世界のニュースメディアの利用動向を知るのに格好のレポート「Digital News Report」が、今年もロイター(Reuters Institute)から発行された。
米大統領選のトランプ当選や英国のEU離脱に端を発して、この1〜2年、ニュースメディア業界は大荒れに荒れた。それだけに今年のレポートの発行を待ち構えていた人も多かったのではなかろうか。
まず、今年の調査について。今回は2018年1月末〜2月始めに、37か国のオンライン・ニュース・ユーザー7万4000人を対象に行われた。各国から、少なくとも2000人がアンケート回答者として参加した(台湾だけは1,013人)。日本人回答者は2033人。調査はYouGovが実施。
参加した37か国は次の通り。ニュースメディア産業がある程度整備されている国といえる。内訳は、欧州が24か国、アメリカ(北米+南米)が6か国、アジア・パシフィックが7か国。
UK 、Austria、Belgium 、Bulgaria、Croatia、Czech Rep、Denmark、Finland、France、Germany、Greece、Hungary 、Italy、Ireland、Netherlands、Norway、Poland、Portugal、Romania 、Slovakia、Spain、Sweden、Switzerland 、Turkey、US、Argentina、Brazil、Canada、Chile、Mexico、Australia 、Hong Kong、Japan、Malaysia、Singapore、South Korea、Taiwan
インターネットも普及している国々で、いずれも国民の60%以上がインターネットを日常的に利用している。調査が難しい中国やロシアは含まれていない。またアフリカや中東の開発途上国も入っていない。
分散型メディアへの流れが止まり、逆もどりするかも
この1年間の混沌としたニュースメディア環境の中において、多くのニュースパブリッシャーがより高品質のコンテンツを生み出し、有料購読者増に励んでいることを、ロイターとしては訴えたかったようだ。
そこでレポートの冒頭でも、ソーシャルメディアやアグリゲーターを介した分散型メディアの流れにブレーキがかかる一方で、多くの国でサブスクリプションの流れが強まっていると主張している。分散型メディアと言っても、実際には断トツのシェアを誇るFacebookが参照トラフィックの大半をもたらしている。
そこで、世界各国のニュースユーザーがニュースソースとしてFacebookをどれくらい利用しているかを調べた。その結果が図1である。先週にFacebookを介してニュース記事に接した回答者の割合を示している。多くの国では40~60%の国民が、Facebookをニュース記事と出会う場として利用している。10%を切っている国は日本だけで、そのお陰で日本のニュースパブリッシャーは昨今のFacebook騒動にほとんど巻き込まれないで済んでいる。ただしFacebookが仕掛けた世界同時進行の新しいパブリッシングの流れから、蚊帳の外に置かれがちであったが・・。
ともかく、世界中のほとんどの有力ニュースパブリッシャーはソーシャルプラットフォームであるFacebookへの依存を高めてきた。併せてFacebookを介してニュース記事と接するユーザーも増えていったのだ。ところがフェイクニュースや個人情報不正流出などのFacebook騒動が燃え盛るに伴い、Facebookを介してニュース記事と接するユーザーが減り始める国が現れ始めた。その中で目立ったのが、メディア大国の米国。前年に比べ9%も減っただけに、分散型メディアが曲がり角に差し掛かっていると言い張るのも頷ける。
(ソース:Reuters Institute)
図1 Facebookを介してニュース記事と接するユーザーの割合
図1の調査対象の27か国のうち18か国で、昨年に比べFacebookを介してニュース記事と接するユーザーの割合が減った。Facebookを含むソーシャルメディアを介してニュース記事と接するユーザーの割合が、ブラジル、米国、英国、フランス、ドイツの各国でどのように推移しているかを図2に示す。2年前まではソーシャルメディアをニュースソースとして活用するユーザーが各国で揃って増え続けていたが、昨年あたりから壁に突き当たっている。米国も2013年の27%から2017年の51%へと一本調子で増え続け、分散型メディア・ブームを巻き起こしたが、2018年には一転して45%へと転落した。
