世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)のセッションでも紹介されていた、エデルマンの信頼度調査によると、国民の自国に対する信頼度ランキングで米国が最下位近くに急落したの対して、中国はランキングのトップに躍り出たのだ。
エデルマンの「2018 Edelman Trust Barometer」は年次のグローバルな信頼度調査で、今年は18年目。今回は2017年10月28日から11月20日にかけて、28カ国で実施したものである。18歳以上の各国1,150人を調査回答者とし、その中に各国200人(米国と中国においては500人)の知識層も含む。知識層は学歴が大卒以上の25〜64歳の大人で、年収が上位25%以内のかなり裕福な層と言えそう。
調査では、一般層の国民と、さらに知識層に絞った国民を対象に、各国で自国の公の組織に対する国民の信頼度を測った。その結果の国別ランキングが、図1(一般層)と図2(知識層)である。組織としては企業、政府、メディア、NGOの4種があり、4種に対する信頼度の平均値が、図1と図2に示されている。エデルマンの評価によると、信頼していると答えた割合が60%を超える国は国民から信頼されており、50%〜59%だと中立の国で、49%以下だと国民から信頼されていない国としている。図1および図2では、1年間の変化を見るために前年の信頼度も掲載している。

(ソース:Edelman)
図1 一般層国民の自国組織に対する信頼度ランキング。この1年間で一般層国民の信頼度を落とした国は、-9ポイントの米国と-5のイタリア。逆に信頼度をアップさせた国は、+7の中国を筆頭に+6の韓国やUAEなど。

(ソース:Edelman)
図2 知識層国民の自国組織に対する信頼度ランキング。知識層の信頼度を大きき落とした国は-23の米国で、信頼度を上げた国は+9のアルゼンチンとスエーデンなど。
一般層国民の自国組織に対する信頼度ランキング(図1)で、米国は昨年は52%で中立であったが、今年は43%と信頼されない国に格下げされている。さらに知識層のランキング(図2)で、昨年は68%と信頼されていたのに、今年は45%と最下位に転落し、調査対象の28カ国中最も信頼されていない国に成り下がっている。
対照的に中国は、一般層国民の信頼度が74%、知識層国民からの信頼度が83%へとアップし、トップにランクされた。最も自国民から信頼されている国となっている。 今回の調査結果で話題になったのはやはり、トランプ氏が米大統領に就任してからの1年間で、米国社会の信頼が崩壊していることを浮き彫りにしたことである。過去18年間の調査で見られなかった劇的な変化を見せつけてくれた。まず一般層米国民は昨年の52%から今年の43%へと9ポイントも一気に信頼度を下げた。さらにトランプ大統領が嫌う知識層国民の反発も凄まじい。1年前には68%と信頼されていたのに、大統領に就任後の今年は45%に急降下し最も信頼されていない最下位に転落してしまったのだ。逆に中国は、一般層国民からの信頼度も知識層国民からの信頼度もこの1年間でアップし、ともにランキングのトップの座に上りつめた。
日本人は公の組織をもともと信頼していないのか、一般層国民および知識層国民の信頼度がともにかなり低い。昨年と比べ信頼度はあまり変わっていないが、ランクは最下位近くに低迷している。膨らむ一方の将来への不安に対して、組織がしっかりと対応してくれているとは思えないからか。問題先送りが多すぎては仕方ないのかも。
政府、メディア、企業に対する個別の信頼度でも、中国は上昇し米国は降下
次に、4種の組織(政府、メディア、企業、NGO)のそれぞれに対する自国民の信頼度がこの3年間でどう変化しているかを、日本(図3)、米国(図4)、中国(図5)の各国で見ていこう。
日本人はどの組織に対してもあまり信頼していないが、やはりメディアに対する信頼度の低さが気になる。今回も信頼している回答者が32%しかいなかった。ここでメディアとは、伝統および新興のパブリッシャーだけではなくて、ソーシャルメディアのプラットフォームも含んでいる。

