特にニュースパブリッシャーは、彼らのプラットフォーマーでもあるFBに対して、自らのメディアを通して、1年少し前から厳しく糾弾し続けていた。それに合わせてニュースパブリッシャーのFB離れが進んだせいなのか、この1年間、FBからパブリッシャーサイトへのトラフィックが減り始めている。
ただ、トラフィックが減り続けている要因としては、どうもニュースパブリッシャーのFB離れが進んだというよりも、FBが繰り返すニュースフィードのアルゴリズム変更が効いたようだ。でも昨年までのアルゴリズム変更などの対策でニューストラフィックを絞り込んできているのに、フェイクニュースなどの信憑性の無いコンテンツが相変わらず蔓延させているとの非難の声は収まらなかった。
そこで、FBのマーク・ザッカーバーグCEOは新年早々に、ニュースフィードでは友達のコンテンツを優先し、メディアコンテンツの表示頻度を減らしていくことを示唆していた。実際に今年1月中旬からアルゴリズムを大幅に改変し、メディアのニュースコンテンツは信頼できるパブリッシャーの優れた記事に絞ってニュースフィードに表示していくことにした。そのアルゴリズムの変更で、米国の代表的なニュースパブリッシャーがどのような影響を受けていくのかが注目されていた。
FBをたたく一方で、FBへの依存から抜け出せないメディア
まず、米国のパブリッシャーの記事への外部からの参照トラフィックのシェア推移を見てみよう。米トラフィック解析会社Parse.lyが毎日公表している測定結果の過去1年間の推移を図1に示す。FBからニュースパブリッシャーへのトラフィックシェアが、1月中旬のアルゴリズム更新までは明らかに減り続けていた。ところが、アルゴリズム更新以降は、意外にもFBのシェアがわずかだが回復しているのだ。
(ソース:Parse.ly)
図1 パブリッシャーへの参照トラフィックの流入元シェア。
米国のニュースパブリッシャーは、FB批判を一段と過熱化させているにも拘わらず、実際には相変わらずFBへのニュースコンテンツの投稿に注力していることが垣間見れる。ミレニアル世代に代表される若い人にリーチするソーシャルプラットフォームとなれば、米国ではやはり嫌でも圧倒的な普及と拡散性の高いFBに頼らざるを得ないからである。
Parse.lyの解析では主要なニュースパブリッシャーが対象となっているので、FBのアルゴリズム改変で大きな打撃を被ったサイトは少ない。残念ながらこの解析からでは、フェイクニュースの状況は読み取れない。そこでトラフィック(ページビュー)シェアではなくて、特定のパブリッシャー別にエンゲージメントの観点でどう変わってきているかを探ってみたい。
本流のニュースパブリッシャーが優遇され、バイラルパブリッシャーが冷遇されている
その点で、メディア分析会社NewsWhipから毎月公表される調査結果は参考になる。同社は、各ニュースパブリッシャーからFBへ投稿した毎月のニュース記事が獲得したエンゲージメント(いいね!数+コメント数+シェア数)の総計をはじき出している。図2では、nytimes.com、cnn.com、foxnews.comの有力ニュースサイトに極右ニュースサイトのbreitbart.comを加えた4サイトにおける、エンゲージメント総数(total engagements)と月間記事数の推移を、2017年11月から2018年3月に渡って示している。図3はその棒グラフである。
(データソース:NewsWhip)
図2 代表的なニュースパブリッシャーのエンゲージメント総数と月間記事数
(データソース:NewsWhip)
図3 エンゲージメント総数と月間記事数の推移を棒グラフで表示
nytimes.comなどの有力パブリッシャーが、直近の3月に大幅にエンゲージメント総数を増やしているのが目立つ。中でもcnn.comの急伸ぶりはすさまじい。3月に投稿した5597本の記事が、3600万件以上のエンゲージメント総計を得ている。記事1本あたり7010件ものエンゲージメント(いいね!+コメント+シェア)を獲得したことになる。1カ月前の2月には、記事1本あたりのエンゲージメントが4982件であったので、3月に入ってユーザーの反応が一段とアップしたのだ。3月にはエンゲージメントが10万件を超えたcnn.comの記事が66本も数えたというから、FBユーザーに非常に受け入れられたのは間違いない。さらにFBのアルゴリズム変更が、このようなcnn.comの躍進を後押したとも言えそう。
次の図4に、エンゲージメント総数の多かったニュースパブリッシャーのトップ25を掲げる。今年3月のランキングである。ここでは英語のニュースサイトが対象になっている。上位には、nytimes.com、bbc.co.uk、washingtonpost.com、theguardian.comのような本流のニュースパブリッシャーが顔を連ねている。少し前までのランキングで上位を占めていたエンターテイメントパブリッシャーやバイラルパブリッシャーの影は薄くなり、トップ25の下位に少し残っているだけである。FBのアルゴリズム変更で、本流のニュースパブリッシャーが優遇され、バイラルパブリッシャーが冷遇されてきていると見てよさそうだ。
また、偏った記事を連発していた右派ニュースパブリッシャーのbreitbart.comは、1年前まではランキングの10位前後まで上り詰めていたが、この3月には21位に落下していた。一方で、FBは今回のアルゴリズム改変でローカルニュースの優遇もうたっていたが、それに応えるかのように3月にnypost.comがbreitbart.comを追い抜いて20位に初登場したのも興味深い。
(ソース:NewsWhip)
図4 FBでエンゲージメント総数の多いニュースパブリッシャーのトップ25(2018年3月のランキング)
信憑性のないコンテンツが相変わらずはびこるのか