(ソース:Reuters Institute)
図2 ソーシャルメディアをニュースソースとして利用しているユーザーの割合の推移。
ニュースソースとしてFBを活用するユーザー数がグローバルに減り続けている
ニュースパブリッシャーは過度なFacebook依存を避けるためにも、他のソーシャルメディアにも記事を多く投稿するようになってきている。このため、ユーザーもニュースソースとして利用しているソーシャルメディアの種類が増えてきている。図3に、6種のソーシャルメディア別に、どれくらいのユーザーがニュースソースとして利用しているかを示している。Facebookをニュースソースとして利用している人が圧倒的に多いのだが、2年前(2016年)の42%から今年の36%へと急落下しているのが目につく。
(ソース:Reuters Institute)
図3 ニュースソースとしてソーシャルメディアを利用した人の割合。6種のソーシャルメディア別の割合の推移を示している。主要12か国(米、英、独、仏、日本など)の回答者を対象。2年前から、Facebookだけがニュースソースとして活用しているユーザー数を減らしている。
一般の用途でソーシャルメディアを利用している割合を、ソーシャルメディア別に示したのが図4である。興味深いのは、ニュースソースとしてFacebookを活用している人がはっきりと減っていたのに、一般の用途でFacebookを利用している人の割合は65%と天井を打ちながらも減っていないのだ。明らかに、日常的にFacebookを利用しているユーザーもニュースソースとしては使いたくないという人が増えてきている。つまりフェイクニュースなどの信憑性に欠けるニュース記事と接する機会が増すFacebookを避けようとしているのだろう。
(ソース:Reuters Institute)
図4 多目的にソーシャルメディアを利用している人の割合。
海外の有力ニュースパブリッシャーの多くは、Facebookからの流入トラフィックに大きく依存していた。ところが信憑性のないコンテンツがFacebook上に氾濫していると同社 への批判が高まるにつれ、その対応としてFacebook自身もニュースフィードのアルゴリズムを変更してきている。ニュースフィードに流すニュースパブリッシャーの記事数を絞り込んできており、その結果として図5に示すように、Facebookから
ニュースパブリッシャーへのトラフィックは減ってきている。ニュースパブリッシャーにとって、否応なしにFacebookへの依存を減らしていかなければならない。
(ソース:Reuters Institute)
図5 ニュースパブリッシャー・サイトへの外部トラフィック(参照トラフィック)のうち、Facebookからのトラフィックが占める割合。
広告売上で成り立っているFacebookからすれば、ニュースパブリッシャーの編集記事を優先してまでニュースフィードに流すことはしたくない。ニュースパブリッシャーのFacebook離れが起こっても構わないのかもしれない。図3に示したように、ニュースソースとして利用されるソーシャルメディアとして、Facebook以外にWhatsApp、FB messenger、Instagramが浮上しているが、いずれも同社傘下にあるからだ。
北欧を中心にサブスクリプションが浸透
ニュースパブリッシャーのFacebook離れが進むと、デジタル広告売上が伸び悩む心配が持ち上がる。すでに昨年半ばあたりから、Facebookからの参照トラフィックが落ち込むのに伴い広告売上が減り続け、休刊に追い込まれた新興のニュースパブリッシャーも出てきた。オンラインニュースサイトを支えていくには、デジタル広告売上だけでは不十分で、ユーザーからのサブスクリプション料金や会員料金、寄付金に頼る動きが軌道に乗ろうとしている。
図6に示すように、北欧を中心に各国で有料コンテンツをユーザーが着実に増え続けている。課金方式にも工夫が凝らされている。例えばノルウェーの新聞サイトでは、ハイブリッド課金モデル(月間の上限ページビュー+いくつかのプレミアムコンテンツ)を採用して、成功しているという。
(ソース:Reuters Institute)
図6 有料のオンライン・ニュースコンテンツを利用している割合。直近の1年間だけでも、有料コンテンツユーザーが北欧を中心に増え続けている。
◇参考
・Reuters Institute Digital News Report 2018(Reuters Institute)