ヤフーが行動ターゲティング広告に注力している。
日本のヤフーは,2006年1月から行動ターゲティング広告のテストマーケティングを始め,06年7月から本格導入していた。そして,07年7月からそのサービスを拡充することになった。
今回のサービス拡充の詳細については,リリースに任せるとして,概略は次の通り。
・これまでの「行動ターゲティング広告」では,ユーザーのネット上の行動履歴に基づいて興味・関心別に広告を配信していた。7月からはターゲティングをさらに細分化した拡充サービス2種類を用意することになった。
・ひとつは,行動履歴に属性情報(年齢・性別)を掛け合わせた「デモグラフィック行動ターゲティング」。例えば,美容コスメに関心のある20代女性向け広告を打ち出せる。
・もう一つは,行動履歴に地域情報を掛け合わせた「エリア行動ターゲティング」。例えば,新築マンションに購入意欲のある大阪在住者向け広告を出せる。
ターゲティングを絞ることにより,広告効果や広告単価をアップすることが期待できる。同社の効率パフォーマンステストによると,ある消費財広告において,ノンターゲティングに比べ行動ターゲティング広告では2.5倍のCTR(クリック・スルー・レート)が得られたという。また属性情報で絞ったデモグラフィック行動ターゲティング広告では,さらに1.9倍のCTRを得たという。
急発進しそうな行動ターゲティング広告
インターネット広告の特徴はもともと,ターゲティングを絞り込めることである。その絞り方も,次のように,いろいろと実施されてきた。
・プロパティーターゲティング(掲載ページ)
・デモグラフィックターゲティング(年齢・性別・職業)
・時間帯/地域別ターゲティング
・サーチターゲティング(検索連動)
・コンテキストターゲティング(コンテンツ連動)
・行動ターゲティング
行動ターゲティングについては,数年前から究極のターゲティング広告として注目されていたが,行動履歴情報の収集などで手間取ったりして,期待したように立ち上がっていなかった。
以下は,eMarketerによる米国の行動ターゲティング広告市場の予測である。上段は2006年4月発表のデータで,下段は2007年6月のデータである。今月のデータでかなり下方修正されているのは,期待ほどの急発進をしなかったためか。でも過去の05年市場が,06年4月データで9億2500ドルなのに,07年6月データで2億2000ドルとなっている。どうやら,調査方法が変わったのかな。でもインターネット業界の調査では,このような例は日常茶飯事なので,気にしないほうが良いか。
*2006年4月の予測
*2007年6月の予測
いずれにしろ,他の調査データを見ても分かるのだが,米国では行動ターゲティング広告市場がほぼ間違いなく急成長していくようだ。eMarketerを信ずれば,07年は前年比64.3%増の5億7500万ドルに,08年は同73.9%増の10億ドルになる。そこで米国では,これまでインターネット広告を牽引してきたサーチ広告に代わって,これからは行動ターゲティング広告が台風の目になるとの声もチラホラ聞こえだしている。
日本のヤフーならではの展開が
この行動ターゲッティング広告に,並々ならぬ意欲を見せているのが日本のヤフーである。行動ターゲティングをこれからの広告事業の大きな武器にしたいはず。
行動ターゲティングを成功させるには,ユーザーの行動履歴情報を幅広く収集することである。その点,日本ではヤフーが強い。圧倒的な利用者数とページビューを誇るYahoo Japanが,行動履歴情報を獲得する場であるからだ(実際には個人を識別しないで,ブラウザー別に履歴を追跡している)。
ネットレイティングスの2007年5月度インターネット利用動向によると,家庭からの月間利用者数でYahoo Japanが初めて4,000万人の大台を突破した(職場からの利用も含めるともっと多い)。月間ページビューは家庭からの利用と職場からの利用の合算が318億ページビューとなり,米国Yahooの316億ページビューを抜いて世界一とのことである。このため,膨大な履歴情報を基に利用者(実際にはブラウザー)を興味・関心別に約800程度に分類しても,かなりの母数が得られるわけだ。さらに今回のように,属性情報や地域情報を掛け合わせてターゲットをさらに細分化した広告でも,ある程度のターゲットリーチとインプレッションを確保できるのだろう。
ヤフーの行動ターゲティングは,同社のメディアネットワークの拡大にも威力を発揮しそうだ。ヤフーはオープン化戦略を推し進めており,サービス提供範囲をYahooサイトだけにこだわるのではなくて,パートナーサイトを含めたメディアネットワークにも拡大させていこうとしている。つまり,ヤフー事業の制空権拡大である。
このメディアネットワークは広告ネットワークでもある。パートナーサイトに広告配信するネットワークであるのだ。当然,行動ターゲティング広告も仲介したい。これまでのパートナーのサイトでは,安価な広告料しか設定できなかったり,広告が付きそうもないページが少なくなかった。ところが,これまで広告にほとんど無縁であったロングテールページにも,この行動ターゲティング広告なら配信できる。閲覧中のページ内のコンテンツとは無関係に広告を配信できるからだ。それも,高料金の広告を配信してもらえそう。パートナーサイトをかなり呼び込めそうだ。現在,パートナーは21サイトであるが,今後更にパートナーを増やしていきたいと言う。
また,Yahoo Japanとパートナーサイトのように,複数のサイトにまたがって広告を掲載していくと,コンバージョン率が高まるというレポートを,最近,Atlasが発表していた。特定のユーザー(ブラウザー)がアクセスする複数のサイトに特定の広告を掲載していけば,コンバージョン率が高まると言うことか。
◇参考
・Behavioral Advertising on Target... to Explode Online(eMarketer)
・$ 2.1 billion behavior targeted ad market by 2008(LUON blog)
・Yahoo! Japan、企業別月間利用者数が4,000万人を突破(Nielsen//NetRatings)
・行動ターゲティング広告のサービス拡充について(Yahoo! JAPAN - プレスリリース)
・Yahoo!ニュースが断トツなのに更なる強化へ,読者参加と外部リンク機能を本格導入(1)(メディア・パブ)
・Atlas Research Discovers that Consumers Convert at Much Higher Rates When Viewing Ads Across Multiple Web Sites(Atlas)