トランプ特需の追い風で、ジャーナリズムを看板にしたニュース・パブリシャーの人気が勢いよく盛り返している。NYタイムズやワシントンポストなどの電子版の有料購読者数が記録的に急増した。

 先の図3は28カ国での平均値であるが、以下の図4では国別のジャーナリズムとプラットフォームの信頼度を示している。28カ国中21カ国で、ジャーナリズムの信頼度がプラットフォームを上回っていた。主に先進国を中心にその差が拡大しているのは、プラットフォームの信頼度が多くの国で降下したからである。なかでも米国は、プラットフォームに対する信頼度が昨年の53%から今年は42%と11ポイントも急落し、ジャーナリズムとの差が11ポイントに拡大した。

EdelmanJournalismPlatformTrust2018.png
◇(ジャーナリストの信頼度)-(プラットフォームの信頼度)=差
ドイツ:(61%)-(40%)=21
フランス:(57%) -(40%)=17
英国:(53%) - (36%)=17
米国:(53%) - (42%)=11
中国:(77%)-(68%)=9
日本:(41%) - (37%)=4
ロシア:(51%) - (47%)=4
インド: (74%) -(73%)=1 
(ソース:Edelman)
図4 国別のジャーナリズムに対する信頼度(上段)とプラットフォームに対する信頼度(下段)。中段に両者の差を示している。

パブリッシャーとプラットフォームとの綱引きが始まる

 このようにプラットフォームに対する信頼が急降下するまでは、オンラインパブリッシング事業の展開がプラットフォーム側の優位な形で進められていた。その結果として、プラットフォームというメディアがぼろ儲けし、パブリッシャーという本来のメディアがほとんど儲からない流れになっている。それも広告収益がグーグルとフェイスブックの2大プラットフォームに集中し、2社だけで世界のオンライン広告市場の60%以上も占有してしまっている。このままだと、2社の占有率が今後さらにその拡大していこうとする勢いにある。

 ところがここにきて、2大プラットフォームに対する批判の炎が燃え盛っている。個人情報収集に絡んで広告寡占に規制当局が監視を強めだしているし、それにフェイクコンテンツの拡散問題などで世間のプラットフォームを見る目も一段と厳しくなってきた。そして今回のエデルマンの調査でも見られるように、プラットフォームがオーディエンスからの信頼を失ってきているのに対し、ジャーナリズムを標榜するパブリシャーに信頼を寄せたいという声が大きくなってきている。オンラインメディア産業の主導権をプラットフォームから奪回できる絶好の時期かもしれない。

 そこで今、米国のパブリッシャーが攻撃の標的としているプラットフォームは、フェイスブックである。ソーシャルプラットフォームとして圧倒的な影響力を駆使するフェイスブックに、米国の大半のパブリッシャーがこの数年、依存の度合い高めてきていた。そして今やパブリッシャーの浮沈が、フェイスブックのニュースフィード・アルゴリズムに大きく左右されかねない状況に至っている。

 パブリッシャーとしては、フェイスブック依存を減らしたい。すでに他のプラットフォームへの投稿に力を入れ、フェイスブック離れに動くパブリッシャーも出てきた。さらにパブリッシャーが組んで、自分たちのためのプラットフォームを構築する動きも出てきた。フェイスブックの言いなりにならないよとの姿勢をアピールしているのだ。

 一方でフェイスブックは、本来のコミュニティーサービスを強化する一環で、昨春あたりからメディア(パブリッシャー)のコンテンツをかつてほど優遇しなくしている。またフェイクニュース拡散の批判を受けたこともあって、信憑性に疑いのあるグレイゾーンのニュースコンテンツまでも削除し始めていた。もともとCEOのマーク・ザッカーバーグ氏は、フェイスブックがメディアではないと言い張り、コンテンツの責任をあいまいにしていた。だが、ロシア疑惑のフェイクコンテンツなどに絡んで米議会から突き上げを受けたりして、プラットフォームであってもコンテンツの責任を負わざる得ない情勢になってきた。

 こうした流れに嫌気をさしたのか、ザッカーバーグ氏は新年早々に、友達のコンテンツをニュースよりもフィードで優先表示すると明言した。まるで、ニュースパブリッシャー向けのプラトフォームの役割を放棄するかも知れないぞとの牽制球でもある。