このようにFBのアルゴリズム変更で、主流のニュースパブリッシャーが優遇されてきているようである。だからと言って、フェイクニュースや偏ったコンテンツが減ってきているとは言い切れない。主流に乗れていないニュースパブリッシャーは多く存在しており、その中には論理的に欠陥のある信憑性のないコンテンツを垂れ流しているパブリッシャーも少なくない。特に、一昨年の大統領選の時から急増している党派色の強い「ハイパーパルチザン・サイト」が、FBのアルゴリズム変更でどのように扱われているかが気になる。
「ハイパーパルチザン・サイト」では極端に偏ったコンテンツが目立ち、ファクトチェッカーからたびたび"fake"と判定されている記事を発信しているところも少なくない。NewsWhipは、ハイパーパルチザン的な傾向のある右寄り(保守的)ニュースパブリッシャーと左寄り(リベラル的)ニュースパブリッシャーにおいて、FBのアルゴリズム変更によりエンゲージメント総数がどのような変化したかを公表している。図5で右寄りニュースパブリッシャーが、図6で左寄りニュースパブリッシャーが、FBのアルゴリズム変更前後でエンゲージメントがどう変わってきたかを示している。
(ソース:NewsWhip)
図5 右寄りニュースパブリッシャーのエンゲージメント。ここでは、Daily Wire, Daily Caller, Breitbart, Gateway Pundit, Western Journal, The Blazeを取り上げている。2017年10月末から2018年2月末までの、週間のエンゲージメント総数の推移を示している。
(ソース:NewsWhip)
図6 左寄りニュースパブリッシャーのエンゲージメント。ここでは、Daily Kos, Raw Story, Opposition Report, Think Progress, Talking Points Memo,Truth Examiner を取り上げている。2017年10月末から2018年2月末までの、週間のエンゲージメント総数の推移を示している。
ここで選ばれているサイトは、わりと名が知られていることもあって、FBのアルゴリズム変更後も浮き沈みがあっても大きく落ち込むことはないようだ。どちらかといえば、左寄りニュースパブリッシャーのほうがエンゲージメントを増やしていている傾向が見られる。
ただしY軸の目盛りを見ると、図5(右寄り)が図6(左寄り)より3倍近く大きくなっている。つまり右寄りニュースパブリッシャーのエンゲージメントが、左寄りサイトよりもぐんと多いエンゲージメントを得ているのだ。でも主流のニュースパブリッシャーとなると、米国ではリベラル派(左寄り傾向)の幅を利かせており、FBのアルゴリズム変更後もその状況は変わっていない。
FBが1月中旬に実施し始めたアルゴリズム改変は、信頼できるニュースソースの記事を優先し、信頼できないソースの記事を少なくしていきたいという狙いがあった。確かに主流のニュースパブリッシャーのコンテンツは優遇されているようだ。でも、減らしていきたいハイパーパルチザン・サイトのニュースは、アルゴリズム変更以降も以前とほとんど変わらないエンゲージメントを維持しており、FB上での拡散の勢いは衰えていない。
またNewsWhipは、フェイクっぽいニュースを多く流しているサイトとして、Your NewswireやNeon Nettleも調べている。図7に示すようにアルゴリズム変更後も突発的に高いエンゲージメントを得ていた。先ほど両サイトのFBアカウントをチェックしたのだが、Your Newswireは2万8000人超、Neon Nettleは55万人超のフォロワーを抱えていた。言論の自由もあって、こうしたニュースパブリッシャーのアカウントを削除できないのだろう。
(ソース:NewsWhip)
図7 フェイクニュースを流しているニュースパブリッシャーのエンゲージメント。ここではYour Newswire と Neon Nettleを取り上げている。
NewsWhipは、多くのエンゲージメントを獲得しているニュース記者のランキングも発表した。2018年2月の1か月間に、多くのエンゲージメントを獲得したトップ25の記者の顔ぶれを見て驚いたのだが、上位はほとんどが右寄りのハイパーパルチザン・サイトの記者であった。ファクトチェッカーで"Fake"と烙印を押された記事を投稿している記者も選ばれている。一方で主流メディアや左寄りメディアの記者は影が薄く、ほとんど選ばれていなかった。
直感的に面白そうなフェイクニュースのほうが真実のニュースよりもソーシャルメディアでは持てはやされる、と結論付ける研究論文をよく見かける。どうも今回のアルゴリズムの改変レベルでは、フェイクニュースの蔓延を大きく減らすことは厳しそう。プラットフォーマーに期待を寄せるよりも、ニュース消費者のメディアリテラシーを高めるほうに力を注ぐべきか。
◇参考
・These were the most engaged sites on Facebook in March(NewsWhip)
・The 2018 guide to navigating the Facebook algorithm changes(NewsWhip)
・Has Facebook’s algorithm change hurt hyperpartisan sites? According to this data, nope(NiemanLab)
・Two months post-News Feed tweak: real news is not drowning, comments are growing, and videos are still winning, NewsWhip says(NiemanLab)
・CONSERVATIVE PUBLISHERS HIT HARDEST BY FACEBOOK NEWS FEED CHANGE(The Outline)
・Conservative outlets take on Facebook(Politoco)