(ソース:Edelman)
図3 日本人の組織(政府、メディア、企業、NGO)に対する信頼度
米国人はこの1年間、どの組織に対しても信頼度を落としており、その凋落ぶりは図4に示すように凄まじいが、中でも当然のように政府に対する信頼度が14ポイント・ダウンと急降下しているのが際立っていた。さらに知識層に絞ると、政府への信頼度が昨年の63%から今年の33%へと30ポイントもダウン、半減してしまっていた。

(ソース:Edelman)
図4 米国人の組織(政府、メディア、企業、NGO)に対する信頼度。
中国国民の自国組織に対する信頼アップに、トランプ大統領の行動が追い風となったと言える。一党独裁制で政治的自由や報道の自由に制約が多いにもかかわらず、政府やメディアなどへの信頼が高くなっている。昨年は信頼度が下がり気味であったが、2018年に一転して急上昇している。特に一般層国民からの信頼が厚くなっているのが目立つ。一般層の政府に対する信頼度が76%から84%へと8ポイントも、企業に対する信頼度が67%から74%へと7ポイントも、1年間でアップしいるのだ。
政府や企業やメディアの後押しもあって生活が豊かになったお蔭で、中流階級からの信頼が高くなっているようだ。例えば、政府の保護政策の後押しもあってアリババやテンセントのようなネット企業が大躍進し、さらにグローバルに拡大していることをメディアを通して知らされる。中国国民が活躍できる仕事の場をグローバルに用意してくれているのも、政府が進める一帯一路政策のお蔭である。
政治的な自由がないことに対する不満があっても、今はグローバル展開で経済的に豊かにしてくれる組織を信頼しておきたいということか。反グローバルのトランプ政権が居座っている限りにおいては、中国人の自国組織への信頼はしばらく揺るぎそうもない。

(ソース:Edelman)
図5 中国人の組織(政府、メディア、企業、NGO)に対する信頼度
グローバルな好感度も、中国はアップし米国はダウン
ともかく、打算的にしろ中国人は自国の組織を信頼しているが、海外の人は中国をどう見ているのだろうか。 Pew Research Centerが昨年春に実施した「Global Attitudes Survey」が興味深い。37カ国で各国1000人前後の大人を対象に行った調査である。
国際的な問題の対応について、習近平国家主席とトランプ大統領に対するグローバルな信頼度は図6のようになった。両者ともあまり信頼されていない。習近平氏は37カ国の人の28%からしか信頼されていない。それでも、22%%の人からしか信頼されていないトランプ大統領よりもましだが。この調査時からほぼ1年近くになる現在では、グローバル派となっている習近平氏の信頼度が、反グローバル派のトランプ氏をさらに大きく引き離しているかもしれない。

(ソース:Pew Research Center)
図6 習近平国家主席とトランプ大統領に対する信頼度
政治リーダーに対する信頼度が低い国では、その国に対する好感度も低くなるだろう。政治的や経済的な自由が高いとされる米国に対するグローバルな好感度は、もともと高かった。でも図7のように、世界の成人たちが中国と米国に対してそれそれ好意的に見ている割合は、ほぼ同じになってきた。現在、同じ調査を実施すれば、中国の方が好きと答える人の割合が多くなっているかもしれない。ほぼ1年前でも、18歳から29歳の若年層では、中国が好きと答えた割合がグンと増えていた。

(ソース:Pew Research Center)
図7 中国や米国に対して好きな国と答えた割合。
中国に対する好感度を国別に示したのが次の図8である。特に、領土問題や安全保障などの利害関係がないアフリカや南米では、経済大国である中国に対する好感度は極めて高い。逆に日本人は中国を嫌っている。領土問題などで衝突しているベトナムと並んで、中国嫌いが際立っていた。

(ソース:Pew Research Center)
図8 中国に対する好き嫌いの割合(国別)
◇参考
・2018 Edelman TRUST BAROMETER( Edelman)
・2018 Edelman Trust Barometer Global Report:PDF版( Edelman)
・トラストバロメーター2017( Edelman Japan)
・Globally, More Name U.S. Than China as World’s Leading Economic Power(Pew Research Center)