 対するパブリッシャー各社は交渉力を高めるためにも、無責任な行動をとっているとフェイスブック叩きに躍起になっていた。フェイスブックが強力に推し進めているインスタント記事での投稿を有力パブリッシャーが次々と止めているように、フェイスブック離れをしきりに臭わせている。だがそんなに気に入らないなら、思い切ってフェイスブックへの投稿を止めるかと言えばそんなことはない。

 ザッカーバーグ氏がニュースフィードからニュース表示を減らしたいとする発言に対し、パブリッシャー側からフェイスブックと縁を切るとの反応は出てこない。それどころか冷遇しないでほしいとの反応が大勢であった。自メディアの記事でフェイスブック叩きに熱心だったパブリッシャーでも、、殺さないでと訴える者も現れる。つまりフェイスブックなしでは生存できないパブリッシャーもいるわけだ。分散型メディアが定着してきたといっても、分野にもよるがフェイスブックの代替となるような強力なソーシャルプラットフォームが存在しないことも確かである。

 ザッカーバーグ氏もニュースフィードのアルゴリズム変更を明らかにした後に、パブリッシャーに配慮したのか、フィードに占めるニュースの割合を5%から4%に減らすと、すぐに追加説明した。パブリッシャーのニュースコンテンツを1%減らすことはパブリッシャーを冷遇しているかのように思えるが、フィード内に4%の割合でニュースを表示すると明言したことは、これからもパブリッシャーのためにプラトフォームの役割を果たしていくとの宣言でもある。

 ここで重大なことは、フィード内には信頼できるニュースを優先表示すると発表したことだ。メディアではないと言い張ってコンテンツの責任を回避していたフェイスブックも、プラットフォームだからといって信頼できないコンテンツを垂れ流すことが許されなくなってきている。エデルマンによると一般人の定義では、プラットフォームもメディアである。だからフェイスブックは、一般人から見ればメディアなのである。先に述べたように、問題はそのメディア自体が世界的に信頼を失ってきていることだ。

 そこで、ジャーナリストによるパブリッシャーに信頼できるコンテンツを期待したい。フェイスブックが信頼できるニュースを優先表示すると明らかにしたが、それは信頼できるパブリッシャーのニュースを優先表示するということである。エデルマンの調査では、信頼できるパブリッシャーとは、ジャーナリストによるパブリッシャーとなる。

 そこで浮上してきた次の難題は、信頼できるパブリッシャーをどのように選別するかである。フェイスブックはその選別を、オーディエンス(ユーザー)の評価に委ねようとする。メディアとして受け入られ始めているフェイスブックが、配送するコンテンツに責任を持っていこうとするなら、自らコンテンツの価値を判定しなければならないはずだが。

 ユーザーの評価であろうと、自らの手による評価であろうと、外部から厳しく批判されるのは避けられない。どっちみち新しいコンテンツの価値評価方式によってパブリッシャーが格付けされ、それに従ってニュースフィードに優先表示されていく。評価されるパブリッシャーの立場は微妙である。自分たちのメディアを通してこの成り行きを盛んに報道し始めている。フェイスブック叩きだけでは済まない。高く格付けされたパブリッシャーが浮上し、低く見積もられたパブリッシャーは沈みかねない。

 ジャーナリズムを看板にしたNYタイムズなどは、信頼度の高いパブリッシャーとして上位に格付けされるのだろう。ファイスブックとしても、自分たちのブランドを高めるためにも、フィードにNYタイムズのような質の高いニュースを優先して表示したいはず。またトランプ大統領お気に入りのフォックスニュースや、極右のブライトバート・ニュースがどのように格付けされるか興味深い。

 これからフェイスブックとパブリッシャーの間で、この格付け問題を中心に、綱引きが始まる。はたしてパブリッシャー側が主導権を握れるのだろうか。
 
◇参考
・President Trump's challenge to media credibility(BBC)
・2018 Edelman TRUST BAROMETER( Edelman)
・2018 Edelman Trust Barometer Global Report:PDF版( Edelman)
・It’s time for journalism to build its own platforms(Monday Note)
・メディアの「信頼度」をフェイスブックがアンケートで決める|2018年、メディアのサバイバルプラン(その4)(HuffPost Japan)



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posted by 田中善一郎 at 11:30 | Comment(0) | その他
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